第2夜
プルルルルルルルルルル
今日も着信が鳴っている。
着信画面を確認すると、渚だった。
今日もか、と少しめんどくさそうなそぶりをする。
「また今日も何の用だよ?」
『違うの違うの!今日は聞いてほしい話があるの!!』
「なんだよ?」
聞いてほしい話と言われると興味がそそられる。
渚の声も少し興奮気味だ。
『同じクラスの佐々木さんっているじゃない!?』
「あー、美化委員の。」
『そう!その佐々木さん!加藤くんと付き合い始めたんだって!』
「へ~。」
聞いてほしい話という割にはあまり興味がない話だったから反応も薄くなってしまう。
前のめりに聞いていた姿勢も崩れ、ベッドにボフッと倒れた。
『え~?なんでそんな興味なさげなの?加藤くんと仲いいでしょ?』
「まあ、加藤とは仲いいけど…」
『友だちが付き合い始めたとか気にならない!?しかも一見地味な佐々木さんと!!』
どうやらその一見地味な佐々木さんがクラスメイトと付き合い始めたことが渚は気になるらしい。
鼻息が聞こえてきそうなくらい興奮気味に話す。
「別に。そういう話聞いたことなかったからビックリはするけど…」
『でしょー!?』
早とちりな反応が返ってきた。
『加藤くんが佐々木さんを好きそうなそぶりとかほんとに全然なかったの!?』
「んー…たぶん?俺はそういう話聞いたことないけど。」
『そっかぁ。それにしても意外だな~!加藤くんと佐々木さん!ねえ、そう思わない?』
「まあ、意外ではあるな。」
『だよねぇ!どっちから告白したのかな~!』
「さあな。」
『明日、加藤くんに聞いてみてよ!』
「え~、やだよ。」
『え~、なんでよ~!』
「そういう話を友だちとするのあんまり好きじゃないから。」
『んー、じゃあ仕方ないなぁ…。好きじゃないことを無理強いはできないもんね…。』
意外とすんなり引き下がったことにほっと胸を撫で下ろす。
『自分で加藤くんに聞いてみよっかなぁ~!』
「いや、やめとけよ。」
『え~?なんで~?』
「俺だったらあんまり聞かれたくないから。」
『え~?そうかなぁ?案外嬉しそうに話してくれるかもよ?』
「だったらもうとっくに自分から話してるだろ。」
『それもそっか。じゃあやめとくか~。でも気になるな~!』
「何がそんなに気になるんだよ?」
『どこが好きになったのかな~とか、きっかけは何なのかな~とか、どっちから告白したのかな~とか!』
「気になるもんか?」
『気になる気になる!』
「ふ~ん…。」
『ち、ちなみに、雄介はどんなタイプの子が好きなの?』
「俺?」
『そう。』
声色にどこか緊張した面持ちを感じる。布がこすれたような音がした。ぬいぐるみでも抱きしめているのだろうか。
「うーん…好きなタイプかぁ…あんまり考えたことなかったなぁ…。」
『じゃあ好きなタイプないってこと?』
驚いた様子で返答が返ってきた。言外に拍子抜けした感じが伝わってくる。
「ないこともないんじゃないか?」
『じゃあ、今まで好きになった子はどんなタイプだった?』
再び緊張したような声色で尋ねてくる。
「んー…今まで好きになった子か…笑顔がかわいい子、かな。」
『なにそれ!そんなのみんなかわいいじゃん!』
「なんか、きゅんとくる笑顔があるんだよ。」
『えー!そんなのわかんないよー!』
「いいんだよ、俺が分かれば。」
『そんなの困るよ!だって…』
何かを言いかけて急に口ごもった。
「だって?」
『だ、だって!雄介が好きになる人見分けられないじゃん!』
「見分けられてどうするんだよ?」
『そ、そりゃあ…その、根掘り葉掘り聞くんだよ!』
「なにを聞くんだよ?」
『どうやって雄介を落としたのか聞くの!』
「落としたって…人聞き悪いな。その子にはそんなつもりないかもしれないだろ。」
『わかんないよ?作為的に雄介を落としたかもしれないじゃん!』
「そんな作為的になんてひっかかんねえよ。」
『わかんないよ~?鈍感な雄介をうまいこと誘惑して落としたのかもしれない!』
「ひっかかんねえって。」
『男を落とすのがうまい女の人だっているんだからね!雄介も気をつけないとだよ!』
「はいはい。」
『冗談じゃなくて~!』
「はいはい、わかったから。」
『もう…先に他の人に落とされちゃ困るんだからね。』
もう、の後がボソボソと言っていてうまく聞き取れなかった。
「うん?なんて言った?」
『なんでもないよ~!それより、今日の晩御飯なんだった?』
「今日の晩御飯?」
『そう!晩御飯!』
あからさまに話題を逸らされた気がしたが、気にしない振りをした。
「うちはハンバーグだったよ。」
『いいなぁ~!うちは唐揚げ!』
「唐揚げもいいじゃん。」
