わたしはあなたの為に造られた。
@kkkkaku
何故
「おめでとう、D-2000《アリス》」
「君が、今日から剣聖だ」
その男の言葉はあまりにも衝撃的だった。あまりにも唐突に告げられたそれ。
剣聖。
その言葉の意味を知らない筈がない。
理解できないはずがない。
かつての国の象徴。かつての国の柱たる存在。剣聖は国にならなくてはならない程の英雄だったもの。国の象徴であり武力の要でもあったもの。
少なくとも、剣聖について尋ねられれば答えられないことがない程に、あらゆる知識を詰め込まれているのだから。しかしそれは、あくまでも表面的なもので。
今、この場で告げられたのはそんなものでは無い。
告げられた言葉の意味をようやく理解できた時、内心で浮かべた自嘲の笑み。
何故。
どうして。
今なのか。
入り乱れる前線で本部から呼び出されたと思えば。
喉元までせり上がった思いを飲み込む。
――あぁ憎い。憎い憎い憎い……憎い憎い、殺してやる、呪ってやる……呪われろ、呪われろ呪われろ呪われろ…何処までも忌々しくおぞましい……貴様が、それを言うのか…! いっそ、この場で。
……脳裏に浮かんだ記憶。次いで湧き上がる感情に蓋をする。駄目だ。振り回されるな、ここは
少し前に首に掛けられた勲章が、今となっては忌々しく感じられる。目の前に佇む男に笑みを向ける。
「……謹んでお受け致します」
私はそれを受け入れた。
告げられた時点で、拒否することは許されない。一兵士たる私など目の前の男にとっては塵に等しいのだろう。
「全く、君のような素晴らしい存在がいるとは、この僕も誇らしいよ」
「……剣聖として、国の象徴として励たまえ」
「……それでは、失礼致します」
部屋から退出し、薄暗い廊下へと歩き出す。
無人の廊下を反響する軍靴の音を尻目に、
……励たまえ?
まったくもって、あの男は…本当に笑わせてくれる。
そんなうわべ面を吐く男には、侮蔑の色が混じっていることを知っている。つい先程も、耳障りの良い事を並べ立てながらも、侮蔑の色がありありと浮かんでいた。
私がこの男を嫌うように、あの男もまた私を嫌っている。
なぜか?
私は兵士である。少なくとも、ここには一兵士として呼ばれた。しかし軍部は異物を嫌う。それは私という存在も例外ではない。
彼らが私を嫌うのは、そもそも、本来なら兵士として扱われることの無い筈の存在だから。
私は兵士ではあるが、兵士ではない。
兵士としての役目は果たすが、ヒトとしての役目は果たさない、果たせない。
より厳密に言えば、兵士の、ひいては軍の付属品、或いは備品に過ぎない存在。
軍が所有する兵器の、その一部。
兵器としては人型生体兵器と称されている。
ヒトそのものの形をした人型兵器。
兵士でもあり兵器でもある。ヒトの形をしていながら、人として認められない存在。
それがワタシ、アリス【D-2000】だ。
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