一年に一度。大好きなキミと。

CHOPI

一年に一度。大好きなキミと。

 「ねぇ、浮気したらほんとに、絶対に私、許さないからね?」

 「いや、あの、会えないっていう条件的には一緒なんだけど……」

 「許さない、からね?」

 ……全く、毎年この夫婦は飽きもせず同じ喧嘩をして別れるな。


 一年に一度だけ。7月7日の夜に会うことを許される夫婦・織姫と彦星。そしてその二人をつなぐ白鳥のボク。みんな忘れがちだと思うけど、この二人、カップルじゃなくて夫婦である。結婚して遊び惚けてたら、神様から怒られて別居させられているけど、紛れもない夫婦である。


 一年に一度、数時間しか会えないんだったら、その時間を名いっぱい楽しもうって思わない? 少なくともボクはそう思うタイプ。だってさ、また会えるの一年も先なんだよ? 楽しい時間過ごせなかったらもう、最悪でしかないよね。


 なのに、この夫婦ときたら。最初の数時間はまぁ、いい。お互い近状報告して(と言っても、ほとんど織姫さまの一方的な一年分の話を彦星さまが聞いている。積もりに積もっている話を『聞いて、聞いて!』と無邪気に話している織姫さまは、正直まぁカワイイ)天の川を二人で眺めてデートをして……。夫婦ったって会えるのは一年に一度。まだまだ新鮮さも持ち合わせているから、その辺は結構順調なんだけれど。


 如何せん別れ際がいつも喧嘩腰になる織姫さま。大好きな人とまた一年離れるのが嫌なのと同時に、どうやら浮気とかが心配みたいで。毎年毎年、白んでくる東の空を眺めながら、別れ際におんなじ言葉を繰り返している。そんな織姫さまにいつもタジタジの彦星さま。でも、ボクは知っている。二人が別れた後のことを。


 お互い背を向けて、また一年後。そう言って。織姫さまに背を向けた彦星さまはいつも、眉を寄せながらそれでも口元はユルユルで。

 「ははっ、相変わらず心配性、だよなぁ」

 そう言ってほんの少し寂しそうに、だけど満足げな笑顔で言うんだ。

 「浮気なんてするわけないじゃない。ずっとキミのことを考えて過ごしているうちに、気が付けば一年経っているんだもの。……あれだけ『大好き』って言葉でも行動でも示されて、幸せ以外の何だって言うんだ」

 ――他が入るスキなんてない。数あるうちの星のひとつ。キミじゃないと意味がないんだ。なぁ、ベガ。


 去っていく彦星さまの背中を見て、『今年も少し言い過ぎたかしら……』なんて呟く織姫さま。

 「……でも、仕方ないじゃない。あんなにかっこよくて、優しくて、良い人なんて他に私、知らないんだもの」

 一年に一度じゃ物足りない。本当はいつも一緒が良い。だけどもしかすると、その物足りなさが実はちょうどよかったりするのかもしれない。なんて最近は少し前向きに考えられるようになってきた。次にあなたに会えたら、今度は何をお話ししよう、そう考えているとあっという間の一年だから。

 ――たくさんある星の中でただ一つ。私が心から大好きだと言えるのは、他でもないあなただけなの。ねぇ、アルタイル。

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