黒猫からたんぽぽが咲いた。
@musubi_1018
第1話
「私、この子を産む。…それで私がもし死んでも、この子を恨まないであげてね?絶対よ、絶対。ほら、泣かないの!まだ死ぬって決まったわけじゃないんだから、もう。ふふっ。」
その笑顔が太陽の光に照らされて、輝いて見える。
けれど逆に、病弱な彼女の色白さを強調するようにも見えて、思わず夫である和夫は目を逸らした。
----なんだか本当に、もうこの笑顔を見れないような気がしてならなかったのだ。
「嗚呼、分かってるよ。っていうかそんな不吉なこと言うなよー、智美にはまだまだ生きてもらわないと」
「ええー?でもそうね、和くんに子育てができるとは思えないし…」
そして妻である智美と呼ばれたその女は、点滴の針が刺さった、今にも折れてしまいそうな細い手を顔の前まで持ってきては真剣に考える素振りを見せる。
刹那。くすり、と笑っては
「よし。私、この子が20歳になるまで見届ける。だから絶対、絶対生きるわ。死んでたまるもんですか」
と拳を握って見せた。
そう、それがほんの十数時間前の会話。
けれど今目の前には、おぎゃあおぎゃあと泣き続ける赤ん坊と、冷たくなってぴくりとも動かない自分の妻が居る。
「なん、なんで……なんで死んだんだよ智美、智美…!」
「おぎゃ、おぎゃあ…ひく、っ…お、おぎゃあ!」
落とすまい、と不器用な手つきで抱いていた赤ん坊を冷たくなった妻の顔のすぐ横に下ろし、空いた手で冷たい頬をなぞる。
「俺だけじゃ……俺だけじゃこの子を、望を、1人で育てていけないって、なあ、智美…!起きて、くれよっ…」
----旦那である和夫は妻を。赤ん坊である望は母親を。今この時、亡くした。
黒猫からたんぽぽが咲いた。 @musubi_1018
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