戦争と人型生体兵器

【剣聖】として名を知らしめた国の英雄が死んだ。

その知らせは瞬く間に国に広がり、多くの人々が悲しみにくれた。曰く、「素晴らしい人柄を持つ失い難い人物だった」「多くの人々に慕われ、またその力を護国のために振るう英雄そのものだった」とも。


悲しみにくれた人々は、その死を悼んだ。国を挙げて英雄を弔うことが決まり、国の総裁すらもその死を悼んだ。


英雄の死から30年が経った今。


世界は戦争という混沌に満ちていた。

二大勢力に別れた世界戦争。

この世界大戦と呼ばれる程にまで広がりを見せ10年。

かつての英雄の死は最早遠い出来事となり、国が戦争に巻き込まれ10年が経っていた。

この10年で戦争は激化し、より凄惨に残虐に泥沼と化した。

徴兵制度から始まり、今や物資抑制対策としてあらゆるものが配給制となった時代。

そんな時代の戦争に投下されたのは、かつての戦争とは違う、まったく新しい新時代の兵器。


人型生体兵器と称されているそれ。

徴兵制度によって補充される兵士には限りがある。

ならば、兵士になるような新しい存在をうみ出せばいい。

そんな軍部の研究により生み出された新兵器。

人型生体兵器の少女型タイプ。その第一世代として造られた【アリス】シリーズ。

高性能な人工知能AIを搭載し、姿形や演算能力どこをとっても、と称される、この国で開発された最高傑作。少女の姿をしているのは、子供、それも少女の姿で敵を油断させるためである。

もっとも、その姿から非人道的では無いか?という批判の声も挙げられた。

しかし、例え人型であったとしても、あくまでもこれは兵器であり、決して人間では無い。自立思考を持つが、それは機械の演算能力のようなものでしかないと。

こうして運用が決定され、開発されて以降の今日まで徴兵兵士と共に戦場に送り出されている――。

その製造過程は国家機密とされ、軍部の中でも上層部でしか知り得るものは居ない。国民の間では半ば都市伝説として語られる程の存在である――。

















あくまでも表向きは。

現時点での人工知能は、人間よりも演算能力では遥かに優っている。しかし、それはあくまで過去のデータの積み重ねから弾き出された予測。戦場という常に変化が起こりうる場では、瞬時に全ての予測結果を弾き出すことが出来る性能は未だない。

よって、一から全てを詰め込む必要のあるAIでは無く、もっと別のものを使うこととなった。

生み出すために使われた技術のひとつが錬金術である。

錬金術。

歴史に埋もれたとされる荒滑稽なその技術の中には、一つだけ素晴らしい成果を持った研究があった。

人工的に人間を生み出す――人造生命体の制作過程レシピ

その技術の再構成を軍部は試みた。

しかしそう簡単には行くはずも無く、生まれたのは人間どころか生き物とすら呼べぬ失敗作ばかり。

激化する戦争。前線では人が死に続け、このままでは徴兵する国民すらもやがては居なくなるかもしれない。


そんな焦りを抱く軍部の研究者たちの前に垂らされた、1本の蜘蛛の糸。


国の最高傑作と称される兵器の誕生は、ある男の狂気から生まれた――。

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