二話 魔法最強イケメン、大地に立つ。


「ここが異世界…… とりあえず今行ける場所に転移したが、めっちゃ森だな」

『だねー、樹海って感じ。めっちゃ薄暗いじゃん』


 俺の感想にサクラが同意してくる。

 サクラの言う通り、木が高く鬱蒼としている。地面は光が届かないからか、草花は余り生えていない。

 

『危なそうな雰囲気感じたら、ちゃんと帰って来てね? 此処に来る迄に、ちゃんと物資を揃えたとは言え、どんな危険があるか分からないんだから』

「そうだな。気を付けて進むよ」


 心配するサクラに俺は、そう答えて森の中を進む。

 ここに来る迄に、机の上の町で必要そうな物資を買い漁ったとは言え、死んでしまってはどうしようもないからな。

 虫の声しか聞こえない森の中、空を見るが、鬱蒼とする木々で太陽の位置を確認できない。

 つまり、時間も分からないと言う事だ。

 俺はスマホの充電を気にして、液晶を点灯させるのは最低時間だと決めている。

 仕方ないか、サクラに時間を聞こう。


「サクラ、今何時だ?」

『んー? 時間? 今、午後の二時だよ』

「そうか…… 夜までに森を出れれば良いが……」

『そうだね、夜だと何が出るか分からないもんね』


 サクラも思う事は同じらしい。

 そういう訳で、俺は足を速める。

 何時間かは分からないが、結構な距離を歩いた所で、目の前に道が現れた。

 

『結構な広さの道だねぇ』

「だな」


 その道は、車が二台は通れそうな程広い道で、この道が中世ヨーロッパ…… ナーロッパだったか? にしては、広い方の道である事が分かる。

 さて、どっちに進むべきか…… うーむ。

 ランダムに決めて進んでしまっては取り返しのつかない事になりそうだし……


「なあ、サクラ。そっちの環境で、俺の現在位置をマッピングできる機能とかは無いのか?」

『うーん…… ちょっと待ってね?』


 そういってサクラはマイク越しにわかる感じには色々弄り始め、さらには引き出しも弄り始めた様だ。

 しばらく待っていると、マイク越しに何かを見つけた様な声が聞こえて来た。

 マイクの向こうでタイピングの音が聞こえて来た後、サクラから報告が来る。


『ノートパソコンあったよー! 色々弄ってみた感じ、スマホと同じVRゴーグル関連のソフトが入ってるから、何か使える機能が無いか探すね!』


 マイクの向こうからノートバソコンを弄る音が聞こえる。

 そして十数分待った頃、マイク越しに喜ぶサクラの声が聞こえてきた。


『やったよ!そっちのペンダントと連動して、色んな機能が使える様になったよ!』

「例えば、どんな機能だ?」

『今見た感じ…… 現在地確認機能でしょ? 周辺検索機能でしょ? 敵対レーダー機能でしょ? 3Dマッピング機能でしょ? それと…… 遠隔転移魔法機能!』


 サクラから様々な機能が報告されてきた。

 詳細を聞くと、現在地確認機能は、地図上で現在地を確認する機能。

 周辺検索機能は、周辺に指定した物品や生物が存在するか検索する機能。

 敵対レーダー機能は、索敵ビームを回転させて敵対意識が存在する対象を探す機能。

 3Dマッピング機能は、周辺の地形を3Dマッピングする機能。

 そして、遠隔転移魔法機能が、サクラが遠隔で人物や生物や物体を遠隔で、机の上の町にある高層マンションに転移させる機能らしい。


 サクラ曰く、詳細な機能は全部使ってみないと分からないらしいが、今使ってみるべき機能はハッキリしているな。

 

「サクラ、今使ってみるべきは現在地確認機能だな。使ってみてくれ」

『あいあいさー』


 マイクの向こうから、気の抜ける様な返事の後、サクラから報告が来た。


『お、地図と現在地が出たよ! 見た感じ、今向いている方角には『ライランド・シティ』なる町に続いてるよ』

「なるほど、後ろはどうなんだ?」

『後ろはねぇ…… めっちゃ遠い位置に村があるよ。名前は『コラド村』だね』


 後ろには遠い位置に村、前には町か。 

 なら、町に行く以外の選択は無いな。

 これからの行動を決めた俺はサクラにライランド・シティに行くことを告げる。


「ライランド・シティに行くよ」

『そうだね、オレもそれが最善だと思う』


 サクラも同意しているので、俺はライランド・シティに向かって足を進める。

 マイク越しに雑談しながら足を進める事、数時間。

 森を抜けて草原を歩く俺だったが、辺りが薄暗くなってきた頃、目の前に車輪が外れた馬車を見つけた。

 馬車は結構豪華な装飾があり、もしかしなくても面倒事かなーなんて考える。


「おい、あそこに冒険が始まりそうめんどうごとな馬車があるぞ。どうする?」

『面白そうなイベントだー! 見るしかないっしょー!?』

「お前からしたら他人事だもんなぁ。まあ、一応見ていくか」


 警戒しながら馬車の近くに行くと、沢山の護衛の騎士と思わしき死体が沢山横たわっており、馬車の中には高貴な身分に見える青い長髪の美少女が、胸に沢山の矢を受けて亡骸となっていた。


