第16話 共犯者達
「もう、いいや…」
小さなつぶやきを拾った途端、夏来の行動は早かった。
膝から崩れ落ちた大樹に寄り添い、
「大丈夫?疲れた、王様?」とほほ笑んだ後、
「ごめん。王様疲れたみたいだから、王の間まで連れてって。
空ちゃん、陸君、手伝って。
秋桜さんもお願い」と、指示を出す。
「は?空ちゃんって…?」
「俺も?」
「はいよ。」
三者三葉の返事と共に、糸が切れた大樹を生存者達から隔離する。
彼は、この国も希望だから。
「美冬さんと、小春ちゃんは、みんなと夕飯づくりをお願い。」
「はい。」
「任せて。」
後は2人に頼み、ある意味1番大樹を信じていない、事態を理解している共犯者一同で地下3階に隠れる。
動く気力を失った青年を寝具に押し込んで、作戦会議が始まった。
「マジすまん‼」と、いきなり頭を下げたのが空也。
「そんなに強く叩いたつもりはないんだけど…」と、モゴモゴつぶやく姿に、
『不良っぽいなりだけど人が好いんだ』と、秋桜は思う。
「大丈夫ですよぉ」と、のんびりした声で夏来も言った。
「でも…」
「いっぱいいっぱいだっただけですから、王様。」
「うん。限界だったからわずかな刺激で弱ったんでしょ。」
女性陣2人に嬉しくない太鼓判を押され、
「いや‼大丈夫な要素まるでないから‼」と、陸が突っ込み、
「でも、なんでみんなこいつの事、王様って言うんだ?」
空也が至極まともな質問をする。
「それの専門家は今回亡くなった一郎さんだったから、うまくは言えないけど…」
久しぶりにそこからかと思いながら、秋桜が『聖人待望』を解説した。
「なんだよ、それ?辛いから、誰かを『聖人』と決めてその人のために苦労するって…」
「合理的っちゃ合理的なのか?でも…」
「聖人、きっついなぁ。」
空也と陸は、お調子者の外見ながら事態をしっかりと見極め、想像力を使って相手をおもんばかれる人間だった。
共犯者に相応しい。
「じゃあさ、空ちゃんも陸君も共犯になってよ」と、夏来。
「共犯?」
「うん。亡くなった一郎さんが言うには、私も秋桜さんも王様も、みんな呪われたんだって、彼に。」
「呪い?」
「そう。大変なことばかり押し付けて先に逝くから、ごめんって。
でも…私はそのこと自体は嫌だとか思ってなくて、この先もみんなで上手に生きていきたいから。」
「みんなで上手に?」
「うん。誰も取りこぼしたくない、お人好しの旦那様(仮)のためにも。」
瞬間、寝具に押し込まれた大樹がガタッと全身反応した。
意識を失っているわけではないから、話は当然聞いている。
全員、気が付いたが…
顔を見合わせ、とりあえず気付かなかったことにして話を継続した。
「共犯になるのはいいよ、事情もきいちまったし。でも、肝心の王様がこれじゃあ…」
半分本気、半分ネタふりみたいな空也の発言。
大樹がこの世界の王であるのは、ただの偶然だと知った。
そしてその王が弱過ぎる。普通が過ぎて倒れそうで、知れば知るほど不安が募る。
ガラスの王様だ。張りぼての王だ。
その弱り切った王様に、意外な人からの攻撃が飛ぶ。
「あ、そっちは大丈夫だよ。一応奥さんだし。」
さらっと言ってのけた夏来に、
「ちょっと待てぇ‼」
「あんたも偶然でそうなっただけじゃぁ?」
「って言うか、夏来、記憶ぅ‼」と、総突込みが飛ぶ。
「‼?‼」
動揺し過ぎた大樹の布団も跳ね上がっている。
「は?記憶って、まさか記憶喪失なの‼」
「マジかよ、これ‼」
新たな爆弾に混乱しまくる一同に、
「はい、記憶喪失です」と、にっこり笑った夏来が、
「でも、私、この人のこと好きですよ」と、気負いも何もなく肯定した。
確かに夏来は、過去の自分を一切知らない。何をしていた人間で、どんな人を愛していたか、知らない。
『内気でおとなしかったよ!』と言う内なる声はあえて無視し、今表面にいる仮名・夏来の気持ちとしては、馬鹿な王が大好きだった。
不器用で、一生懸命で、人に気を使うのに自分を忘れる。
困ったように笑うのも好きだ。
時々見える孤独ごと、役割と本来の性質とが混乱する、その弱さごと気に入ったのだ。
「ま、旦那の尻を叩くのは嫁の役目でしょ。」
Vサインでとんでもないことを言う女王に、
「…」
「……」
「夏来…」
一同二の句が継げなかったが、これはもう、認めるしかない。
「いい性格してんな、お姫さん」と苦笑いの空也に、
「姫じゃないよ、お妃様。女王だよ」と、茶目っ気で返す。
真面目にすごい。
結局『共犯者』になる盟約だけ取り付けて、秋桜、空也、陸は地下3階を去った。
夫婦の一騎打ちが始まる。
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