第6話 壁

 「宇宙の摂理だったり、ミレニアム懸賞問題の壁は君や僕には見えない。今、君に見えている壁は越えられるから見えているんだ。だから一緒に乗り越えよう」

 私はその言葉を信じた。上長は私を支えてくれる。壁を乗り越えようとする私を下から支えてくれる。それに応えたい。

 定時内に仕事を終えられなかった私は残業をし、休日に出勤し、その壁を乗り越える努力をした。

 私がその壁に登り切り、疲れた体を休めていると

後ろから上長が私の肩を叩いて指差したんだ。

「よくやった。次はあの壁を乗り越えよう」

 上長が指差す壁は今登ったばかりの壁よりも高く、険しかった。しかし、私は登った。落ちれば上長の期待に応えられないと必死に登った。


 壁を何度乗り越えても更に高い壁が見えてくる。その度に上長が指差す壁を一緒に登り続けた。

しかし、人間の体力には限界がある。私は居眠りをしてしまい事故を起こした。

(もう限界だ!これ以上は無理だ!)

 上長に伝えると上長は怒る事もなく淡々と言った。

「大丈夫だ方法はある。家に帰るから事故を起こす。家に帰らなければ事故は起きない」

 上長はその壁をも乗り越えろと指示を出した。

私は完全にマインドコントロール下にあった。


年を重ねた私は部下に言える事がある。

「壁を乗り越えろと言ってくる上司は信じるな!」

壁は乗り越える為のものでは無い。その壁を通りたければベルリンの壁のように壊す事もできるし、万里の長城のように長くても迂回すればいい。一歩下がって見れば違う道が見えてくる。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美心徳(MIKOTO) @bitoku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