第2章 夢遊彩糸の片道切符

第1話 認識欠如の改札

 どうどう?みんな元気にしてたかな?私はこのGWという最高の休日を経て、憂鬱な気持ちで登校している最中の権三だよ。なんで学校があるんだよ…それが学生の本分ってことか...


 別に気乗りしないんだよねぇ。だって...



 時は遡り、GW突入前最後日の放課後、いつもの場所にて。



 というわけで、私、ちょっと実家に帰ってくるからこの場所当分開かないよ。そう蒼月が二人に向けて告げる。


 ちょちょちょ、というわけでって、どういうわけ?まったくわからないんだけど、もうちょい詳しく説明してもらっても?


 いいよ。どっから話そうか。と蒼月は話す内容を選んでいるようだ。


 えーと、ちょっとうちの家系特殊でね、父親は日本人で母親が英国人なの。母はあまり体が強くなくて英国の実家に住んでる。で、父は一応住所的にはこっちなんだけど、仕事柄世界を飛び回ってるから日本こっちに帰るよりかは英国あっちに帰ることの方が多いの。ちょうど、このタイミングであっちにいるみたいだしついでに会ってこようかなって。


 え!?写真とかないの?見たい見たい!見せて見せて!絶対美男美女じゃん!


 結構食いつくね。まあ昔の写真ならあるけどそれでよければ。と蒼月が写真を取り出すとすかさず権三は覗き込む。クリムゾンはそれに続いてちょっと気になるという様相で控えめにのぞき込む。


 そこには6人の金髪の男女と1人のブロンドの男性、1人の黒髪の男性、そして2人の子供が写っている写真があった。


 え!?金髪!?え?子供時代!?!?子供時代じゃん!!!


 髪が金色???目の色が青い?????


 めっっっちゃかわいいんですけど!!!!!誰?この子たちは!?!?こっちの黒髪の男の子が蒼月くんでしょ!!!で、こっちのめちゃ可愛女の子は誰!!!!!


 と、少し興奮しながらも疑問を投げる。どうやら、気になりすぎて写真から目が離せないでいるようだ。


 蒼月は写真を指差しながら家族構成について説明してくれる。


 この真ん中にいるのが祖父母夫妻ね。で、ここが4兄弟の長男、次男で双子の姉妹。その姉妹の姉の方が、こっちで、その旦那がこれ。その間にいるのが二人のお子さんのお嬢様。こっちが妹のほうで私の母、残ったこの人が私の父だね。


 大分最初のころの写真だけどね。母の体調が悪くなる前は日本こっちに住んでたんだけど、ある時悪化しちゃって、そのタイミングで英国あっちに住むことになったんだ。半年ちょっとぐらいだけど。そうしたらあっちのお嬢様に気に入られちゃったみたいで、私が日本に帰ってくるときに一緒についてきちゃったんだよね。


 で、その時の写真がこれ。といって新たにもう1枚の写真を見せてくれた。そこには日本の格式高い屋敷の門を背景に姉夫婦と彼の父親、そして蒼月とお嬢様が写っていた。


 とま、そこからいろいろあるんだけどちょっと話がそれすぎちゃったね。


 彼女は日本に住んでたんだけど今は一旦修行のために帰国してるんだ。それが一通り終わったらしく、あっちの家から迎えに来いとの手紙がきたので迎えに行ってくるよ。だから、2・3週間ぐらい日本に帰れなさそうだから、ここの鍵も完全に閉めるよ。


 迎えに来い???何様よ!?と少し怒ったような声色で聞く。


 何様と聞かれましても...御嬢様?と少し茶化し気味で答えた。


 ってどう上手い事言えと!?!?まあ一旦いいや。


 じゃあ、紫月君がここ開ければいいじゃん??どうせ、暇でしょ。と、話の標的を紫月に変えた。


 ...なんでお前のためにわざわざ開ける必要がある?ってか暇じゃないし。

 紫月はまたダルイやつきたなとか思いながら返事をする。


 もうなんで紫月君までいないのよ!いいわ、言い訳を聞こうじゃないの。


 紫月はきっぱりと言った。


 いや別に普通に居ない。実家帰る。


 えぇ!?実家!?紫月君も実家帰るん!?!?一緒に実家帰らせてくださいお願いします。


 するかよ。それ以外にも用事入ってるから当分帰ってこないぞ。


 そんなぁ...と落胆する権三であったが残った1人にすがるような目を向ける。


 いや、そんな目で見られても別に開けないわよ。居たとしても七の店の方にいるわよあたし。


 その言葉を聞いた彼女はぎこちない顔になった。


(げ、あの人の店にいるの???まじかぁ、あそこ怪しい草煮てたりするからなんかやなんだよなぁ...)