 俺は葬式の時の、ばあちゃん以外の仏様を見たのは始めてだ…… 

 自分でもかなり動揺しているのが分かる。


「さささサクラ、どうしよう!? 死体がいっぱいだ……!」

『おおお落ち着こううう。そそそそうだ! ししし深呼吸しよう!』


 マイク越しのサクラの声も、ものすごい動揺している事がうかがえる。

 二人揃って深呼吸をする。

 何度か深呼吸すると少し落ち着いた。

 俺は、取り合えずこの後どうするか、サクラに提案を聞く。


「それで、サクラはこの後、どうしたら良いと思う?」

『うーん……』


 悩むサクラの声がマイク越しに伝わる。

 しばらく悩んだ末、サクラから提案が来る。


『魔法で生き返らせるとか?』

「そんな事、出来るのか?」

『知らないよ、そんな事』

「おい」

 

 自分で言っておきながら、その反応かよ。

 結構投げやりな提案だったのかと落胆しそうな俺だったが、サクラはそれを察してか俺に言う。


『でもさ、そっちは全属性の魔法を使える上に、魔力だって多いのだろ? それなら、それらしい魔法名言って、生き返るイメージで魔法発動させたら、本当に生き返るんじゃね?』

 

 確かに…… チートあるあるで行けそう……?

 サクラの言葉に、俺は内心で同意する。

 俺は死体を見回し、亡骸の騎士の中から、失敗しても責任が少なそうな人を探す。

 騎士の亡骸の一つに、ボロボロに使い込まれた鎧を着た老人の騎士を見つける。

 他の騎士がキラキラした鎧なのに対し、その老人の鎧や兜は亡骸使い込まれ、傷だらけの鎧だった。


「この死体なら、失敗しても責任は少ないかな……?」

『かもね……』


 そう言いながら、俺は傷だらけの鎧を着た老人の騎士の亡骸に向けて、魔法を放つ。

 魔法の放ち方は机の上の町で予習済みだったので、魔法を放つ感覚を思い出しながら、俺は魔法名を唱えた。


「リザレクション!」


 俺の手から神聖な印象を受ける光があふれ、老人の騎士を包む。

 光が収まると、俺は即座に亡骸から離れる。

 目を開けた瞬間襲ってくるとか、そういう危険に備えての行動だ。

 完璧に生き返ったとしても、何をしてくるか分からないし、モンスター的な生き返り方をする可能性だってある。

 老人の騎士から十分距離を取って観察する。


「うっ…… どうなって……? 私は敗北したはず……?」


 そう言いながら、老人は起き上がる。

 言葉的に、モンスターになったりはしていない様だ。

 俺は、そんな老人に話しかける。


「あのー…… お体の具合どうでしょう……?」


 俺に話しかけられて、驚いた様子で辺りを見回した後、他の死体が持っていた武器を拾う老人の騎士。

 その行動に、俺は驚きながらも敵意がありませんと、わかりやすくする為に両手を上げた。


「誰だ!」

「落ち着いて! 敵じゃありません!」


 俺の言葉に、老人の騎士は訝しげに、その青い瞳で俺を観察していたが、やがて剣を下す。

 

「お主は何者じゃ?」


 老人の騎士は俺に問いかけてきた。

 よし、とりあえず斬りつけられなかったな……

 

 老人の問いかけに対し、俺は正直に答える。


「お、俺はユウタって言います…… 精霊族です……」

「精霊族? ……ふむ。確かに精霊族の特徴をしているな」


 まっとう正直に答えた俺。

 そんな俺を見て老人は暫し考える様子を見せた後、別の問いかけをしてくる。


「なぜ、ワシは生きておるのじゃ?」

「……俺が、生き返らせました」

「生き返らせた、じゃと?」

「はい、だからこそ…… お体の具合はどうですか? 何か、死ぬ前と変化が…… とか」


 この問いかけも正直に答える俺。

 無駄に嘘をついて隠すと面倒になりそうだ、てのが理由。


 問いかけの後に、老人の騎士に身体の具合を聞く。

 老人の騎士は身体を動かし、さらに傷口があった場所を見始める。

 しばらく自身の身体を眺めた老人は、呟く。


「傷が一切無くなっておる……」

 

