恋心に殺された日

亜祈惑

第1話

私は、これから死ぬ

私に、殺され死ぬ

これは、私の望んだことだ

これは、私という異常者の生きた結果だ



私は、犀川葵、とある高校に通う女子高生

今日、私のクラスに転校生がやってきた

「はじめまして、相野莉奈だよ、よろしくね!」

私は、その子に見覚えがある

昔の、友人だ

その子は、私の目の前に座った

ちょんちょん、とその子の肩に触れた

その子は私の方を向いた

「あ、葵だー!久しぶりー!」

「そこ、まだ話してます、お静かに」

先生に怒られてしまった

「えへへ、ごめんね

ほんとに久しぶり、元気だった?」

「うん、元気だよ、そっちは?」

「もっちろん!」

相野莉奈、昔は家族ぐるみで付き合いのあった、とても仲が良かった子だ

けれど、私が引っ越して以来、全くの疎遠になってた

元々、地毛が茶髪だったけれど、派手でお洒落な子になってた

時は人を変える、っていうのは本当なんだなと思った

「改めてよろしくね、葵!」

「うん、よろしく、莉奈」


莉奈は変わったけど、変わってなかった

昔と同じで明るくて元気でみんなに好かれる人気者

相変わらず、私の持ってないものを持っている子だった

「ねーねー、葵ー」

「ん、どうしたの?」

「ここわかんないんだ、教えてー」

「えっとね、ここは…」

私は、勉強は得意だ

だから、莉奈に勉強を教えることが多かった

莉奈はコミュニケーションを取るのがうまいから、一緒に居てとても心地よかった

だから、いつからかよく一緒に居るようになった


「わっかんなーい!」

ふたりで勉強会をしている

もうすぐ中間テストだからだ

「どこが分かんないの?」

「ここ!」

「ああ、これね、ちょっと難しいよね

これはね…」

少しヒントをあげた

「あ、分かった!」

「そう?それならよかった」

莉奈、地頭は悪くないんだよなあ

「葵って教えるの上手だよね」

「ううん、そんなことないよ」

「頭いいし、ずるいなー」

「ふふ、私も莉奈のコミュニケーションの上手さは尊敬してるよ」

「えーうっそー」

「なんで嘘をつく必要があるの?本当だよ」

「えへへ、それなら嬉しいなあ」

私は友人が少ないから、こうやって話す相手はあまりいなかった

それをもったいなかったなと思うくらい、本当に莉奈のことは好きだし尊敬している


そんなある日

私は夢を見た

とても、恐ろしくて、けれどとても、興奮してしまった夢

私が、莉奈を殺し、首を斬り、部屋に飾る

それを見て夢の中の私は、とても嬉しそうにしていた

その夢を見て、ああ、これが恋なんだと思った

私は莉奈に恋をしているんだと思った

私は今まで恋をしたことがなかった

知識としては知っていたけれど、実感を伴えずにいた

それを初めて知れた

知識としては知っているから、これが異常だというのは分かった

好きな人を殺して、手元に置きたいなんて、普通の恋心ではない

それでも、これは私にとって恋だから

これは私の初恋だ


「ねえねえ、今度の土曜日一緒に遊びに行こう!」

いきなり莉奈にそう誘われた

「…うん、いいよ」

「やった!じゃあ、土曜日ね!」

デートみたいで嬉しいなと思った

でも、莉奈はそういう感情はないから

莉奈は単に友達として接してくれているから

ちゃんとこの恋心は隠さないと、と思った


土曜日、待ち合わせの場所で待っていると莉奈が来た

それも、私服の

休日だから当然だ

だけど、やっぱり好きな人の私服はきゅんとくる

「ごめん、待たせたー?」

「ううん、待ってないよ

それで、どこに行くの?」

「お買い物ー!」

「ふふ、そっか、じゃあ行こっか」


近くのショッピングモールで色々見ていった

私が見たいもの、莉奈の見たいもの

私と莉奈は趣味がとても合うというわけではないから、私がいつも見ないようなものも見た

それが、とても楽しかった

