第34話 手記
処刑執行から逃れた後、ケーナはしばらく領主の城の離れの塔で養生することになった。
ここは昔、カインが領主だったころに二人の寝室として使っていた所だ。領主の間までは窓から飛んでいけばすぐに着くし、夜の時間を誰にも邪魔されたくないとのことでずっと二人で此処に暮らしていた。
懐かしいあの頃。
そう思い出すと、ふとあの時の情景が浮かんでくる。
すると自分の隣に欠伸をしながら横になるカインの姿が見えた。
「あっ」
触れようと手を差し出すとカインの姿が消えてしまう。
急に寂しくなりケーナはそのまま毛布にうずくまって不貞寝した。
数日が経ち、そろそろ暇になり部屋の物を見渡したケーナはふと自分が此処にいたころの物を見つけ、思わず手にとってしまった。
それは「びっくり箱」。
カインはいつもいたずらが大好きで、良く領主の謁見の時にこの箱を渡して人を驚かせていつも一人で笑っていた。
茶目っ気といえば可愛いだろうが、いい年したおっさんが何をしているのか!と当時のケーナはいつも怒りながらカインに説教していた。
びっくり箱を開けると当時のままでバネの仕掛けで「びよんっ!」と魔物の顔が飛び出してきた。
当時の事を思い出しケーナは思わず笑ってしまう。
箱を片付けて元にもどそうと箱を持った時、箱の底にカサカサと何か入っているような音がした。
ケーナは箱をひっくり返し、底を見てみる。
蓋の底の縁の部分を持ち横にスライドしてみると箱の底に何枚かの紙が入っていた。
これは?
紙は貴重なもので当時五人の勇者の一人が古代の叡智を復元すると言って紙の製法を甦らせた。そして王都で紙を作らせたものを数枚、カインの元に渡されていた。
カインはそれを小さく切り分けこの手記をつくっていたみたいだ。
「いつの間に」
そう言ってケーナは紙を手に取ってみると小さい紙に小さい文字で何か書いてあるので少し読みづらそうに目を凝らして文字を読み始めた。
ケーナはずっと一緒にカインといた。
まさか自分の知らない所でこんなものを残しているとは思いもしなかったケーナはアイツ浮気をしていたのではないかと疑いの目でもって手記を読みはじめた。
すると
「愛するケーニャへ」
ケーナはビックリした。
自分の名前が書いてあり、浮気では無いのかとホッとした。
「いずれ私はお前より先に死ぬ。そう思っていつかお前に読んでもらおうと思い、この紙というものに書くことにした。」
「私は勇者としてお前と出会えて本当に良かった。本当は人間を解放できたのであれば魔族と一緒に暮らしても良いのではないかと思っていた。お前と結婚して人間と魔族が共に暮らしていけるのではとも思った。しかし、私には時間が足りなかった。お前との間に子が授かれば民の者たちにもちゃんと解ってもらえるのではないかとも思ったが、お前との間に子を成すこともなく私は歳を取ってしまった。だから、私が死んだ後、お前が人間たちに失望することがあれば魔族の領地に戻るなり好きにしてほしい。ただ人間と魔族と共に生きることを望む者が此処にいたという事を覚えていてほしい」
最後のあたりは涙で字が見えなくなってきたケーナだが目をこすりながら必死で文字を読んだ。
手紙を読みながらケーナは号泣した。
砦の番人ー英雄になる あんこもっち @akishake
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