 そう言うと、老人は俺に近づいてくる。

 警戒しつつも敵ではないの意を伝える俺に配慮してか、溜息と共に剣を捨てる老人。

 老人は俺の傍に来て、頭を下げた。


「なぜワシだけを助けたか分からんが、感謝する。これで、この惨状を陛下に報告できる。ありがとう」

「いえいえ…… 初めて使う魔法だったので、見た目で失敗した時に責任が少なそうな人を選んだだけです……」


 俺の言葉に、なんとも言えない表情で俺を見つめてくる。

 そんな顔で見ないでくれよ……


「ああ! 全員を生き返らせるとしても、初めて使う概念の魔法だったので…… それで、人を選びました!」


 言い訳をする俺に、老人は本日二度目の溜息をついた。


「そうか…… 他の者も生き返らせてくれるのか?」

「はい。最初からそのつもりでしたので」


 そんなこんなで、俺は他の者達も生き返らせて、馬車の中の美少女も、矢を抜いてから生き返らせた。

 皆揃って驚いた表情で己と他の者達を見つめ合っている。

 まあ、死んだと思ったのに、目が覚めてなんともなかったら、驚くだろうな。

 皆が驚き言葉を失っている中、馬車の中から矢を受けていた美少女が出てきた事により、騎士たちは我に返った様に整列する。

 

「ウォーレン部隊長…… これはいったい……?」


 馬車の中から出てきた美少女が、老人の騎士に言う。

 ってか、老人の騎士って部隊長だったの!?

 まさかの最初に生き返らせた騎士が部隊長だった事に驚いていると、老人の騎士は兜をとり、金髪のオールバックの髪型をあらわにした。

 

「メナリ姫殿下。ここにいらっしゃる、ユウタ殿が蘇生魔法で生き返らせていただきました」

「蘇生魔法で……?」


 メナリ姫殿下と呼ばれた美少女は俺を見ると、こちらにやってくる。

 俺のすぐ前に立ち、その青い瞳で俺を見上げてくる。

 近い近い…… てかこの子、青い髪と青い瞳で奇麗だなぁ…… 白人の肌も相まって美しい。 

 そんな阿呆な事を考えていると、メナリ姫殿下と呼ばれた美少女は「ふぅん」と相槌をついたかと思うと、一歩下がり俺にお辞儀した。


「この度は私達を死の淵から掬い上げて頂き、ありがとうございます」


 そう言いながらメナリ姫殿下と呼ばれた美少女は、自身の血が付いたドレスのスカートの裾を持ち、お辞儀をした。


「いえいえ、出来るかも知れなかったから、やっただけです……」


 俺はそう言いながら、軽く頭を下げる。

 それを見た、目の前の美少女は、少し関心した様子でこちらを見てくる。


「お辞儀をお辞儀で返しますか…… ある程度の社交の心得があると見れますね」


 そういって、美少女は俺に自己紹介を始めた。

 

「私はガイラ帝国の第三皇女、メナリ・ガイラールです。メナリとお呼びください」

「どうも。俺はユウタと申します、メナリ様」


 美少女、メナリ様の自己紹介に、俺も自己紹介をする。

 そんな俺にメナリ様は少し笑う。


「フフフッ、蘇生魔法なんて使うような方とは想像もつかない程の、シャイな方ですね」


 ……うるせいやい。

 心の中でそう言いながら、俺は目を背ける。

 俺は童貞なんだぞ。

 美少女なんて見慣れてないんだよ。

 童貞舐めんな!


「ユウタ様、どうか私の頼み事を聞いては貰えますか?」


 メナリ様は真剣な表情で俺に頼み事をしてくる。 

 どんな頼み事だろう?

