三話 無事に送り届けましたとさ。


 目的のライランド・シティに付いた頃には、空は静寂の星空に覆われていた。

 町を囲う様に鉄条網が敷かれた防衛線が特徴的な、このライランド・シティ。

 魔物の襲撃が日常茶飯事らしく、石などの防壁で町を囲うよりも鉄条網で囲い、襲撃の度に兵士が対応する事の方が効率的らしい。

 メナリ様が門番と話している間、俺とサクラはウォーレンさんからライランド・シティの雑学を聞いていた。

 

「この町の領主をしているライランド伯爵家は、帝国貴族の中では古株の貴族でありましてな。王家から絶大な信頼を置かれた家であります」

『へぇー……』


 ウォーレンさんの話にサクラが相槌を打つ。

 なんでも、このライランド・シティを治める伯爵家は、建国当初から王家を支えていた貴族らしく、王家で何か困りごとが起こると一番最初に頼られる貴族家らしい。

 なるほどなぁ。

 ん……? メナリ様は王族で、王家から信用されているライランド家の領地に向かう途中で襲撃に合ったって事だよな?


「なあ、ウォーレンさん。もしかして、メナリ様は何かから避難していたのか?」

「んん? どういう事かね?」


 俺の言葉に疑問を浮かべるウォーレンさん。

 そんなウォーレンさんに向けて、言葉をつなげる。


「だってさ、そんなに王家に頼りにされている貴族の領地にメナリ様は来てたんだろ? で、ウォーレンさん達の騎士って強そうじゃん? そんな騎士達が負ける程の戦力の敵が襲ってきたんだろ?」

「うーむ……」


 ウォーレンさんは考えるような声を出しながら、腕を組んだ。

 しばらく考えるような素振りをしていたウォーレンさんは呟く。


「実は、ワシも分からんのだ。この遠征の目的も詳しく教えてもらって無いのでな」


 ウォーレンさんから出てきた言葉に俺は驚いた。


「ま、まじっすか……」

「すまんな。メナリ様とワシらを心配してくれる心には感謝をするよ」


 ウォーレンさんとそんなやり取りをしていると、メナリ様が門番との話を終えたのか、こちらに歩いてきた。

 

「話は通りました。ライランド伯爵は事態の説明を求めているそうです」


 メナリ様は俺たちを見て言った。



●●



 夜のライランド・シティは静かで、電気でもなくガスでもない不思議な街頭だけが辺りを照らしている。

 誰も居ないレンガ造りの町並みを街灯が照らす様は、なんだかダークファンタジー映画のワンシーンだ。


『雰囲気出てるねぇ』

「ああ」 


 スマホ越しのサクラの呟きに、俺は同意する。

 前を歩くウォーレンさんの後に続きながら、ライランド伯爵の屋敷を目指して歩くこと数十分、俺たちの目の前には、赤レンガ造りの大きな屋敷が現れた。

 

「赤レンガの建物って、かっこいいよな」

『わかる』


 そんな言葉を呟く俺たちだったが、先に正門を潜るウォーレンさん達を見て、遅れない様に付いていく。

 一行が屋敷の玄関の前まで来ると、玄関の扉が勢いよく開き、中から貴族の服装のふくよかな男性が飛び出してきた。


「メナリ嬢!よくご無事で!」


 メナリ様の手を少し乱暴にも感じる程に握り、感極まって興奮した様子の男性。

 その男性にメナリ様は答える。


「ええ、ライランド伯爵。いろいろな奇跡が重なり、今こうして到着できました」


 ライランド伯爵と呼ばれた男性は「ささ、こちらへ」と言って、メナリ様を屋敷へ案内し、俺はそれに付いていく。


 屋敷に案内された俺たちは、メナリ様とは別の別室へと連れられた。

 美しい調度品が沢山置かれた部屋。


『うわぁ…… 高そうな物がいっぱいだねぇ!庶民のユウタには縁遠い景色でんなぁ!』


 そんな煌びやかな部屋に居心地の悪さを感じている俺を、サクラが茶化してくる。

 

