死匠
商社城
死匠
親父が、ベットの上で、ぼおっと座っている。
画像は鮮明ではないZOOMだ。声はミュート。
そう、親父は「ボケた」ので施設に放り込んだ。
俺に妹が居るが子育てに追われている。
母が死んだ時、長男である俺は、おやじを引き取らず、老人ホームに入れることに。
5-6年前までは、親父は、老人ホームに入るのを相当嫌がっていた。
それでも説得させる為に、個室のあるいい部を見つけたが、2-3年は待たないといけない。
この待ちって、マンションとは違う訳で、現在の住居人の死を待つということで、ここんとこ、医療の発達で、2-3年どころか、何年待つのか?分ったもんじゃない。
幸い、親父は、痴呆(ボ)けた。
安価な老人ホーム入居資格には充分な要素が揃った(笑)。
この、ZOOM映像サービス。基本は、親父に見舞いというか、尋ねるってことはしないってこと。親父の財産を管理、親父の通帳から契約通り金額が引き落とされているか、確かめるだけ。
ZOOM映像サービスは、親父を訪問することはしない不肖な息子の、中途半端な罪滅ぼし。俺が老いたら、老人ホームの入居は断固嫌だが(笑)。
だから、痴呆(ボ)けないよう、普段から、健康な身体をと、ジムに通っている。酒も、飲んでいるが(笑)。
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ベッドにぼおっと座っている父は、自分が今、施設にいることも、痴呆(ボ)けていることも、いや、そもそも自分が老人であることも認識していない。
介護士が入ってくる。背は低く、美人とはいえないが、一生懸命な、真面目で、内気な、感じの娘。「おじいちゃん、お茶いれてきましたよ」
「ありがとうございます!ミキちゃんがいれてくれるお茶が一番美味しい。ありがたい話です。仏様に感謝しなきゃいけません。本当に感謝します。ありがとうございます。こんな幸せなことはありません。」
と手を合わせる。介護士はミキという名前ではない。ミキは、父の娘、つまり俺の妹のこと。
それからまた、ベットで、ぼおっとし始める。
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その夜、強盗が入った。2組だ。
職員は、容赦なく全員撃ち殺された。部屋に入り、物色する。
皆、痴呆(ボ)けているから、難しい作業ではない。
親父は、消灯したというのに、横にならず、ずっとベッドにぼおっと座ったまま。
何か、物音が聞こえる。
何ヶ月ぶりかに、自分の意志で立ち上がる。
足取りが、軽く感じる。強盗2人が暗い廊下の向こうから親父の部屋に向かってくる。親父は、この二人に対し、何かを感じた。
強盗二人は、親父の部屋に入り、明かりをつけ、親父が老人であると確認すると、
無視を決め込み、警戒せず
親父の横を通り過ぎた途端、二人とも、腹を抱えうずくまる。
親父は、ただ、ぼおっと立っているだけ(に見える)。
うち1人は泡をふいて、立ち上がれない。
もう一人は、傷??が浅かったのか、腹を抱えながらも立ち上がり、
親父に銃口を向ける。
が、親父は、ふらふらと強盗近づき、銃は2発撃ち放たれたが、
親父は妙な所作を行う?銃は全く当たらない。
親父は、一瞬にして銃を取り上げ、強盗犯の頭を打ち抜いた。
血まみれで倒れる強盗、
親父は手慣れた手つきで銃を持ち、・・・・この老人ホームから出て行った。
・・・・
次の日の昼、警察とマスコミがこの老人ホームを取り囲む。
俺が事件を知ったのは、会社で昼のニュースを見たときであった。
ZOOMなど確認はしていない。
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事件の場所から、遥か離れた公園で、親父は座ってぼーっとしている。木枯らしが吹き始め、犬と子供がじゃれあっている、普通の公園。
親父は、自分が誰で、どうやってここに来たのか、認識がない。自分が痴呆症の老人であることも、そして、
気を自由に操り、人間離れした能力を手に入れたことも。
そんな親父をじっと見ている人物がいる。その人物は、驚いて呟いた
「ししょう(死匠)、、、」
死匠 商社城 @shoushajoe
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