放課後の音。
これはある日のこと。
給食前に彼女がお腹を空かす音を鳴らさなかった日のことだ。
部活が終わった後、自転車置き場で部活の仲間と話が盛り上がり、帰宅する時間が遅れた俺は生徒がほとんどいないこの時間に帰路に着いていた。
俺は自転車通学だ。
この自転車に乗って、颯爽と道を駆け抜けていく。
正直、気持ちいいと言いたいところだが、普通に自転車漕ぐのが面倒くさい。
ほんとにだるい。
それでも徒歩通学に比べたらマシだから、今の状況を甘んじて受け入れようと思う。
俺はそんなことを思いながら、自転車のペダルをこの疲れた身体にちょうどいい速さで回す。
そうやって微速の自転車に乗る俺が地元にある小さな商店を通り過ぎる時だった。
『ガラーン』
派手な鈴の音がその場に鳴り響きながら、ガラスでできた少しだけ重い扉が開く。
すると、そこからでてきたのは凛瑚だった。
「!!」
「!!」
凛瑚を見て俺も驚いたが、俺を見て凛瑚も驚いている様子だった。
「はる…」
「凛瑚なにやってんの?」
「えーと」
俺が問うと、彼女は視線を逸らしてはぐらかそうとしている。
ここで注意事項として言っておくと、俺らが通う中学校は学校帰りの買い食いは禁止されている。
つまり、今どういう状況かというと、彼女は校則違反をし、俺にそれを見られた状況だった。
「あの店から出てくるのは見たけど」
「それは…」
『サッ』
彼女は、サッと素早く自分の手を後ろに隠した。
「いや、えっと、これはー、そのー」
彼女は俺に見られたくことを誤魔化そうと言葉を探しているが、そんなことは無駄だ。俺の間にしっかりと映っていたのだから、言い逃れはできない。
そんな状況に、この状況を打開するため瞬間が訪れる。
『ぐぅぅ〜〜』
彼女のお腹が今まで1番聞いたことないぐらい大きな音を出してなったのである。
「・・・」
彼女は黙って、俯いている。
「そういうことか」
なるほどね。
俺の言葉で全てを察したようで彼女は俯いたままだが、言葉を述べる。
「お腹減って。それで家まで我慢できなくてこれ買ったの」
そう言って先程俺から見えないように隠した例のブツを見せてくれた。
湯気が立ち込める白い紙袋が現れた。
「大通りのコンビニだとバレると思ってこっちの方に来たのにまさか知り合いにあっちゃうとは思わなかったよ」
彼女は顔を上げてそう言った。
なるほどあっちの大通りだと教師に見つかるリスクが高いもんな。
「秘密にしてっ!私が帰りの途中に買い食いしたこと」
正直、目撃した瞬間から秘密にするつもりだった。その方が彼女との関係性に親密性が増すと思って。
「これ半分あげるから」
そう言って彼女は紙袋からブツを出す。
紙袋から出てきたのは、真っ白で渦を巻いた『ホカホカ』の肉まんだ。
「買い食いって言ったら、肉まんかなって思って」
彼女は笑顔で嬉しそうに語った。
本当に嬉しそうな笑顔で。
その後、俺達はちょっと歩いたところにある裏道のベンチに腰掛けた。流石に店の前で屯していると、見つかるリスクも高くなる上に、店にも迷惑をかけてしまうかもしれない。
多分、俺達二人だけなら、迷惑を開けることはないと思うが。念のためだ、、用心に越したことはない。
「それじゃあ、半分にするね」
彼女の手が直接肉まんに触れて、真んな…
『ホカホカ』
「あっ」
うまく半分に割ることができず、三分の一と三分の二にわかれてしまった。
「はいっ」
彼女は半分分けると言ったことに責任を感じて、俺に大きい方の肉まんを渡してきた。
割った断面から湯気が立ち昇り、非常に食欲をそそられる。
だが、俺には言うことがある。
「俺にはこっちの方をもらう資格がないよ。たまたま通りかかって口封じのために分けてもらう立場なんだから」
俺はそう言って主張して、平手で大きいほうの肉まんを拒む。
彼女の気持ち自体は非常に嬉しいが、それじゃあ、俺が血も涙をない男のようだ。そんな印象を持たれるのは嫌だ。
