第2話 彼女

 今日は彼女と出会ってから一年目の記念日。

 俺は大量の薔薇をもって彼女を呼び出した。

 記念のカフェでもよかったが、彼女が気に入っているという花の咲き乱れる海沿いの丘に呼んだ。

 真下にある海を彼女は怖がったが、同時になぜかとても気に入っていた。

 きっと喜んでくれる。


「結婚してほしい」


 彼女は驚いていた。

 とても素敵な表情で泣きそうになり、それからはにかんだ。

 ああ、ああ、彼女と結婚できて俺は幸せだ。


「結婚? 本当に?」

「ああ」

「そう、そうなのね」

「受け入れてくれるだろう?」


 彼女が微笑む。



 

「冗談でしょう?」




 ――え?



 彼女が俺の持っていた薔薇を手にとる。そして薔薇は地面に落とされた。


「幼い頃から私の大切な友人で、妹みたいな子がいるって前話したわよね。その子がひどい浮気性の婚約者と別れられなくて困ってるって」


 覚えている。その話を聞いた。彼女はその男が痛い目を見たらいいのにと言っていた。その妹みたいな子もそう思っているから、いつかなんとかしてあげたいけれど、身分差があるのだと言っていた。

 

「それが、なに」


「わからないのね。最大のヒントだったのよ。でもあなた、まるで他人事。それでもういいやって思ったの」


「いいって、何が?」


 喉がからからになっている。


「あなた、私の家のことを知らないわよね?」

「それは……」


 頑なに教えたがらない彼女に、俺は彼女が貴族ではないのではないか。という疑いを持っていた。それでもよかった。なのに。



「私の名前をお教えするわ。ヴァイオレット。ヴァイオレット・フェルタ」


 フェルタ。


 その名前に覚えがあった。

 いつかに聞いたことがあるような。


「覚えてもいないかしら。あなたの婚約者だったキアラ・メクシアの遠縁に当たるのだけど」


 俺は呆然と彼女を見た。

 キアラの遠縁。親戚。血筋。つながりのある人物。

 妹、浮気性の婚約者。別れたがっている身分差。


「まさか……」


「鈍いのね」


 彼女はうっそりと笑った。

 初めてあった時にみた魅惑的な微笑みだ。


「あ……」


 声をかけようとする。そんな俺の胸に彼女が滑り込んできた。


「!?」


「あなたってやっぱり予想通りの人だったわ」


「ヴァイ……オレット」


 ニコリと彼女が微笑む。

 次の瞬間。腕の中から彼女が抜けていた。


 違う。


 自分が後ろに倒れて――――。


「さようなら」



 彼女は魅惑的に微笑んでいた。

 俺が海面に叩きつけられ、意識を失うその瞬間まで……。





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結婚してください?本当に? 冗談でしょう? 日向はび @havi_wa

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