オダマキの花言葉
6月24日
真姫が学校に来なくなって3日が経った。「真姫どうしたんだろう」日葵が不安そうに話す。
三人とも不安を隠せないようだ。「私、今日真姫の家に行ってみるよ」真姫に思いが届かないとわかってから私はもちろん傷ついた、しかし五人が友達であることに変わりはないこの時間が何よりもかけがえないこの時間を守りたいと思った。
いきなり行くと驚くだろうからメッセージだけいれておくか、とスマホを開くとその瞬間真姫からメッセージが来た。
「星、会いたい」あまりのタイミングに胸が高鳴った。そんな意味はないのにそれでも、好きな人からの会いたいの文字。「放課後家に行くね」真姫に会える、放課後が少し楽しみになった。
放課後、急いで真姫の家に向かう。押しなれたインターフォンを押すと静かに玄関のドアが開くと、そこには部屋着姿で俯く真姫が立っていた。急にごめんね、よかったら入ってと私を招き入れる。何度も訪れているが中に入ったのは今日が初めてだった。リビングを抜けて彼女の部屋と思われるところに通される。白を基調とした部屋にいくつもの青い小物が置いてある、それはどれもブルースターのデザインですべてあの人からの贈り物なんだと思うと胸が締め付けられた。テーブルにアイスコーヒーの入ったグラスを置いてくれた。「ありがとう、それでどうしたの?学校も休んでたし」コーヒーを飲みながら問う。深刻な顔をした彼女が放った言葉は思いもよらないものだった。
「ねえ、私太ったように見える?」
え?と間抜けな声が出てしまった。「そんなことないと思うけど」素直にそう答えた。もしかして太ったのが恥ずかしくて学校にも来れないほど悩んでたのかな、これから夏服になるからこっそりダイエットしてたとか?
「ほんとに?お腹…とか大丈夫かな」不安そうに聞いてくる。「全然、相変わらず細くて心配になるくらいだよ」そっか、と呟くとポロポロと涙を流す。慌ててそばに駆け寄ると震える声で囁かれた言葉は拡声器でも使ったんじゃないかってくらい鮮明に大きく感じた。
「赤ちゃんができたの」
声が出なかった。驚愕してる私に彼女は泣きながら続ける。
「前に好きな人がいるって言ったの覚えてる?お母さんの彼氏。お母さんが仕事の時二人きりになることが多くて、最初は手をつないだりキスとか…それだけで」
うるさい、心臓がうるさくて痛い。ドクドク血管の中を血液が流れていくのがわかるくらい全身が熱い。
「それで、それ以上の事しちゃって…お母さんに悪いなって頭ではわかってたけど大好きだから止められなくて」泣きながら話す真姫対して私はさっきとは打って変わってひどく冷静だった。
「その涙は何に対しての涙なの?お母さんに対してかな、それとも妊娠してしまったこと?」泣きじゃくっていた彼女は驚いたように目を見開きまたしくしくと泣き出した。わからない、どうしたらいいかわからないのただそれだけを泣きながら繰り返す彼女にひどい態度をとってしまったのかもしれないと反省している私は正真正銘のバカなのかもしれない。ここまできてもまだ、私が彼女を助けたい泣かせたくないと思ってしまっているのだから。「彼にはこのことはもう伝えたの?」背中をさすりながら問いかけると彼女はただ黙って首を振った。
「じゃあ、話してみたほうがいいよ。これからどうしようにも真姫はまだ未成年なんだから一人じゃなにも出来ないだろ?助けてあげたくても私もまだ子供だから」そう、私は子供で恋人でもない。いつまでも真姫に対しては友達の領域を出ることはないのだから。
家に帰ってから何度も考えたけれど、やはり私にできることは何もない。彼女と母親の関係がどのようなものなのかも知らないし、母親の彼氏という人がどんな人なのか、彼女がどうしたいのか何も知らない。私って本当に何も知らないな、零れ落ちそうな涙を落とさないようにベットに倒れこんだ。
あの日以来、真姫からは一度も連絡はなかった。三人には家庭の事情でしばらく休学しているみたいだと伝えた。何も進展がない中でも時間はいつも通りに流れていくもので7月6日の昼休み日葵が呟く
「去年は5人で誕生日会したのに、今年は出来ないのかな…」いつも元気な日葵がかなしそうに呟く姿に胸が痛んだ。「明日!みんなでご飯いこう、私の事祝ってくれないかな」そう大げさに声をかけると日葵は「当り前!」と元気に叫ぶ。ふと、視線に気づき顔を上げると凪と文乃が微笑みかけてくれた。よかった、この日常を私が守らないと。
夜、明日の準備をしようとしているとスマホが鳴った。誰だろうと画面を見るとそこには「真姫」と表示されており、慌てて電話に出る。どうしたの、と聞こうとしたその時ひどく落ち着いた声で真姫は話し始めた。
「優くんにね、赤ちゃんができたのって伝えたの。そしたら優くんすごく怒るのそんなわけないって、お前が外でほかの男と遊んでるからだろって。彼、星のこと男の子だと思ってたみたいで」まるで機械のように淡々と他人事のように話す。
「大好きって言ってくれたのに、お母さんに相談するって言ったらそんなことしたらお母さんと別れることになるだろって言うの。じゃあ、お母さんが居なくなれば私は優くんと幸せになれるんだって思って」体が冷たくなる感覚と呼吸が浅くなるのがわかる。
「二人とも動かないんだよ。気が付いたら全然動かないの」これ以上聞いていられなくて、今行くとだけ言って走り出した。
インターフォンを押すと部屋着に身を包んだ真姫が出た。以前一度だけ見たリビングはあやふやな記憶でも今と違うことがわかる。母親と思われる女性が頭から血を流し倒れこんでいる、揉みあって頭を打ち付けたのだろうか。そして、腹部を何度も刺された長身の男性が倒れている、あの時の男だ。おそらく優くんがこいつなのだろう、今なら私刑事になれそうなくらい落ち着いてる。死体なんて初めて見たのにな。
ため息を一つついてスマホを取り出す。
「ねえ、なんで電話?どこにかけるの?」真姫が私の体を揺らす、「警察に決まってるだろ」刺激しないようになるべく優しい声を出す。
泣き叫びながら真姫が私をまくしたてる。
「私のことすきなんでしょ、知ってるよ。だから私をかばってよ!そしたらキスくらいならしてあげてもいいよ、私に香水なんか送ってずっと気づいてたよ」叫びながら刃物に手をかけようとする。そっか、私の気持ち気づいてて私を利用しようとしたんだね、怒りも通り越して笑いをこらえるのに必死だった。
彼女の首に手をかける、ぐっと力を込めると苦しそうに綺麗な顔を歪める織姫。
綺麗な織姫なんかじゃなかった、そして私も引き離されても君を愛し続ける一途な彦星じゃなかったみたいだ。
苦しむ表情が一変して眠るように彼女は意識を失った。
液晶に110の文字
「もしもし、人が二人亡くなってるんです」
眠る姫様の頬に手を添え、潤む唇にそっと口づける。
「オダマキ…愚かだなぁ…」
やっぱり王子様は私じゃないのか、呟くと私はその場を後にした。
・
今年の夏も暑いな、そう呟いて濡れた髪をタオルで拭く。
あぁ、これだから夏は大嫌いだ。
END
ぼくは、天の川をわたれない 眠兎 @minto29113
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます