第18話:ホテルに泊まることにしたんだが
「一緒にホテルに泊まるのって東京に行った時以来なんだけど、覚えてる?」
ホテルのシャワー室から出てきた彼女が髪を拭きながら俺に聞いた。ただ、片手なので拭きにくそうだ。
「あのっ、ごめっ、ごめん。覚えてないや……」
「ふふふ、いいよ いいよ」
俺は目をそらしながら答えるしかなかった。彼女は頭と腕をケガしているので、包帯が巻かれていたのだが、シャワーから出てきた彼女は包帯を外してあった。
ホテルの備品であるバスローブのような白いフワフワを羽織っている彼女はすごく妖艶に見えた。
「少ししたら包帯まこうか?」
「……うん、ありがと」
そもそも俺とは半年ぶりだったらしく、そのまま連れ去ろうと思ったけれど、車などの手配が必要だと思い、一旦分かれたところを藍子さんに襲撃されたらしい。
その話を聞いたとき、マックで会ってすぐ珊瑚さんはトイレに行っていた。戻って来た時、わずかに目が赤かったんだ。俺との再会で泣いていた、ということではないだろうか。
「痛む?」
「うん……でも、病院で痛み止めもらったから」
珊瑚さんが俺のストーカーだと仮定したら、このケガは自作自演ということになる。頭のケガと腕のヒビ……普通人はここまでできるだろうか。
そんなことできる訳がない。
やっぱり、珊瑚さんが言っていることが正解で、藍子さんは俺のストーカーだったということになるのだろう。高校の時はずっと同じクラスだったけど、ほとんど交流なかった。
ストーカーになるなんてことがあるのだろうか。
そして、俺は2021年から来た俺なのか? それともタイムリープなどなく、俺自身が2022年の俺なのか?
室内のベッドに座って何が本当で、何が嘘なのか考えていた。
「隆志は大丈夫?」
珊瑚さんが、後ろから俺の首に抱き着いてきた。
「そんなリアクション久しぶり」
俺が照れてワタワタしている様子を見て珊瑚さんが微笑む。
「こんなに痩せこけて……でも、無事でよかった……」
俺の頬をそっと指先で確認するようになでた。
俺たちは、あのまま とにかく
白いバンはレンタカーとのことなので、適度な距離でレンタカーを乗り換えることで、更に後を追いかけにくくできる。
「とりあえず、あと1日か2日逃げて、その後どうするか考えましょう」
「そうだね。レンタカーも乗り換えよう」
明日のことも考えて、早めに睡眠をとることにした。ベッドはダブルの部屋にした。
変な意味はないけれど、ネットで探したらダブルの部屋しか残っていなかったからだ。
「なんか、今日はぐったり疲れたね」
「確かに、急に眠気が指してきた……」
二人とも崩れるようにベッドに横になるとすぐに眠りに落ちてしまった。
俺としては、以前の記憶はないので、珊瑚さんとの初夜ということになるので、もっとドキドキイベントを期待したけれど、俺も彼女も最後の方は
別に酒は飲んでないんだけどなぁ。ご飯を食べた時までは何ともなかった。風呂上がりにホテルが準備してくれたペットボトルのお茶を飲んだ直後からやたら眠たい。
*
目が覚めた。眠すぎて、疲れすぎて、まだ目が開かない。もう、朝だろうか。それともまだ夜中だろうか。
身体にも力が入らない。よほど深い眠りだったらしい。遠くで声が聞こえるけど、遠すぎて何の音か分からない。
音がするくらいだから朝なのかもしれない。それなら、早く起きて逃げないと。そう思うのだけど、瞼が開いてくれない。
「今度はちゃんと助けるからね」
そんな声が耳元で聞こえた。俺は耳が詰まった感じで、この声の主が誰か分からない。俺はまた薬か何かで混沌とさせられているのではないだろうか。
珊瑚さん⁉ いや、彼女はストーカーじゃないし、そんな訳はない。それどころか、彼女自身大丈夫なのか!?
まさか、これって藍子さん!? でも、スマホの電源は入れていないからGPSの位置情報は使えないはず。ホテルまで追いかけてくることは できなかったはずだ。第一、ホテルの部屋に入れるはずがない。
ここまで考えて、俺はふと気がついた。
―ここはあのホテルの部屋なのか!?
―昨日急激に眠くなったのは、疲れによるものだったのか⁉
―動けないのは単に疲れているだけなのか!?
いや、そんなの取り越し苦労に違いない。現実的にあり得ない。
少しだけ開いた目に映った女性の姿は……
END
【完結】目が覚めたら1年後にタイムリープして彼女ができていたんだが 猫カレーฅ^•ω•^ฅ @nekocurry
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