46話 異次元


 アルマの出現させた血は天空へと伸び、フロッグの生み出した光と衝突を果たす。

 血は光に触れたそばから、直線から横に広がり、まるで器の様に光を受け止める。


「流石、衰えませんね」


 アルマは目を細め、やや魔力を高めると、さらに血を作り出して空へと援軍の様に向かわせる。

 地上の血と空の血は結合を果たすと、更に光を受け止める器を大きくさせる。


「呑め」


 アルマが右手を空に翳し、その手を宙で握り込むと、空の血も呼応するかのように形状が変化し、フロッグの魔術を文字通り呑み込んだ。

 アルマは協会の中枢────即ちフロッグのいる元へと握り込んだ右手を向ける。

 するとフロッグの魔術を呑み込んだ血は、槍の様に変化を遂げ、空中で螺旋状に回転をしながらその場所へと向かい始める。


「どうせそこにいるんだろう。真っ向勝負と行こう」


 まるでアルマは自身の力を見せつける様に魔力を最大限まで高め、巨大な血の塊を放つ。

 その血の塊を見たフロッグは、これまでとは比べ物にならない程の険しい表情を携えながら杖を翳した。


「らしくないでは無いか」


 フロッグはかつてアルマと一戦交えた事があるのか、今のアルマの一手を見て疑問を溢す。

 フロッグにとってのアルマとは慎重で、凶賊にしては無駄な抗戦を好まない男という印象だった。

 しかし、そんなアルマが今回はこちらに対抗の意思を示している。

 ここは協会内。下手に反抗をして滞在時間を伸ばせば伸ばす程に、手練れの魔術師達が集まり、結果的に不利になっていくのは火を見るより明らかだ。

 だというのに、敢えてアルマはこちらに反抗をして来た。


 ────何か意図があるのか……?


 フロッグはアルマの行動を訝しみながら考察しつつも、一先ずは迫り来る血に塗れた凶器を落とさんとする。

 再び杖に自信の膨大な魔力を込め、光の塊を宙に創り出す。


「彗星魔術──── 『星の奏樂ステラ・ブラス』」


 先程と同様の魔術を瞬時に展開し、アルマの血を撃ち落とさんと光が躍動をする。

 溜めが無い分、先程よりも威力は劣るが、それでもフロッグの魔術は小さな町ならば容易に破壊出来てしまう程の威力を携えていた。

 そんな二つの魔術が空中で邂逅を果たし、歪に混じり合う。

 二つの魔術は見事に拮抗し、空中で数秒間同じ場所に止まりつつも、その質量の大きさから太陽の様な光を放っていた。

 協会内は一気に光に照らされ、眠りに着いていた学生達の目を覚まさせる。

 先に明らかに魔術濃度が変異している事を感知していた教師陣は、興味本位で部屋から出ようとしている生徒達を押し留めていた。

 彼等は本能的に感じていたのかも知れない。今空中で行われている『何か』が、自分達とは明らからに別の次元の戦いなのだと。

 


「さて、そろそろ帰ろうか」


 アルマはフロッグが再び魔術を行使した事を確認すると、アイルの背中に手を置き、自身の魔術回路を繋げる。

 魔力切れになっていたアイルの身体には、アルマの膨大な魔力の一部が流れ込み、一気に血液を通してアイルに生気を取り戻させて行く。


「いつでも行けます」


 アルマの魔力によって、アイルは再び空間転送魔術を使用できるようになると、即座にハリルとレクサスの背中に魔術陣を展開させる。


「一つ確認しとくけど、君は付いて来るって事でいいよね!?」


 アイルの問いかけにレクサスは、口元を歪ませ、これまでの笑みを完璧に取り戻して返答した。


「当たり前だ!あれを見て滾らねえ奴はいねえよ!」


「ハハッ!」


 アイルがレクサスの問いを確かに聞き届けた次の瞬間、ハリルとレクサスは魔術陣と共にその場から姿を消した。

 遥か彼方────魔術師狩りの本拠地へとアイルの魔術によって送り届けられたのだ。


「僕達も行きましょう、アルマさん」


「あぁ、これ以上の長居は僕でも少し厳しくなるかもだからね」


 アイルはすぐさま既にアルマに仕掛けている魔術を起動させ、転移魔術を発動しようとする。

 アイルがアルマの背中に手を置き、魔力を陣を発動させる為に手を置いた瞬間だった────

 まるで流星の様な眩い光が協会の塔から降り注いで来るではないか。


 ────まだあれ程の質量の魔術を!?


