静止

結騎 了

#365日ショートショート 188

「すごい!毛先すら止まってるみたいだ!」

 赤い帽子を被った青年が、驚きの声を上げた。目の前には、通りがかりに出会ったスタチューパフォーマー。銀色に塗られた体と洋服。やや傾いた姿勢。最も難易度が高そうな眼は、サングラスに覆われていた。

 始発が着いて程なく。ビジネス街にどっと人が溢れ出した。青年の声につられるように、ひとり、またひとりと、パフォーマーに群がり始める。しかし、誰もゆっくりとは足を止めない。当たり前である。会社に行かねばならないのだ。

 パフォーマーは沈黙を続けていた。指先ひとつ、ぴくりとも動かさない。昇り始めた太陽が塗料を落とすように、じりじりと迫り始める。しかし、まるで息を潜めるように微動だにしなかった。通りがかるサラリーマンらは、感嘆の声を短く吐き、足元の皿に金を投げ入れていく。

 平均的な始業時間を過ぎ、街が一瞬だけ静まるタイミング。パフォーマーは相変わらず静止を続けていた。汗ひとつかいていないその体を、ぽきり、ぽきりと、赤い帽子をかぶった青年が分解し、キャリーケースに詰め込んだ。

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静止 結騎 了 @slinky_dog_s11

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