拝啓 大好きな名前も知らない君へ

ぐらにゅー島

きっとこれは届いてはいけないラブレター

拝啓 名前も知らない君へ


お久しぶりです。…なんて言ってみて。

君とは会ったこともないのに変かなぁ?


始めて君からフォローされたとき、「不思議な名前だなー」って思ったんだ。

まさか、この名前をこんなに好きになると思わなかったよ?


最初は趣味が割と合うなーって思ってた。

でもさ、少しずつ話すうちに趣味だけじゃなくって考え方とかまで似てるんだって気づいてしまったんだ。


それはちょっと、怖くなってしまうくらいに。

でも、そんなところにキュンとした。


君はとっても不用心な人だった。

使ってる電車とかネットに上げちゃダメだって!


でもさ、でもさ。

毎日同じ電車に乗ってるかもって知っちゃって。

君がこの世界に存在するんだって実感があったんだ。


私が毎日電車乗る時に、鏡をチェックしちゃうのはご愛嬌です。


私は絵を描くのが好きだった。

君がみたいって言うから見せたこともあったよね?


他の人に見せたら「凄い!天才⁉︎」って褒めてくれるから、君にもそう言ってもらえたら幸せだった。


あの時はもう君のこと意識しちゃってたのかも。


私のところに君からのメッセージが届いたと、ケータイ電話が歌い出す。

にやける口元を隠して、画面に目を落とす。


画面いっぱいに映る、引くほど長い文章。

私のことを三次元リアルで知ってる友達が気づかなかった。私の届けたかった、絵にかけた思いを二次元ネットでしか知らない君が気づいてくれた。


それが、とっても嬉しかった。

目から涙が溢れて視界が歪んでしまったからさ、

しっかり君からの活字を読むことができたのはもっと後のことだったけど。


なんで、君を好きになっちゃったんだろう?

こんなに君が私の心を占めてしまうなんて…。


「カッコいいです!」

なーんて。思わせぶりな女の子ならどうでもいい人にも言うでしょう?


そんな言い訳をしながら、君にそんな文章を紙飛行機に乗せて送る。


あー、もう。嬉しいだなんて、言わないでよ。

私に出会えて良かった?そんなこと言われたら勘違いしちゃうな。意地悪。


きっと、君とは両思いだったんだね。

君のこと、私はあまりに知らないし、君も私のこと知らないだろうけど。

それでも君に惹かれてしまった。


君もきっと両片思いだって気づいてるでしょ?

なんで告白してくれないのかなぁ。


じゃあ、わたしから告白してみようか?

うーん。君と、私の好きなラブコメアニメのヒロインって告白した女の子の振られる率100%なんだけど…。


そんなことを考えて、君からのメッセージを待ってしまう。


本当はさ、怖いんだ。

会いたいし、もはやお付き合いを前提に結婚してほしい。

でも、君と出会ったのはネットだから。


もしかして、君は私に本気じゃないかも。

ネットだから、テキトーなこと言ってる可能性だってある。

素敵な君のことだもん。実はもう、彼女いたりして。


…考え方が似てる二人だから、おんなじ悩みを持って告白できないのかもしれないし。



だから、ここにラブレターをしたためよう。

君にはきっと届かないけど。

本当は、この気持ちが届いてほしいなって。


かしこ






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拝啓 大好きな名前も知らない君へ ぐらにゅー島 @guranyu-to-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