わっふぅぅぅぅん
副音声:ちゃらりーん♪ちゃらッちゃらッちゃらッちゃらッちゃッちゃッちゃッ♪
【第⑭わん! ポチ、瞳を燃やすの巻】
「いいか、ポチ。この家はペット禁止なんだ。バレたらヤバい事になる。だから暫く散歩には行けない。でもトイレは我慢ってワケにはいかないから、
『ふむ……吾輩の事を“ペット”と思っておるのだな?吾輩はその“ペット”が何であるか分からないが、吾輩の存在が下々の者達にバレると、吾輩の勇姿見たさに人が溢れ近隣の者達に迷惑になる……と、そんなところか……』
公営住宅暮らしは快適とは言えなかった。何かとポチの行動が制限されるからだ。「吠えるな」に始まり、「家具や柱を噛むな」に続き、今度は散歩まで奪われた。
だがポチは
それは
魔術の研鑽を積むのは難しいが、それも諦めつつある。たまに思い出したように魔術を試そうとするが、何度やっても無駄に終わり、結局は寝るか食べるかだけの生活になって来ていた。
しかし身体を動かさず食べてばかりいては身体が鈍り、“イザ”と言う時動けないかもしれないが、その“イザ”と言うモノは来る気配が無い。
よって、本能のままに食欲と睡眠欲を満たす事だけに忠実に成り果てた姿……と言えるかもしれない。
『うむ……食べるばかりでは腹の中に溜まる一方だな。流石に昔味わった
「ペットシーツは取り敢えず風呂場に敷いといたから、そこでしてくれ。ポチ、分かったか?」
『風呂場とな?よし、では早速試すとしよう』
こうしてポチは足早に風呂場へと向かい、早速踏ん張ってみる事にした。風呂場に敷かれたペットシーツは、サイズが45cm×60cmの長方形でポチの身体のサイズからしても充分に余裕がある。
『触り心地は悪くない。プニプニしているのがクセになりそうだ。では味見を……ハッ!?いかんいかん。ここで吾輩はするのだろう?流石に食べて旨かったら、この上で踏ん張れなくなる。そればかりか、間違って踏ん張った後に食べ兼ねん!そんなコトを考えると世にも恐ろしい……』
ポチの妄想は続く。
『いや、だが今ならまだ踏ん張っておらん!少しくらいなら……じゅるる』
ポチはペットシーツに噛み付く為に先ず前足で掻いた。だが掻いてる内に何故だか楽しくなり、そのままペットシーツと
その段階でポチは当初の目的=味見を思い出し、まずは一噛み。だが無味無臭。しかし口の中から一噛みごとに水分が奪われて行くのは分かった。
『味は無いが、この噛み心地クセになるッ!硬さと柔らかさが絶妙にマッチしておる。口の中が何やらパサパサになるが、それを差っ引いてもこれは一興!ええいッ、85点の大盤振る舞いだッ!!』
「おーい、ポチ。絶対に食べるなよ……って、はぁ……遅かったか」
恋太郎がなかなか帰って来ないポチの様子を見に行ったワケだが、そこにはペットシーツと格闘しているポチの姿があった。
『はっ!恋太郎……これは違っ!吾輩は味見をしようとしたワケではないのだ。ただ、新参者のコヤツに世間の厳しさと言うモノを教えてやらにゃならんと思って……』
「使う前からボロボロにしやがって……まぁ、仕方無いか。
『
ぽんぽんッ
「新しいのを敷くから、次からは無駄にすんなよな?」
とぅんく……
こうしてポチの尊厳は保たれた。しかしポチの名前は保たれていないが、まぁそれは置いておく事にしよう。
斯くしてポチは次こそはバカにされまいと、ペットシーツと戯れる事を止めた。それは強固な決意であって、断固たる意思と言うモノだ。
『ふぅ、スッキリした。外のナワバリで踏ん張るのとは違った解放感であった。人目が無いコトもさる事ながら、家人達の住む家の中で踏ん張ってやったという背徳感。クセになりそうである』
こうしてポチは風呂場で踏ん張るコトを覚えた。しかしその日の夕方の事……。
「はぁ、今日もあの先公マジムカついたわ。あたしの眉毛は自眉だっての。それにしても体育の授業とかマジウザ、
がらら……
「ちょ……なんでこんな所に?それも出したら出しっぱなしなワケ?あり得ない……本当にあり得ないんですけど……恋太郎ーーーーーッ!」
「なんだよ、姉ちゃん……。いや、待てよ?この状況で入ったらこの前の二の舞い……いや、それ以上の悲惨な状況になるのでは?」
恋太郎は姉が風呂場にいて、自分を呼んでいる状況にあの日のトラウマを重ねた。そう、飛んで来たポチの股間を顔面キャッチしたトラウマだ。だが今回落ちているのはポチの
従って、呼ばれてはいたが聞こえないフリをして華麗な180度ターンを決めたのである。
『ん?恋太郎?姉が呼んでおったぞ?行かんのか?それならばどれ、吾輩が見て来てやろう』
ポチは軽い足取りで風呂場へと向かって行った。しかしポチが風呂場に辿り着くと、目を怒りの炎に燃やし、怒髪天を衝く勢いの姉がバスタオル一枚の姿で両手にペットシーツを持って立ちはだかっていたのだった。
『ひィッ!吾輩のこの姿では
がしッ
「逃ーがーさーなーいー。ちゃんと自分が出したモノは自分で片付けんかーーーーいッ!」
『吾輩に無理を言うなーーーーーッ!』
こうして今日も賑やかなある日の夕方だった。しかし話しはここで終わらない。
「なぁ、ポチ。ペットシーツはこう使うんじゃない。これじゃ……こんな真ん中に一回出しただけで捨ててたら勿体無いじゃないか!これから我が家はローンの返済もあるんだ。ちゃんと節約しなくちゃ駄目だ」
『なぬッ?!この吾輩に節約をしろと?』
「
「いや、ポチだってちゃんと伝えれば分かるハズだ。それにポチは頭がいいんだろ?それなら節約の意味も分かるに決まってるさ」
『良い!良いのだ恋太郎……。吾輩もこの家の一員。それくらいの事、朝飯前だ。だから、節約したとしても、旨い食事からランクを落とす事だけはしないでくれッ!きりッ』
ポチの瞳は燃えていた……。
〜後日の事〜
「な……なんだ……これは……これはポチがやったのか?」
「
「うっさいわよ男共!朝っぱら迷惑だっての!ってか、恋太郎がちゃんと片付けなさいよ?」
『ふわぁ、吾輩はまだ眠い。朝からまったく元気な姉弟だ……だが、これで吾輩の節約術には頭も上がるまい。くっくっくっ……Zzz……』
こうしてポチはペットシーツ節約術を覚えたのだった。
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