拾参話目
男は知人達と別れて帰路につく。駅員の居ない改札で、整理券を手に取って電車を待つ。
この間偶然会えた彼らに、もう一度会えるとは思わなかった。思わなかったついでに、頭を悩ませていた事案がこうも簡単に解決するとは。やはり持つべきものは親身になって話を聞いてくれる存在である。
からん。
そう言えば、この前上司に出した企画書、きちんと引き継ぎはされているんだろうか。引き継がれてないと困る。折角彼らが協力してくれた事が水の泡になってしまう。
ころん。
そうだ、あの神社。男が知人達に紹介してもらった神社とはまた別の。
思い返してみれば、あの神社だけ空気が異様に違ったように感じる。知人達を探して、街を彷徨っていたところへ突然話し掛けられたものだから、不審者のような態度を取ってしまった気もするが。男はそこまで考えて頭を振る。
きい きい。
余計な事を考えるのは止そう。兎に角、家へ帰って知人達のアドバイスを参考に、悩みの種をどうにかしてしまおう。
そこまで考えて、“丁度良く”ホームに入って来た電車に立ち上がる。一両目の扉が開いて、涼しい空気に包まれる。
男は空いている座席に座り、自分が降りる駅まで少し眠る事にしたのだった。
がっ しゃん。
『あーあ。折角見逃してやってたのに。…ざあんねんだねぇ』
暗い、暗い、だけれど綺羅びやかな場所で、男を憐れむ嘲笑は、誰に聞かれることもなく消えていった。
彼はただただ面倒な人 SOUYA. @many_kinoko
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