第4話 白と赤
「おい、中‼」
「大樹も呼ばれたのか‼」
2人の再会は、『帝都感染研究所』なる物々しい名前の施設前だ。
場所なんて知らないから、スマホで調べながら来た。
途中入るブレイクニュースが、新しい病気の発生を告げていた。マスクをしっかり掛けなおす。
バイオテロと言う非道な言葉も聞こえ、大変な事態が起こっていると否応なしに気付かされる。
「ああ、来てくれたんだ、みんな。」
歩み寄ってきた小夜は泣いてはいなかった。
行き過ぎた事態は涙さえ奪う。
ただ普通に、挨拶の続きみたいに説明する。
「小和はテロの起点とされたみたいなんだ。肩におかしな注射跡があるから、10中8、9間違いないらしい。」
「今小和ちゃんは‼」
「大分心音が弱くなってきたみたい。両親は…」
「?」
「年齢的に1番若い小和が頑張っているだけで、先に逝ったよ。」
セリフを読むみたいな、感情のない言葉に絶句する。
今、家族で1人残ろうとする、小夜の心は死んでいる。
深過ぎる絶望の闇に沈んでいく。
「会ってくれる?」と小夜に言われ、
「ああ。」
「もちろん」と頷いた。
大樹と中は一人っ子で、小和のことを自分の兄弟のように可愛がっていた。
ちょこちょこと後ろを付いてくる少女が大人になって、中に至っては淡い恋心さえ抱いている。
4人はそういう関係だった。
研究所に入る時、上から下までつなぎとなった、物々しい防護服を着せられる。
そこまでして尚、減圧室の向こうには行けなかった。
透明な壁越し、遠く離れた少女は顔も見えない。
生きているのが分かったのは、モニターが波型を刻んでいたから。
かけられたシーツが血に染まっている。
体中から血液が流れる、そんな絶望的症状だった。
何もできない悔しさを抱え、また犯人を八つ裂きにしたいのに出来ない無力さに打ちひしがれて、感情を殺したまま見守る小夜と、
「くそうっ‼」と大声を出し、歯噛みする中。
大樹は黙ってシャッターを切った。
あえてピンボケにした、白いシーツに赤いしみが点々と付いたその写真は、確かに心は震えたが望んだものではなかった。
やがて、モニターの波が消えた。
ピーッと言う無機質な音と、真っ直ぐな線が悔しくて…
バイオテロの被害者は万を超えたが、しかしそれ以上には広がらなかった。
対策が功を奏したわけではない。何かが出来たわけではない。
テロリスト側の計算違いだ。起点から直接の感染者は症状も重く全滅したが、2次感染の時点でグッと率が下がり、症状が現れない者も多かった。
3次感染者は0だ。
敵側の不備に救われた、それだけ。
この後、世界は坂を転がり落ちるように乱れていくのだが…
「俺、自衛官になるよ」と言ったのは、小夜だ。
家族を全滅させられ、決して好戦的ではなかった、今もって好戦的ではない彼が、守りたいと願った結果だ。
ずっとニートだった中は、試験を受けて警察官になった。
大樹は…
相変わらず迷いの中だ。
カメラマンとして出版社に就職を果たしたが…
自分の写真に何が出来るか、考え続ける。
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