「こっちのでいいよっ」
俺そう台詞を吐いて、彼女の手から小さく割られた肉まんを掴む。
「で、でも…」
『ぐぐぐぅぅぅ』
「あっ」
彼女の身体の方は素直らしい。
「元はと言えば、凛瑚がお腹が減って食べたいと思って買ったんだから、俺に分けるぎりなんてないんだよ。自分の身体も食べたいって主張してるんだから、遠慮しないで」
「うん。そうする」
彼女はそう返事すると、肉まんを見つめてかぶりついた。
『カプッ』
「んー」
本当に美味しそうに肉まんを頬張って食べている。
俺も食べようか。
でも、なんか申し訳ないな。これ凛瑚が買ったやつだもんな。
とか、なんとか思いながらも俺もかぶりつく。
『カプッ』
「部活終わりにこうやって買って食べると美味しいね」
彼女は俺の口の中にまだ肉まんがあって飲み込めきれていない時に満面の笑みで感想を俺に対して述べた。
「うん。すごく美味しい」
この言葉はきっと俺の思考からでなく、口から出た人間の魂の言葉だ。
無意識のうちにそう返していたから。
「てゆうか、これ食べて夕飯食べれるの?」
「!!」
俺がそう質問すると、彼女は黙った。
『カプッ。モグモグ』
黙った後、彼女は黙々と残っている肉まんを食べていった。
恐らく、沈黙が答えなのだろう。
そんな時だった。
「あっ!」
そして、俺は現実を思い出した。
「どうしたの?」
間違いなく隣にいた彼女は驚いただろう。俺も今絶対に気付きたくないことに気づいた。
というより、受けたら時、彼女の手から直接受け取れることに興奮してて重大なことを見落としてた。
あんまりこの場で言いたくないな。
「俺さ。部活終わってから手を洗ってない気がするんだよね。今日は結構ギリギリだったし」
「あ…」
彼女も気付いたらしい。
「ごめん。私そっちの方まで意識がいってなかったよ。一人で食べるら予定だったし。汚いの食べさせちゃったかもしれない」
彼女は落ち込んだようにして俺に謝罪を述べる。
俺的には凛瑚は問題ない。
問題は自分の汚い手で掴んだ肉まんを食べたことだ。間違いなく俺の手は汚い。彼女の手は綺麗かもしれないが。
「まあ、過ぎたことは仕方ないよ。お互い様だし」
「そお?」
「うん」
「二人とも食べ終わったし帰ろう。これ以上長居しても仕方ないし。今日もおつかれ」
「うん、そうだね。おつかれさま。また明日だね」
「また明日。俺はこっちだから、行くよ」
俺はそういって自転車に跨ってペダルを漕ぎ始める。
「じゃあねーー♪」
彼女はそう言って俺に向かって手をふる。
「じゃあ、また明日ー」
俺も彼女に向かって手をふり返す。
「あっ」
俺は一つ忘れ物を思い出した。
だから、歩き始めた彼女の元にすぐに戻った。手を振っておきながら。後味が悪い。
『キキィィィィ』
「?」
戻った俺に対して彼女は不思議そうな表情を浮かべる。
「次またあそこによる時は、俺も誘って。今度は俺がはんぶんこするから」
俺がいきなりそう言うと、彼女はぽっかりと口を開けていた。
『クスッ』
と、小さく微笑んで彼女はこう返した。
「うん、わかった。絶対誘うね。はんぶんこ楽しみにしてるねっ♪」
この時の満足そうな彼女の笑みはこの世界のどこであろうと中々見れるものでないなと思った、俺。
次回へのプレッシャーがすごい。
でも、かわいいかった。
俺はまだ彼女のことをかわいいと思うぐらいの淡い気持ちしか持ち合わせてない。
授業中にお腹を鳴らして照れる隣席の女子がかわいい過ぎる。 sueoki @koueki
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作者のくだらない呟き/sueoki
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 222話
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