7話

 細川さんが教室から去り、周囲の温度が少し下がったように感じたのは気のせいだろうか。

 話し相手もいなくなり、いよいよ暇になってきた。

 しかしお気に入りのラノベも持ってきていないので、俺は1時間目の数学の予習を進めることにした。とはいっても俺は勉強が好きな訳ではない。なんなら勉強が嫌いだとも言える。ましてや数学などもってのほかである。

 だが、このくらいしか今の俺に時間を潰す手段は無い。あまり教室内をじろじろと見回していても変人に思われるだろうし、机で寝たふりをしても、なんだか「The INKYA」って感じがすごいするし……

 それに対して授業の予習ならば、単純に授業の役に立つし、周りに対して「学力高め」「MAZIME」といったアピールができる。

 そして周りからそういう風に思われると、勉強に関して頼られるかもしれない。(絶対ない)


 ——そんなことを考えていると、教室の中央で話し合っていた、女子の集団のうちの1人が、こちらに向かってくるのが横目でわかった。

 ん? もしや、わからない問題の解き方教えてほしいとかか?? 

 そんな馬鹿なことを期待してしまう自分がいた。

 よく見てみると、その女子は右手にプリントを持っている。

 その女子は俺の机の前に立つと——

「これ、体育祭のアンケート。昼休みまでに私に提出して」

 と言ってプリントを机に差し出してきた。見上げてみると、どうやらその女子はうちのクラスの委員長だった。

 ——ほんの少しでも期待した俺が馬鹿だった。今回の件を踏まえて、これからは変な期待などするものかと心に誓ったのであった。


 ※ ※ ※


 時刻は8時25分を指していた。SHRまではあと5分といったところだ。

 そのころ、俺が委員長から受け取った体育祭アンケートに回答していると——

 こちらに向かって、ぎこちない歩き方で向かってくる女子が視界に入った。よく見てみると、それは細川さんだった。手と足が同時にでていて何とも不格好である。

 彼女は俺の隣の席に座ると、手を足に揃えてやけにピシッとしていた。背筋は異常な程きれいにピンと伸びている。あと、教室を去ったときと同様に、耳もまだ熱を帯びている。

 じっと見つめていると、細川さんが何か言いたげにこちらを向いた。が、目があった途端、直ぐに顔を前に向け、机に伏せた。

 明らかに様子が変だったので、俺は思わず細川さんに声をかけてしまった。

「あの、細川さん大丈夫? 気分わるい?」

 すると細川さんは慌ててこちらに向き直り、

「べ、べ、別に! 照れてるわけじゃないからね!!」

 と言うと同時に、彼女の耳がさらに赤みを増すのがわかった。頬も赤く染まっている。一体何があったというのだろうか。何かに照れていることだけは分かったのだが、肝心なその原因は不明だ。

 細川さんの姿を見る限り、とても気分が良さそうとはいえなかったので、俺は思わずその原因を率直に訊いてしまった。

「細川さん、何かに照れてるの? 一体何があったの、大丈夫??」

 すると彼女は、

「はわわわっ!! な、なんでもないよ!!」

とだけ言い残し、またもや教室から飛び出していった。

 その直後に授業開始のチャイムが鳴ったのだが、細川さんが教室へと戻ったのは、次の授業からだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隣の席の美少女は毎日慌ただしい ふわふわダービー @abcwmdMCD

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