第11話【専用】


 ぐぬぬぬぬ……

 ぐぬぬのぐぬぬぅ……!


「ちょっと君! この家事分担はおかしくないかい?」

「当たり前だろ? 居候なんだから、家事くらいはやってもらわないと。炊事、洗濯は勿論、買い出しもやってもらう。あと掃除も……」

「ボ、ボクは専用シェフじゃないぞ!」

「専業主婦な」

「むきー! 前の君はもっと優しかったぞ! それと比べて君ときたら……」

「前とか言われてもピンと来ないよ。それが嫌なら出て行ってもらうしかないけど?」

「……わ、わかったよ。やりますよーだ」


 ふん。この世界線の彼は随分と横暴だな。

 これも一つの可能性なのかな。でも待てよ、今までと違うということは、未来も違って来るのではないか? だとしたら、やることは一つ。


「やるぞー!」


 こうなったら専用シェフとして腕を磨いて、彼の心を鷲掴んででやる! 困難を乗り越えた先にある永遠の半月のその先を見るためなら、ボクはシェフにでもなる!




 彼は仕事に出かけた。

 ボクは言われた通り部屋の掃除をし、散らかっている洗濯物をかき集める。洗濯物からは彼のにおいがした。暫く嗅いでいたけれど、ふと我にかえり作業再開。

 洗濯機というものは便利だ。ボタン一つで全部自動でやってくれる。

 タイマーは四十分か。今のうちに買い出しに出かけるとしよう。



 近くのスーパーに到着。

 ここは彼とよく来た馴染みのスーパーだ。試食コーナーで舌鼓を打ちながら食材を購入。

 今夜はカレーを作るのさ。

 彼はカレーを作るのが得意だ。その彼のカレーを華麗カレーに超えてこそ、彼の専用シェフというもの。

 腕が鳴るぞ〜!





「……カレーって、どうやって作るのかな?」


 帰宅したはいいが、よくよく考えるとボクは料理をしたことがなかった。

 カレー粉と野菜は買ってある。お、恐れることはない。たかがカレーさ。

 さぁ、レッツクッキングだ!







「ただいま〜」



 ……ガクブル



「何がどうなって、そうなったんだ?」

「君にカレーを作ろうとしたんだけど……」

「カレー? この真っ黒な塊が?」

「君はカレーを作るのが得意だった。いつもラーメンばかり食べているボクにカレーを作ってくれたのさ。カレー粉は夢咲スパイスの中辛、人参、玉ねぎ、ジャガイモ、お肉は鶏肉、そして隠し味にカピバラパウダーを……」


 ……あ。


「お前……何者なんだ?」

「だ、だから……ボクは未来から来たんだ。未来の君に頼まれて、君を死のう——」


 声が……出ない?


「お、おい大丈夫か?」

「うん……」


 そうか。未来で起こる大きな事件、生死に関わる事柄、どういう理屈かは知らないけれど、どうやら口に出来ないようだ。


「ボクを信じてほしい。絶対に、外に出ないでほしい日があるんだ……!」

「……信じたわけじゃないけれど、話を聞くよ。と、その前に、まずはカレーを作るか」

「え?」

「手伝ってくれよ、専用シェフさん」

「うん! 任せてくれ!」



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