「うっせぇ、お前だって縁遠い景色だろうが」

『物理的に遠いので他人事でいられるわー』

「そうかい……」


 そんな他愛のない事を言い合って十数分、俺たちが居る部屋の扉が開き、ウォーレンさんが入ってきた。


「待たせてすまない。ライランド伯爵への説明に時間がかかってしまってな。伯爵が王家に代わり、正式に報酬を渡すそうだ。ついてきてくれ」


 ウォーレンさんは、そう言って俺たちについてくるよう言う。

 部屋を出て、俺はウォーレンさんに案内されるがまま、絨毯が敷かれた長い廊下を歩いた。

 金の彫刻と白の塗装がされた木製の扉。

 その扉の前で立ち止まったウォーレンさんは、ドアノブを手に取り「こちらです」と俺たちを招き入れる。

 俺たちの視界に入ってきたのは大理石のテーブルを囲むソファーと、それに腰かけている、先ほどメナリ様と握手していたレイランド伯爵。

 レイランド伯爵は笑顔で俺たちを手招きする。 


「どうぞこちらへ!」


 俺はレイランド伯爵に促されるまま向かい側のソファーに座り、レイランド伯爵はにこやかに、先ずは感謝の言葉を述べ始める。


「この度は我らの姫君をお救いくださり、まことにありがとう!ガイラ帝国貴族として、ガイラ帝国を代表して感謝の意を示すよ!」


 そう言ってレイランド伯爵は頭を下げた。


「さて、この度の報酬は今準備しているところだから安心してほしい。 ……して、君は遠くの仲間と遠隔でつながっていると聞いたが、それは今もつながっているのかね?」


 俺はレイランド伯爵の質問に答える。


「ああ、多分つながっていると思いますよ。そうだろサクラ?」

『つながっているよー』


 俺が聞くと、サクラはスマホから声を出す。

 スマホから出力されるサクラの声に、レイランド伯爵は驚きの声を上げた。


「なんと!本当にすごい!これがあればいつでも遠くの者と連絡が取れる!して、この様な物をどこで……?」


 こまったな、どう答えたものか。

 このスマホは神様が用意してくれた物だから、正直に答える訳にはいかないだろう。

 俺が返答に困っていると、サクラが俺の変わりに答えた。


『これはねぇ…… 遺跡で見つけたんだよね』

「はて、遺跡とな?」

『そう、遺跡。ちなみに、私は遺跡の中で暮らしてるよ』


 サクラは自身が居る部屋を遺跡と言い、そこで俺が見つけたと説明した。

 なるほど。

 あの部屋を古代の遺跡として答えてしまえば、確かに色々説明しやすくなるか。

 サクラのヤツ、昔から機転は回るよな。

 俺の関心を他所に、サクラはレイランド伯爵と話しを続ける。


『ま、そういう訳で、私はユウタの首飾り越しに世界を見てるってわけ!』

「なるほど!つまり、彼が見てる景色を遠隔で共有しているって事ですな!すばらしい!」

『すごいでしょー!』


 レイランド伯爵はサクラの話を楽しそうに聞いている。

 サクラとの会話で、なんとなく彼の趣味がうかがえる気がした。

 レイランド伯爵、彼もサクラと同じでガジェットなどが好きなようだ。

 色々サクラと話しをしている内に、レイランド伯爵は目を輝かせ、まるで少年のような喜びようで、


「決めた!わたくし、古代遺跡の調査に取り掛かりますぞ!」


 と意気揚々と宣言した。

 彼の話曰く、古代遺跡には沢山の古代の遺産が眠っているらしく、それを調査しようとする学者も多いのだそうだが、その古代遺跡は色々な危険なり謎の機械で守られている事が多く、冒険者に調査を依頼しようにも多額のコストと人的リソースから誰も遺跡調査に乗り出さなかった様だ。

 しかし、俺たちの通信デバイスを見て、彼は古代遺跡の可能性を見出したと言う。

 まあ、このスマホなりペンダントは、神様が用意してくれた道具だけども。

 なんだか騙して悪いきがするなぁ。

 

 そんな事を考えていると廊下側の扉が開き、執事が大きな木製のアタッシュケースを持ってくる。

 それを見たレイランド伯爵が話を区切った。

 

「おお、報酬がご用意できた様ですぞ」


 そう言ってレイランド伯爵は俺にアタッシュケースを渡した。


「この度は帝国の一大事にご助勢いただき、本当にありがとう!この御恩は必ず皇帝陛下にもご報告させてもらいまするぞ!」



●●



 あの後、ユウタはレイランド伯爵に宿を一日手配してもらい、その宿で就寝した。

 オレはそれを見てからVRゴーグルを外し、ベッドにボフンと寝転ぶ。

 

 いやぁ、思いのほか大冒険したなぁ。

 ユウタが壊れた豪華な馬車を見つけてから、面白そうな冒険が始まるぞぉと焚きつけてみれば、いやはや……

 陰謀渦巻く大冒険の序章みたいな事になったなぁ。


「にしても……」


 自分の右腕を見る。

 この華奢な少女の右腕が、本当は馬鹿でかい大巨人の右腕って、ちょっと信じられないよなぁ。

 机の上に置いてあるドーム状のミニチュアをベッドから見るが、あれが本来の大きさとの事らしい。

 うーん、実感わかないなぁ。

 まあでも神様の手紙にも書いてあったし、その中に居たユウタのネックレスからも自分が見えたから、事実なんだろうけどさ。


「破壊の権化、恐怖の象徴、終末の女神、ねぇ……」


 神様の手紙と一緒に添付された資料に書かれていたのは、文明や国家最後の日をもたらす恐怖と絶望の存在としての、女神族。

 まあ身長千六百キロメートル以上の大巨人に国土ごと踏みつぶされたら、文字通りに何も残らないだろうなぁ。

 気になる事といえば、前の女神族は別の世界に移動したとの内容。

 なんでも、女神族は様々な世界を渡り歩く事ができるのだそう。

 オレにも世界を渡り歩く能力はあるそうなのだが、ユウタと一緒にいる間は封じているとの事だ。

 間違えて世界を移動しないように、だってさ。

 気が利く神様だよね。

 