『まあね~。雄介は唐揚げとハンバーグだったらどっちが好き?』
「えー?迷うなぁ…」
『どっちも美味しいもんね!』
「そうだなぁ…ガツンと食べたい時だったら唐揚げかな。」
『ほうほう。じゃあハンバーグは?』
「肉が食いて~!ってなった時かな。」
『うん?それって何が違うの?』
「ガツンと食べたい時はどちらかと言うと油っぽい物が食べたいイメージで、肉食いて~!って時はとにかく肉々しい物が食べたいって感じ。わかる?」
『うーん…なんとなく分かるような気がする!』
「そう言う渚は唐揚げとハンバーグどっちが好きなんだよ?」
『迷うよね~!どっちも好きなんだもんなぁ!』
「わかる。」
『でも、誕生日だったらハンバーグ食べたいかな。』
「なんで?」
『なんかほら、ハンバーグって豪華な感じしない?』
「あー、なんか分かるかも。」
『ね!なんとなくハンバーグ出ると、今日はご馳走だ!って思う。』
「じゃあうちは今日ご馳走だったんだな。」
『そうだね!そういえば、雄介の好きな食べ物ってなんだっけ?』
「俺の好きな食べ物?オムライスかな。」
『オムライスかぁ!美味しいよね!』
「うん。特にデミグラスソースかかってるやつが好きだな。」
『へ~!ケチャップじゃなくて?』
「そう、ケチャップじゃなくてデミグラスソース。」
『へ〜。デミグラスソースソースのやつって、中ケチャップライスなの?』
「ケチャップライスというか、チキンライスだな。ケチャップ味がついてないご飯の時もあるけど。」
『そうなんだ!雄介はどっちが好き?』
「うーん…どちらかと言うと、ケチャップじゃない方が好きだな。でも、だいたいオムライスはチキンライスが多い気がする。」
『その、ケチャップライスとチキンライスって何が違うの?』
「ケチャップライスはケチャップだけで味付けしたやつのこと。チキンライスは、ケチャップで味付けしてるんだけどチキンとか他も具材も入ってるやつのことらしい。」
『へ~!詳しいね!』
「俺も前に気になって調べた。」
『そうなんだ。そういうちょっとマメなところ、好き、だよ…?』
少し照れくさそうに渚は言った。
「ありがと。そういう渚はちょっと気になったこと調べたりしないの?」
『するかも!』
「じゃあお前もちょっとマメなんだな。」
『ほんのちょっとだけだけどね~。』
時々見せる照れくさそうなデレになんとなく引っ掛かりを感じながら会話を続ける。
『あ、ねえ!今日の体育さ、バスケだったじゃん。』
「おう。」
『雄介いっぱいシュート決めててかっこよかったね!見てたよ!』
「おう、ありがと。あれはバスケ部のやつらのパス回しが上手かったおかげだな。俺はあんまりマークされてなかったからよくシュートのタイミングでボールが回ってきたんだよ。」
『そうだったんだ!てことは、やっぱりバスケ部って上手いんだね~!』
「そうだな。あいつらのすごいところは、ゲーム中よく周りを見てる事だよな。」
『ね~!私ゲーム中はパニックになっちゃって周りのことあんまり把握出来ないよ!』
「すごいよな。俺も誰がボール持ってるかぐらいしか把握出来ねえや。」
『それでもシュートいっぱい決めれてすごいね!』
「たまたまだよ。今日はたぶん運が良かったんだな。」
『わかんないよ~?バスケの素質があるのかも!』
「あったとしても、もう弓道部に入ってるから今更部活変えれないけどな。」
『それもそっか。ねえ、他に入ってみたかったなぁって部活とかある?』
「考えたことなかったなぁ…弓道楽しいし。まあ、でも、ほんとに素質があるならバスケかな。」
そんな素質なんてないんだろうがと言外に含ませて笑う。
「渚は?陸上部楽しい?」
『楽しいよ!タイム縮んだ時とか特に!』
「そっか。」
『タイム縮められるまでは苦しい戦いだけどね…でも走るの気持ちいいし、タイム縮めるために試行錯誤して努力するのは楽しい!』
「部活は楽しいのが一番だよなぁ。」
『そうだね!もし、部活でなにか辛いことがあったら、何でも話聞くからね!』
「おう、ありがとう。」
もしかしたら、最近調子が悪くて悩んでることを見抜かれたのかもしれない。
「ところで、今日の宿題終わったか?」
そう聞きながらチラリと時計を見る。もう22時前だ。
『えー、なんでいきなり宿題の話?』
不服そうな声が聞こえる。
「時間も時間だろ。終わってないならそろそろ切らないと。その反応だとまだ終わってないんだろ。」
『ちぇっ。バレバレかぁ。もうちょっと話したかったのになぁ。』
「また明日な。」
『はぁい。じゃあね。』
そう言って電話を切った。
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