第9話 帰還!!


 そうして集まった3人は改めて現在の状況を整理することにしたのであった。


「で、結局なんか見つかったの?」

「例のごとく砂浜には砂に埋まってた石板ぐらいしかなかったな。」

「今って石板?って何枚ぐらい集まったんすか?」

「えーっと、ひーふーみーよー。10枚だ!」


 その枚数を数えてはキャッキャしていた。


「わーめっちゃ集まったなぁ。最初の話だと集めたら脱出できるみたいな言ってたけど。」

「そこんとこどうなのエネちゃん?」

「そーですね。こんなものでまあ足りるでしょう。で、これをぎゅっとしてポンでぴってしたら帰るための扉ができます!」

「ぎゅっとしてぽんでぴっ?」

「ぐってしてぎゅんでズバーンってかんじね?」

「...」


 とてつもない高次元の会話に適応した者とそうでない者、あきれて言葉が出ない者に分かれてしまったが会話はまだ続く。


「エネちゃんの事お持ち帰りとかってできないの?」

「えへへ。そう言ってもらえるのはうれしいけど、此処に居る私は本物じゃないからね~。」

「えー、じゃあ、現実でもまた会えたりする?」

「どうかな~。今は無理だけど、近いうちには会えるようになれたらいいね~。」

「そっか...でも私、待ってるからね。」

「...はい!」


 どこか一瞬顔が曇ったが、それが彼女らに悟られることはなかった。


「では、開けちゃってもいいですか?」

「うん♪」

「お願いします。」

「...ああ。」


 えーいっという何とも緩い掛け声とともに集められた石板が消え一枚の光の扉が現れた。


「これが帰る為の扉です。私がお手伝いできるのはここまでです。気を付けて帰ってくださいね。」

「うん!じゃあ、私行くね。エネちゃん、またね。」

「...はい!」

「待ってってばー。」


 そうして二人は帰れると知って意気揚々として扉に入っていった。


 残りの二人は少し会話を交わす。


「あいつらにとってはこれで終わりだが、俺らにとってはこれからなんだよな...」

「そうやねー。一息付けるのもここが最後。」

「はぁ、この後を考えるとまじで行きたくないな。」

「...でも行かなきゃならない。そうでしょ?」

「それはそうなんだが。こんなのも久々になるからなのかな。」

「それはそうだよ。あんな日々に返ってたまるかって。でも...」

「でも、逃れられないものはしょうがないよな。ったく、病み上がりだっていうのに。」

「そうだよ!私が囚われる前でさえボロボロだったのに。今でさえ全快じゃないんでしょ?」

「あんなが数か月で治ってたまるか。というか仮に治ったとしてもその強度までは戻せないし。」


 そういいながら詠は扉に近づいていく。


「だよねー。まあ、気長に待っとく。」

「ああ、待ってろ。」


 そう別れの言葉を告げ、扉をくぐろうとする。


「じゃ、また。」

「うんまたね、私の!」


 と、彼女は彼をおちょくりながら別れを、いや再会の約束を交わした。


「ちょ、おいまてt...」


 彼は心の中で思った。


(あいつまでその呼び方でいじってくるのかよまじで...絶対わかっててあの言い方してきやがったなぁ。...よし、次あったら絶対〆る。)


彼は心の中でそう固く誓ったのであった。





 扉をくぐったその先には夜の屋上であった。先ほどまでの屋上とは違い、時間が夜になっている。明かりも多少はついているがこの暗さでは心許ない。


 また、かすかに吹く夜風のようなものが肌を撫でる。普段の状況なら心地よさを感じるものだが、今のこの特殊な状況下では不気味でしょうがなく感じてしまう。


 てっきり扉を抜けた先は自分の見知った部屋になっていると思った二人は呆気にとられている。



         しかし、はそこに存在した。



 名状しがたい物体、常識では考えられない、脳が認識することを拒むモノ、その体は泥のように零れていて、時たまボコボコと何かが沸き上がるような音がする。


 足が六本も七本もあるように見え、色々な生物のパーツを継ぎ接ぎにくっつけたような異形。


 その顔はいくつもの表情を福笑いのように並べられているようにも見え、そこから聞こえもしない狂った笑い声が聞こえるような気さえもする。


 そんな異形を見た彼らはというと、


「なんかやばいの居るんだけど。」

「ひえ~。そげん怪物が都会にいるんと?」


 あんま驚いてなかった。というより、そういうアトラクションか何かか今の非日常にとってはあまり非常識だとなことではないと無意識のうちに補正をかけているのかもしれない。


「ここの出口はあのデカブツをはさんで向こうだ。」


 と、ヌルっと合流した紫月はあのデカブツを挟んだ向こう側にある透明な扉を指さした。


「帰れるんじゃなかったのー?」

「帰るの扉っていってたな。」

「ふーん。」


そういっておもむろにあの異形に対して先制攻撃を仕掛る権三。


「行き場のないこの思いを乗せてユニコーンキィィーーーック。」


しかし、その攻撃が届くことはなかった。


「え!?私のこのユニコーンキックが効かないだと!?」


 その隙を逃すまいとすかさず怪物からの反撃が飛んでくる。それを避けることが、今回は運よく成功したみたいであった。果たしてこの幸運が何回続くのだろうか。


(おいおい、いきなり何してんだあいつ。普通、一般人ってああいうの見たら割かし正気を保てなくなる場合が多いんだが、なんであんな何ともない感じなん?というか、普通いきなり攻撃する?ああいうのにはかかわらないで逃げるのが一般常識だと思ってたんだが...

 後、何のすべも持ってない奴の蹴りが効くはずがないんだけど、かすかにはダメージ入ってたな。…にしても、あれじゃ焼け石に水じゃないか。

 まあ別にいっか。ここなら干渉しやすいし、強制送還させてもらおうか。でも、それまでに死なれると困るな。あの調子じゃいくら命があっても足りないし。ま、最悪あいつらさえ生きてれば今回の目的は達成するし、それでいっか。

 さて、やりますか。)


 彼は彼なりに考えるところであったんだろう。時間稼ぎを目的として戦闘に参加した。


 進展がないまま数回の応戦があった。決定的な打撃が与えられないまま時間が過ぎ、その時がやってきた。


 権三がついに攻撃を避けることができなかったのだ。紫月はあいつには悪いがちょうどよいタイミングだ思い、すかさず権三を突き飛ばした。本来彼女を突き刺すはずであった凶悪な爪が彼の身体に突き刺さる。


 権三の顔が驚愕の色で染まる。それはいきなり突き飛ばされたことに対してのものなのか、それとも、自分をかばって身代わりになった事なのかは本人のみ知っている。




   突き飛ばされた後、彼女の身体が地面に叩きつけられることはなかった。







    視界が光に呑まれ、意識が遠のく。

 











    最後に彼が掛けた言葉は____




















   

     一体何だったんだろうか?

















 貴方達は目が覚める。何か夢を見ていたような気がするがどうも頭が痛い。


 忘れてはいけない、忘れたくない、忘れるべきではないと心が叫んでいる。


 しかし、現実は非情だ。


 ただの一般人にかの神からの些細な干渉に抵抗する術はない。


 微かにあった記憶もまるで靄がかかったかのように思い出せなくなる。



 そういえば、明日は高校の入学式。


 何事も掴みが大拙だと思っている彼らは夢のことなどすっかり意識の外に放りさっていた。


 だから気づかなかった、彼から託された一通の手紙を。






次回予告 

 第1.5章 ドキドキ!?ワクワク♪たのしい高校生活☆彡


遂にやります、日常回。ネタ募集中です。要望あればどうぞ。


 

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