第3夜

プルルルルルルルルルル

今日も着信が鳴っている。

画面は見なくてもわかる。渚だ。

そう思って着信画面を見ると、友だちだった。

どこかガッカリしたような気持ちになりながら電話に出る。

ピッ

「もしもし。ーーーああ、うん。それだったら今度で大丈夫だよ。ーーうん、じゃあまた明日。」

手短に電話は終わった。

用件はこないだ貸した漫画を返すのが遅れるという内容だった。

電話ってこういうもんだよなぁとふと思う。

最近渚と長電話ばかりしていたからなんだか変な感じだ。

そう思っているとまた着信が鳴った。

プルルルルルルルルルル

画面を見ると、案の定渚だった。

最近よく掛けてくると思ったら3日連続だ。

さすがにこの時間に掛けてくるのは渚だけだと思ってしまうのも無理はないと思いたい。

ピッ

また気だるいそぶりをして着信に出た。

「もしもし。」

『もしもし!』

「今日も掛けてきたのか?」

『なんでちょっと嫌そうなの?』

むくれた声で返ってきた。

「お前なぁ、3日連続だぞ。用もないのに掛けてこられたら、さすがにうんざりもするだろ。」

『酷いなぁ。用ならあるもん。』

うんざりと言われたのが不服らしく、またもむくれた声だ。

「用ってなんだよ?」

『雄介の声が聞きたいって用事!』

照れているのが隠しきれずにどこかにやけているような声で渚は言った。

「それは用事のうちに入んねえだろ。」

『え~?大事な用事だよ?』

「学校でも会えるし話せるのに?」

『学校じゃ独り占めできないもん。』

恥ずかしそうな声音で言う。

「独り占めなんてしてどうするんだよ?」

『雄介との時間を楽しむ!』

嬉しそうな声で答えた。

「なんだそれ。」

『雄介を独り占めしてないと話せないこともあるでしょ?』

「例えば?」

『うーん…なんだろ?』

とぼけたように笑う。特に思いつかなかったらしい。

「なんもないのかよ。」

『えへへ。でも雄介と話せるだけで私は楽しいよ。』

声からもデレデレした様子が伝わってくる。

まったく、こないだから何なのだろうか。

小悪魔なそぶりというかこの度々見せるこのデレは。

すっぱり聞いてみるかと俺は自分を奮い立たせる。

「お前さぁ、俺のこと好きなの?」

『雄介が好きって言ってくれたら、私も好きになってあげる!』

よく分からない返答が返ってきた。

「じゃあ、俺のこと好きじゃないんだな。」

『え!?いや!そこは違うじゃん!!雄介が好きっていうとこじゃん!!』

焦ったように渚はまくし立てる。

「なんでだよ?お前が俺を好きかどうかって話だろ?」

『そ、それは…』

口ごもる渚。しばらく待ってみるが、続きの言葉は出てこない。

『そ、そういう雄介は好きな人とかいないの!?』

話題が逸らされた。余程言いたくないらしい。

「…気になるの?」

鎌をかけてみる。

『別に~。気になったから聞いてみただけ!』

「なんだそれ。お前は?好きな人いないわけ?」

『私?私は…』

またも口ごもった。少し間が空いて、渚がゆっくりと口を開く音がする。

『いるよ、好きな人。』

「へ~。」

俺だろうか、と考える。

でもさっきはぐらかされたしな…と気にしないフリをした。

『聞いてきたくせになんで興味なさげなの~?』

渚は不服そうだ。

「なんとなく聞いただけだからな。」

『ふーん…。』

渚はなおも不服そうだ。

『それで?雄介の好きな人は?』

「え?」

『私だけ言わされるなんてずるいじゃん!』

「そうは言われてもなー、いないからなー。」

たぶん、と心の中で付け加える。

『いないの?』

「うん。」

『そっかぁ。』

電話の向こう側からは、ほっとしたようなガッカリしたような声が聞こえた。

『でも!てことは私にもチャンスがあるってことだよね!!』

思ったことが口からついて出たらしい。気を持ち直すような明るい声で言った。

「…私にも何だって?」

突っ込んでいいものか迷いながら尋ねると、渚は慌てた様子で返事をした。

『ななな、何でもない!!!』

「そうか?」

『うん!それよりさ、今日さっちゃんに聞いたんだけどね!駅前に新しいクレープ屋さんできたんだって!』

「へ〜。」

『明日帰りに一緒に行こうよ!』

「え~。友だちと行けよ。」