 って、護衛の頼み事しか無いよね……

 俺はある程度、その頼み事を予想していたが、やはりメナリ様の頼み事は護衛だった。


「ユウタ様は蘇生魔法を扱う程の実力の持ち主なのですよね? よろしければ、ライランド・シティまで私とご一緒しては頂けませんか? 報酬は弾ませていただきます」


 そうメナリ様は俺に言う。


 うーむ…… どうするべきか。

 問題は、俺一人の実力じゃ守れないだろうからなぁ。

 まあ、護衛を受けるにしても、受けないにしても、俺一人の一存で決めるのは良くないよな。 


「あの、俺の仲間に相談していいですか?」

「仲間ですか? あなたはお一人では……」


 そう言ってくるメナリ様に、俺は髪をかき分けて右耳のインカムを見せた。

 不思議な物を見る目でメナリ様は俺の右耳に付いたインカムを見てくる。

 見た事が無いものなのか、メナリ様は俺に聞いてくる。


「ユウタ様…… それは?」

「これは、なんて説明したらいいか…… 簡単に言うと、遠くに居る者と通話ができる道具です」

「なるほど…… それでお仲間様は、どちらに?」

「ものすごい遠いところです」


 よくわからないって顔のメナリ様に、詳しく説明する。


「俺の仲間は、このネックレス越しに旅を見ているので、俺の一存で決めてしまうのは余りよろしくないかなと……」

「ああ、なるほど…… それなら、お仲間様とご相談お願いします」


 メナリ様はそう言いながら、部隊長の騎士…… ウォーレンさんの下に行った。

 俺はそれを見ながら、サクラに問いかける。


「サクラ、見ていたか?」

『んー。見ていたよー』


 マイク越しのサクラの声を聴き、ホッとしながらも、本題に入る。


「で、受けるべきかな?」

『受けたほうがいいんじゃない?』

「受けたほうがいいって、どういう事?」


 受けるべきか受けないべきか聞いたら、受けたほうがいいと言う、まるで俺らには拒否権が無いと聞こえるような返答が来た。

 どういう意味か分からない俺だったが、それを察してかサクラは説明してくる。


『だって、皇女って言ってたから、王族って事でしょ? 断ったらどうなるか……』

「なるほど」

『それにさ、遠い場所と通信しながら旅をしているって言ったからか、見た感じ大分怪しまれてるよ』

「え? マジで?」

『まじで』


 俺はメナリ様を見る。

 メナリ様は俺を見ながら小声でウォーレンさんと会話していた。

 うーん……

 確かに警戒されているなぁ。

 

『てわけで怪しくないよアピールの為に、オレの声をスピーカー出力にする事をお勧めするよ』

「なるほど、秘密の会話をしてませんアピールだな?」

『そういう事』

「わかった」


 俺はメナリ様の下に向かう。


「お仲間様とはお話されましたか?」

「はい、話した結果。受ける事にしました」

「それは良かったです」


 あからさまな作り笑顔で言うメナリ様。

 めっちゃ警戒されてるなぁ。

 

「俺の仲間と話した結果、俺だけと通話しながらだと、余り良い印象を与えないだろうとの事なので、俺の仲間の声を外に出す事にします」

「……はい?」


 疑問を浮かべるメナリ様を他所に、俺はインカムを外し、ポケットの中からスマホを取り出した。

 

「それは……?」


 俺は通話画面のスピーカーのボタンを押した。


『……ああ、ああ。聞こえますか?』

「まぁ! 板から声が聞こえて来ましたわ!」


 驚いた声を出すメナリ様と、安心した様子のウォーレンさん。

 整列している他の騎士達もメナリ様同様、驚いている様子だ。

 そんなに驚かれるとは思っても居なかったよ。

 苦笑いをする俺を他所に、マイク越しにサクラが自己紹介をする。


『聞こえている様で安心しました! お…… 私はサクラと申します! お見知り置きを!』

「はい、私はメナリ・ガイラールです!よろしくお願いします!」

『よろしくー!』


 驚きからか、声が大きくなっているメナリ様。

 てか、サクラ…… 一人称を私って……

 少し笑う俺を気にもせずにサクラは話を続ける。


『私とユウタの会話が他者に聞こえない事が、余り良い印象を与えてる様子ではなかったからね。声を出す事になったよ』

「……お気を使わせたみたいですみません」 

『いいよいいよ。そっちは非常事態みたいだからね。私達は、ある程度は理解するよ』

「ありがとうございます」


 サクラの言葉に、メナリ様は感謝の意を伝えながら、スマホに向かってお辞儀をする。

 これで疑いの目で見られながらライランド・シティまで移動とはならなくなった筈…… だよね?

 緊張の解けた様な雰囲気が出ている中で、先ほどまでサクラとメナリ様のやり取りを遠くで見ていたウォーレンさんは、少し急いだ様子で会話に割って入ってきた。


「ご協力が決まったなら、急ぎましょう。もう、日が暮れています。一刻も早く安全な町まで行く必要があります」


 そういうウォーレンさんに、メナリ様は同意する。


「そうですね、夜には魔物も多くなると聞きます。馬車も無くなった今、急ぐ必要がありますね」

 

 メナリ様の言葉を合図に、俺たちはライランド・シティに急ぎ足で向かい始めた。

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