半ばゴーストタウン化した街で、ただ一軒細々と営業を続ける、大衆食堂〝ということになっている〟お店のお話。
SFです。管理都市を描いた、いわゆるディストピアもの的な物語。
個人的には、ディス〝トピア〟と言うよりは「ディス食堂」という印象……なんて言ったらわかりにくいかもですけど、でも本当にそう。
都市全体についてはほぼ語られないため、ことと次第によっては(たぶん無いにせよ、でも)もしかしてユートピアでもありうる、と思うのですけれど。
でもこの主人公と食堂のおかげで、作品そのものは間違いなくディストピアものしているところがとても好きです。
情報の出し引きのコントロールというか、全容の気にさせ方と開示の仕方がとても絶妙。
気になる要素に引っ張られて読み進めていくと、自然と少しずつ全体像が見えてきて、でもその解像度が上がるにつれ胃の辺りが重たくなっていく、この読み心地。
最後なんかもう完全に主人公と同化していたというか、全身にどっしりと重たい何かを感じるほどでした。
古くて小さな大衆食堂しか出てきていないのに、ゴリゴリのSFらしいディストピア感を味わわせてくれる、大変に稀有で個性的な物語でした。