第10話【馬鹿】



 逃げようと思った。けれども、時既に遅しと言いたげにボクを取り囲んだ男共。コイツらが何を考えているかくらいボクにもわかる。

 ボクを玩具にするつもりだろう。

 魔界の最下層で捨てられていたボクを弄んだ悪魔たちと同じ——いや、ひとつ違うところがある。魔界の悪魔たちはボクの力を恐れて、この唇だけは奪わなかった。一見魅力的なボクの契約能力、しかし悪魔たちは知っていた。そのような力は己の身を滅ぼすと。そして、ボクの契約能力を遥かに超える能力を持つ悪魔を殺すなどの願いは叶わず反射され、返り討ちになると。

 何より、魔界では欲しいものは奪えばよかった。強い者が全てを掴むような世界だ。

 爺さんは、それはそれは強かった。


 なのに、何も持ってなかったな。


「ぐへへへ、俺好みのロリボディだ」

「ボクは君みたいなキモメンは好みじゃない」

「言ってくれるね〜、でもそれはそれで悪くない。嫌がる弱者を嬲るのが楽しいんだから」


 嫌だな。こんな奴らに犯されるなんて。

 よし。


「えいやっ!」

「ぶごぉっふぁぁぁ〜ん!?」


 おお、めり込んだ、めり込んだ。つま先がキモメンの大事な部分にめり込んだ。ボクの奇襲に狼狽えるキモメンを両手で押し退ける。


「あっ、おいこらガキ!? 逃げるんじゃねー!」


 逃げるなと言われて、はいそうですかって止まると思うのか? ボクだって悪魔だ。人間ごときに好き放題されてたまるか。

 路地に入り込みガラの悪い人たちをかき分け走る、走る、ひた走る。少し息も切れはじめた時には表通りに脱出出来た。


 さて、男共もまいたし、今後の対策を検討しないと。三度目の彼は今までと違い攻撃的だった。というより疲れ切っていた。

 彼はいつも息苦しそうにしていた。それははじめての彼も、二度目の彼も同じだ。きっと世界に馴染めず辛い思いをしているのだろう。


 この世界には、そんな人が沢山いる。ボクもその一人だ。だからボクのやることは一つ。


「嫌われても、君が好きだから……」


 どうなってもいいなんて思わない!

 必ず君を守ってみせる。運命から守ってみせる。ボクは行きたい。永遠の半月のその先へ——







「なんの真似だ?」

「ボクはお腹が空いてるんだ。中に入れてくれ」

「入れるわけないだろ!? 本当に誰なんだよお前は!」

「ボクは未来から来たネコ型ロボットさ。カップ麺が大好物なのさ」

「知るか!」

「汁だけでもプリーズ!」

「しる違いだ馬鹿!」

「そう言えば、馬鹿って文字だけど、馬と鹿に失礼だと思わないかい?」

「馬も鹿もどうでもいい! はやく玄関の前から消えて——」

「おーっと、それ以上はノンノン!」


 また飛ばされたら困る。下手すると存在まで消されかねないしね。こうなったら最後の手段だ。










 ……


 ちゅるんちゅるん



「……ったく、廊下で泣き真似なんかしやがって。それ食ったら帰れよ?」

「むー……」

「家出少女を養うほど、僕には余裕がないんだ」

「おやすみ〜」

「あっ、おいこら!? 僕の布団で勝手に寝るなって!?」



 こうして、半ば無理矢理、同棲を開始した。



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