 ふーん、ということはしょげ。普通の休日として過ごすしかないみたい...


 権三は何か決意したようでうんうんとひとりでにうなずきながら2人に向かってこう言い放つ。


 もう、2人とも早く帰ってくるんだよ!?超絶可愛い私との約束だよ!?


 もちろん。

 ...はぁ。


 という二者二様の反応を見せたのであった。




 とまあ、こんなことがありつつ、現在いまに至るのであった。


 今日もまだ帰ってこないのかなぁ、約束したんだけどなぁ。まあ、楽しかったよ?GW。バイトに遊びにお出かけも。でも、何かが足りないじゃん。そう、イケメンがね。


 せっかくの連休だからみんなと沢山遊べると思ってたのに...


 そう思いながら学校に足を進める。その足取りはとても重い物であった。



 学校の授業も休み明けということもあり大したことはやらなかった。まあ、生活習慣直そうな^^ってことなんだろうけどさ。


 いやどうしよう、今日の帰り。行く場所もないからなぁ。あいつと帰るか一人で帰るかか...いや、あいつの今日の持ち物やけに多かったような...


 そう悩んでいるうちにクリムゾンの方からこちらに近づいてきた。


 あの、ひさしぶり。

 いつもお世話になってるからさ、これ…おすそ分けです、もらってください。

 それじゃ、今日はバイト入ってるから先に帰ります。すんません。


 そういってそそくさと帰っていった。私の手にはビニール袋一杯の筍が残された。


 …?え?筍やん。え?ちょっとって…もういないの?相変わらず足だけは早いわねぇ...


 これどうするかな...取り敢えずママに写真送っとこ。


 パシャ


 友達からもらったこれisどうしたらいいの?


 よし!送信っと。まあ、今日は荷物軽かったし、許してあげないことはない。


 あいつ、そういえば最近バイト始めたんだっけか。バイト先は確か...八百屋さん?なんか井戸端会議にごく自然に混ざってたのびっくりしすぎて二度見した記憶あるわ。


 まあ、よかったんじゃない?都会に馴染む第一歩としていいんじゃない?その関係でこの休み中に山へ山菜取りに、川に釣りをしに、畑の手入れの手伝いに行ってくるっていう話だったし...


 …あれ?高校入る前とやってることあまり大差ないのでは???


 よし、この話はやめよう。もう、紫月君と会ってないせいでうまくまわらないなぁ。


 よし!こんな時こそ美味しいものを食べるに限る!


 さてさてさーて、なにかよさげなものはあるかな???


 お!?新しいお店だ…しかも期間限定出店!?レビューも良いしここ行くしかないでしょ。


 そうして権三はスマホで調べた店に行くのであった。


   ドリームレンドステーション

 #期間限定 #夢のような新体験 #甘美な夢 #映え

 レビュー 平均4.7


 星5 ここのパフェはとてもおいしいです!期間限定なのが惜しい!

 星5 まるで幸せな夢を見ているような幸福感で満たされました!

 星5 最高です!毎日食べてます!!テイクアウトのドロップドロップは信じられないくらい美味しいです。是非食べてみてください!

 星5 店主のおすすめに勝るものはない。私の良き理解者すぎるよ(泣)

 星4 このパンタマカロンは今までになかった刺激を私に与えてくれました。この店に出会えてよかった!!通販もやっていたらよかったのに。

 星5 美味しい!映え!美味しい!最高!美味しい!神!もうこれ以外の食べ物はいらないよ!みんなもこの夢を食べようよ!!!!! 』



 メインの通りを少し逸れた所にその店はひっそりとあった。

 その通りにしては一際目につくどこか異質な色をしていた。


 あまり人気ひとけのない中にポツンとあるその店には行列ができていると思いきや、今は列ができていないタイミングのようだ。


 彼女はたまたま人がいない時間に来れてラッキーと思いすぐさま店に向かった。


 扉を開けると不思議な香りが貴方を襲うだろう。また、ドアベルがカラカラと少し不愉快に感じる音だなと思った。


 店の内装は大きなショーウィンドウが目の前に1つ、イートイン用の席が4席ほど、奥にもスペースが続いているようだが、なんか別の用途で使う場所みたい。


 それもつかの間、店主と思わしき長身の男性がショーウィンドウの向こうから話しかけてくる。


 お客様、いらっしゃいませ。

 ようこそ【ドリームレンドステーション】へ。

 初めてのご利用でしょうか?