「アイル、君は転送魔術にだけ気を使っていればいい。あれは僕が何とかしなきゃいけない物だ」


 アイルの集中が途切れかけた事をすぐにアルマは察すると、すぐに自身が矢面に立つ事を宣言する事で魔術に意識を逸らさせた。

 アイルは小さく頷くと、アルマの中に仕掛けている魔術回路に魔力を注ぎ、魔術陣を発動させる。

 後数十秒後に転送が完了する。しかしその数十秒の間に、フロッグが放った魔術はここに到達する。


「本当に、同じ人間の魔力量じゃないよね」


 アルマは肩を竦めながら一歩前に進み、向かい来る脅威に手を翳す。


「血よ、這い上がれ」


 先程までの質量とはまた違った形────血がまるで意思を持った生き物のように防御壁を形成して行く。

 その防御壁はまるで────


血城ブラン・キャッスル


 かつてこの世界に於いて串刺し公と言われた王の住みかの名を借りた防御壁、血によって造られた城がアルマとアイルを覆う様に形成されたのだ。

 フロッグの魔術は天を穿つ様に、一直線にアルマの元へ空を躍動する。

 その光景はまさしく彗星であり、大凡人が生み出した物とは思えない質量を持っていた。

 そんな彗星の魔術を、アルマの手によって造られた血の城が迎え打つ。

 液体であったアルマの血は、血中成分の凝固因子によって固く、強固な物へと変貌を遂げて行く。

 そしてフロッグの魔術が到達する寸前に、その城は見事に完成を果たす。

 アルマとアイルを完全に覆い尽くした巨大な血の城は、そうして彗星と接触を果たす。

 フロッグの魔術は血の城と邂逅した瞬間に、眩い光を一段と輝かせながらその壁を壊さんと進もうとする。

 しかしアルマの血の城はその進行を断固として拒み続ける。

 もう何回目かという光景。

 しかし何度見てもその光景は見慣れる筈も無く、その空間が異次元だと何度も認識させる。


「よし、行こうか」


 血の城の状態を見たアルマは、アイルに告げる。

 アルマの推測では、血の城は持って後数十秒という所だろう。

 既に自身の身体に魔術陣を刻ませているアイルの魔術の方が、血の城が崩壊するよりも断然速い。

 アイルは言われるがままに、魔術陣を起動させる。

 魔術陣はアルマの身体並みの大きさに拡張すると、その身体を覆う様に陣から光が漏れ出す。


「またいつか会いましょう。そう遠くない内にね」


 光に身を任せ、アルマが魔術陣の中に消えて行く。

 それについて行く様にアイルも陣の中に入り、魔術協会を後にした。

 その数秒後、血の城は上部からフロッグの魔術によって押し潰される様に決壊した。

 崩れた血の塊がアルマ達のいた古い学生寮を赤く塗り潰して行く。

 そんな光景を見たフロッグは杖を置き、眉を細めながら近くにいた協会の者に告げる。


「逃げられた。すぐに協会の主力メンバーを集めよう」


「対策を練るのですね……!」


 近くにいた者はすぐにフロッグの指示通り、協会の主力メンバーの元へ駆け出そうとする。

 そんな人物にフロッグは最後に一言を添え、自身もすぐに今回起きた事件の後始末に取り掛かる。


「あぁ。それと、


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The Rampage 2022 - 夕凪は世界を染める 冬野立冬 @fuyuno_ritto

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