ついでなので、お隣さんとの出会いを回想する
いちのさつき
お隣さんとの出会いの回想
平野海太。独身。彼女なし。平社員の26歳。そのはずなのだが、1人の女性が定期的に俺の住処に来ている。名前は分からない。お隣に住んでいること以外分からない。アパート暮らしならそんなものだろう。今日は遊びに来る日で、例の彼女がいる。目的は酒飲みである。既に飲んで酔って、俺の肩に寄り添って寝ている。
「あのー。おーい。お隣さん?」
揺さぶってみるが、効果なしである。夢の世界に行っているのか、すやすやと寝ちゃっている。ここまで無防備で良いのだろうか。男は狼だぞと教わって来なかったのか。いやそうじゃないのかもしれない。俺自身がチキンだから大丈夫なのかもしれない。やばい。そういう答えに辿り着いてしまうと、急に悲しくなってきた。
「えへへー」
まだ彼女は夢の中にいるようだ。しばらくは放置しよう。こうして見ていると、初めて出会った時を思い出す。まだ自分が社会人成りたてのころだった。同僚と共にウエーイと大騒ぎをして酒を飲み、終電ギリギリに乗って、階段を上がった時。酔いが一瞬で覚めた。自分の住んでいる部屋に見知らぬ美女がだらしない恰好で寝ていたからだ。慌てて起こそうとトライをしたが、見事に撃沈した。
「んー……」
過去を思い出している途中、彼女は身動ぎをした。まだ寝るつもりのようだ。このまま回想を続けていこう。どうしようと思考をした結果、ある答えを編み出した。そう。俺の部屋に入れさせたのだ。彼女の住むとこなんて知らないし、放置して犯罪に巻き込まれる可能性だってある。理由付けはきちんとしているはずだが、やっていること自体はアウトなのではないかと思っている。土下座して謝ろうとした翌朝に感謝されて逆にビビった記憶がある。
それにまさかお隣さんだと思ってもみなかった。彼女が言うには、酔っぱらうと寝るタイプらしく、普段は外で酒を飲まないようにしているのだとか。昨晩は仕方なく飲んだらしい。他のみんなみたいに酒を飲んで騒ぎたいらしいのだが、それが出来ないのが辛いとも言っていた。この時、俺は狂った提案をした。
「俺と一緒に酒を飲みませんか」
と。何故か承諾して今に至るわけなのだが……この状態がいつまで続くのかは分からない。ああいう美女と酒を嗜んだり、ビジネストークしたりする機会は滅多にない。1人暮らしの特権として、味わっておこう。
ついでなので、お隣さんとの出会いを回想する いちのさつき @satuki1
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