例えば、メイクコーナー

私は化粧水や乾燥させないためのリップ程度しか買ったことだなかった

だけど、莉奈に勧められ、可愛らしい色合いのリップを買ってしまった

少し恥ずかしいけれど、莉奈が似合うと言ってくれたから

莉奈と一緒に居ると世界が広がる

だから私は莉奈が好きだ


ある日、莉奈から電話がきた

「もしもし、どうしたの?」

『あの、ね、私もう学校行けないかもしれない』

「なにかあったの?」

『私のお父さんね、この間、がんで死んじゃったの』

「そうだったんだね、ご冥福をお祈りするよ」

『それでね、お父さんね、借金してたんだって

それも…怖い人たちに』

「闇金?」

『うん

それで、お父さん死んじゃったから、私たちが払えって言ってきて

だけど、うち、お金ないの

怖い人たちにそれ言ったら、体で払えって言ってきて…』

莉奈は、電話の向こうで泣いていた

泣いている莉奈なんて初めて見た

莉奈は前からずっと明るくて、いつも笑顔で、泣くことなんてなかったから

そんな莉奈が泣いてるなら、私は協力してあげたいと思った

だけど、私にそんなお金はない

少し考えて…こう言った

「莉奈、狂言誘拐をしよう」

『きょうげん…?』

「嘘の誘拐、私が誘拐されたふりをするんだ

そして、私の親に身代金を要求するんだ」

『でも、嘘をつくのは…』

「確かに、心苦しいよ

だけど、私にはこれくらいしか思いつかないんだ

きっと、多額の借金をしていたんでしょう?

それを払えるくらいのお金を私たちみたいな学生が稼ぐ方法は少ない

それに、時間もあまりないみたいだから

少なくとも、私にはこれしか思いつかない」

『少しだけ、考えてもいい?』

「うん、もちろんだよ

どうするか決まったら、教えて

それまで私も、もっといい方法はないか考えておくよ」

『ありがとう、葵』

「どういたしまして

それじゃ、またね」

『うん、またね』

きっと、さっきの提案には私の願望が混ざっている

私の提案は破滅への道だ

あるいは、地獄への道

莉奈と一緒に破滅できたらどれだけ嬉しいことか

やっぱり異常だけど、これでいいと思う


次の日の夜、莉奈からまた電話が来た

『もしもし、』

「もしもし、どうするの?」

『やっぱり、嘘つくのは嫌だよ

だけど、体売るのはもっと嫌だ

ねえ、ねえ、葵、どうすればいいの…』

やっぱり電話の向こうで泣いていた

『…死にたい…!』

莉奈は、確かにそう言った

「ねえ、莉奈、それは本当?」

『…?』

「本当に死にたいなら、一緒に死んであげるよ」

『…なんで?』

「なにが?」

『なんで、そこまで…?』

「私ね、莉奈のこと好きなんだ

それはもう、本当に

私にとって初恋なんだ

だから、莉奈のためならどんなことだってできるよ」

『…気づかなかった』

「ふふ、隠すのは得意なんだ

どうする?」

『…一緒に、死にたい』

「うん、一緒に死のう?」


数日後の真夜中、私と莉奈は森の中に居た

心中の方法は刺し違えることに決めた

それが私の望み

愛する人と死ねる、愛する人を殺せる

きっと、普通の人にはそれがどれだけ嬉しいことかわからないだろう

「おやすみ、莉奈」

「…うん、おやすみ」

私と莉奈は刺し違え、倒れた

私は今、私の恋心に殺された

可哀そうな莉奈

闇金に追い詰められ、私みたいな異常者に騙され、死んでしまった被害者

きっと、私みたいな異常者に魅入られなければ長生きできたのかもしれないけれど

ごめんなさい、莉奈、愛してしまって、殺してしまって

一緒に死んでくれてありがとう

これは、私の望んだこと

これは私という異常者が生きた結果

異常者でも一生懸命生きていける

異常者でも愛した人に生きた結果を残せる

私はそれがとても嬉しい

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