『どうせ帰る方向一緒なんだからいいじゃん!一緒に行こうよ!』

「やだよ。見かけたやつに冷やかされたらめんどくさいだろ。」

『え~。行こうよ~!』

拗ねたような甘えた声で言ってくる。

「そんなにクレープ食べたかったら一人で行ってこいよ。」

『それは寂しいじゃん!』

「じゃあ友だちと行けよ。俺は行かないぞ。」

『え~!ケチ~!仕方ないから、さっちゃんと行こうかな~。』

「おう、そうしろ。」

『あ、雄介の分も買ってきてあげようか?』

「俺はいいよ。」

『え~?甘いもの意外と好きでしょ?』

「意外ととは何だよ。失礼だな。」

甘いもの好きを覚えててくれてることにほんの少し嬉しくなった。

『だって雄介のゴツい体格からは想像できないじゃん!』

「ゴツいって…男子高校生なら普通ぐらいだろ。」

『そう?クラスの中でもゴツい方だと思うけど。』

「そうか?あんまり気にしたこと無かったなぁ…。」

『弓道してるからゴツい感じになっちゃったのかもね!』

「関係あるのか?」

『さあ?』

「適当だなぁ。」

『どっちにしても雄介がゴツいのは事実だしね!そんなゴツい雄介のためにクレープ買ってきてあげる!』

「いいって。今度自分で買いに行くよ。」

『でも男子がクレープとか買うのって勇気いらない?』

「そうか?俺はあんまり気にしないけどな。」

『男子がクレープとか食べるイメージあんまりないじゃん。』

「そうなのか?帰りにみんなで甘いもの買って帰ったりするけどな。」

『へ~!そうなんだ!なんか意外!』

「お前が偏見持ってるだけじゃないか?」

『そうかも。それか、雄介が甘いもの好きだから周りも甘いもの好きとか?』

「あー…どうなんだろうな。でも食べ物の趣味が合うやつは多い気がする。」

『へ〜!例えば?』

「好きなお菓子とかさ。遊ぶ時に買ってきたり選んだりすると何人かと似たようなもん選んだりするんだよなぁ。」

『そうなんだ。意外と男子にも甘いもの好きが多いんだねぇ。』

「だからお前の偏見だって。男が何を好きだと思ってたの?」

『んー?ガッツリ肉とか。』

「あー、まあ、それも好きだけどな。」

『やっぱり!』

どこか嬉しそうなことが声からも伝わってくる。

『女子は遊ぶって言ったら、ショッピング行ったりカフェ行ったりカラオケ行ったりするじゃん?男子は遊ぶって言ったら何するの?』

「まあ、買い物行ったりカラオケ行ったりする時もあるけど、誰かん家行ってゲームすることが多いかな。」

『そうなんだ。なんのゲームするの?マリパ?』

「なんでそこでマリパなんだよ。マリパもするけどさ。」

思わず吹き出してしまった。

『いや、友だちとするゲームと言えばマリパかマリカーかなと思って。違った?』

渚もつられて笑っている。

「違うこともないけど、どちらかと言うとホラゲとかの方がするな。」

『ホラゲ!?えー…怖くないの?』

驚いた後、不安そうに聞いてくる。

「そんなに怖くないよ。幽霊じゃなくてソンビが出てくるやつだし。」

『ゾンビ!?もっとやだよ~!』

自分がするわけでもないのに渚は大袈裟に嫌がってみせた。

「大袈裟だなぁ。渚がゲームするわけでもないだろ?」

『それでもゾンビゲーなんか嫌だよ~!ほんとに怖くないの?』

「怖くない怖くない。なんか急にゾンビが襲ってきたりするだけ。」

『えぇ~。想像するだけでも怖いよ。それでゾンビと戦ったりするの?』

「そうそう。仲間と協力してね。」

『難しそうだなぁ…。』

「ゲーム初心者の渚には難しいかもな。」

話のキリが良くなったところで時計を見る。

もう22時過ぎだった。

「なあ、そろそろ電話切るか?」

『え~?なんで?まだ喋ってたいよ。』

「そんなこと言って、お前どうせまだ今日の宿題やってないんだろ。」

『なんでわかったの~?』

悲しそうに不貞腐れる声が聞こえる。

「俺も宿題しなきゃだし切るぞ。」

『はぁい。また明日ね。』

「じゃあな。」

そう言って電話を切った。

今日友だちから電話がかかってきた時のガッカリしたような気持ちを思い出す。

「…好きになり始めてるのかな。」

そんなことをポツリと呟いた。

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