「それはそうと、明日は何するんだろう? まあでも、異世界と言えば、冒険者だよねぇ?」


 明日ユウタに言ってみよっと。



●●



 レイランド伯爵が用意してくれた宿屋で一夜を過ごした俺は、町の中央の噴水広場のベンチで腰かけている。

 昨日もらった報酬はサクラの部屋に送ったので盗まれる事は無い。

 ちなみに報酬は百万ゴールドと沢山の宝石だったよ。


 さて…… これからどうしようか。


『とりま冒険者になるのが良いんじゃない?』


 そうサクラが提案してくる。

 ふむ、異世界で冒険者ライフか…… 悪かないな!

 そうと決まれば、冒険者登録だ!


 ということで質問しても優しく答えてくれそうな人がいないか辺り見渡すと、横のベンチで鳩に餌を与えて沢山子分を作っている老爺が居たので話を聞く。

 俺が聞くと、老爺は優しく冒険者ギルドの行先を教えてくれた。

 老爺曰く、わしも昔は冒険者だったんじゃぞぉ? とのことだ。

 老爺が教えてくれた道を進むと、一つの建物が現れた。

 この町特有のレンガ造りではあるが、それでも他の建物とは違う独特の雰囲気を醸し出す建物。

 これこそが冒険者ギルドとの事だ。


 中に入り、窓口に向かう。

 冒険者達は、みんな武器を持っていて強そうだ。

 窓口の受付嬢は俺を見るなり「新たな冒険者登録ですか?」と聞いてきた。

 やっぱり新人感でてるかぁ。


「そうです」


 と答えると、受付嬢は紙とペンを用意した。


「こちらが登録用紙になります。ここに名前と、性別、ここには種族と――」


 受付嬢の言葉通りに記入していく。

 一通り終わると、受付嬢は紙を受け取り、驚いた様子で言ってきた。


「文字が書けるなんて、凄いですね。てっきり今回も代筆だと思いましたよ」


 受付嬢曰く、大体の冒険者は文字が書けないし読めないらしい。

 それどころか、この帝国の国民の識字率は低いそうだ。

 まあ、ナーロッパなんていっても、生活水準は暗黒時代のヨーロッパそのものだからなぁ。

 当然といえば当然か。

 

 登録を済ませた俺は、初心者にオススメらしい薬草採取の依頼をする事にした。

 冒険者ギルドを出て、町の出入り口周辺の鉄条網地帯に生えている薬草を探す。

 俺の周りにも駆け出しと思われる冒険者が、せっせと薬草を集めていた。

 

『あれが、薬草だよ!』


 サクラが俺に教えた位置に生えていた草を見る。

 ふむ、あれが薬草か。

 近づき、膝をついて薬草を採取する。

 なるほど。


「よし、薬草の形は覚えた。取った薬草はそっちに送るわ」

『おっけー』


 そんなこんなで薬草を探しては取ってを繰り返すこと数時間。

 結構な量が溜まったので、報告する事に。

 早速冒険者ギルドに赴いて受付に手渡す。

 受付嬢は驚いた様子で薬草を数えた。


「早いですねぉ。数刻しか経っていないのに、もうこれだけあつめたのですか?」

「ああ、結構いい場所で採取できたみたいなんだ」

「それはそれは、幸運ですねぇ」


 まあ、サクラが生えている位置を教えてくれたのもあるがな。

 そんな感じで手にした金額は二十ゴールド。

 一ゴールドが一USドルぐらいだと考えると、まあ結構な額がもらえたなって感じだ。

 時給換算では少ないが、そもそも物価も高くない世界なので、十分な金額だ。

 ゴールドを受け取り、ホクホク顔で冒険者ギルドを後にする。

 

『初報酬おめでとう!それで、この後はどうするんだ?』

「そうだなぁ……」


 さて、どうしようか。

 太陽の位置は、ちょうど真上くらい。

 そんな時間に宿に帰ってもなぁ。


「とりあえず考えるのは昼飯を食ってからだな」


 街道を歩いていると結構な屋台が開いているのだ。

 まずは何かを食べようじゃないか。

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チートな魔法特化イケメンと超巨大美少女に転生したので異世界で無双します かびふーじ @kabihuzi

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