 すかさずそれに頷く。どうやらあまりに店主の姿に見とれていたらしく言葉がとっさに出なかったようだ。


 当店では皆様方のその日の"感情"によって提供する商品やサービスのおすすめを提案させていただいております。勿論、こちらの通常商品の中から選んでいただいてもかまいませんが。


 と、ショーケースを示す。そこには色とりどりの琥珀糖や金平糖、シンプルなキャンディー等が陳列されていた。


 まるで宝石のような煌めきに眼を奪われていたが、そこで店主が話し始める。


 もしよろしければこちらの札を引いてみませんか?


 そういって何処からか5枚のカードを取り出した。

 赤、青、緑、黄、そして透明。いづれも透け感のある素材のようだ。


 それぞれの色の意味は想像通りかと思われます。いかがでしょうか?


 権三はいつの間にかそのカード達に惹かれるようにしてカードを2枚引いていたのであった。


 引いたカードの色は赤と青、重ね合わせると綺麗な紫色に輝いていた。


 紫色ですね、カードをお返しいただいても?


 そう言われたので、素直にカードを返した。

 紫色だったなぁ…


 少々おまちくださいね。

 そういって、店の奥になにか取りに行ったようだが、すぐに戻ってきた。


 その手には2つの商品が、1つは丸い瓶に入っている飴のようなもの、もう1つは細長い香水瓶のようなものだった。


 店主が話し始める。

 今回紹介させていただくのは弦月祓いの旋律と夢見の甘露となります。


 ほえー。なんかお洒落だし可愛い♪


 店主が説明を続ける。

 こちらの弦月祓いの旋律はあなたの持つ少しの不安を書き消してくれます。気持ちですけどね。

 ~貴方の心に巣食う魔物をこの旋律で祓うよ☆~


 次に夢見の甘露ですね。

 こちらは寝る前に使用する商品となっております。一滴部屋に垂らすだけでとても高い睡眠効果を得られると紹介させて頂いております。

 香りの方はベースは程よく軽く甘いものになっており、それに加え今回はラベンダーのフレーバーとなっております。


 貴方はとてもそそられる商品だなと感じるだろう。


 最近バイト尽くしだったから睡眠もなんかな。


 勿論、それだけが原因ではないことは明らかだが。


 決めました!この2つと後、このシュークリームの二重奏下さい!


 承知致しました。料金は1,660円となります。


 と言いながら、店主は丁寧な手つきで商品を包む。


 権三はお買い上げありがとうございましたという声を後ろに自宅への帰路に着くのであった。


 その姿は店に入る前とは違い、まるで突如不安が無くなったかのように何時もの様子に変わっていたのであった。


 家に帰って商品を取り出す際、1枚の紙が入っていた。内容はこのチラシを持ってきた方限定メニューのお知らせというものだった。


 明日も絶対行かなきゃ!明日も絶対行かなきゃ!明日も絶対行くしかない!


 そう思って彼女は心地の良い香りの中眠りに落ちていくのであった。
























 気がつくと私はあの店の前に立っていた。


 あれ?今日も授業あったはずなんだけど。


 うーん。集中しすぎて時間たつの早かった系?


 まあ良いか!それよりそれより限定メニューの方が気になるでしょ!?


 気が付いたらいつもの場所にいてよかった!!


 カランカラーンと耳当たりのよいドアベルの音が響く。


 店長ー今日もきたよー!!


 いらっしゃい、今日は何が食べたいかな?



 そうして彼女は欠けた記憶を意にも留めずただただ目の前の店に吸い込まれて行ったのであった。





 権三 導入 終わり


 クリムゾンの導入に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

賽と悔の境界線 宵機 @yoiaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