ぎゃッうぅんッ

副音声:ちゃらりーん♪ちゃらッちゃらッちゃらッちゃらッちゃッちゃッちゃッ♪




【第⑬わん! ポチ、初めての☓☓☓☓により気を失うの巻】



 紆余曲折を経たものの、住宅ローン審査は無事に通った。そして、改築工事期間中に住む公営住宅へと家族は引っ越したのだった。



【この公営住宅はペット禁止。もしもペットを飼っている事が分かった場合、すぐに立ち退いて頂きます】


親父おやじ……あの貼り紙見たか?」


「あぁ、見た。これは、ヤバいかもな?だが、恋太郎……家族の命運はお前の手腕に掛かっている。お前に我々の命を預け……」


ぱこんッ


「このクソ親父!そんな下らないコトを言ってる暇があるなら、荷解きしてよッ!必要最低限しか持って来ていなくても、結構な量があるんだからッ!ほら、恋太郎も口じゃなくて手を動かすッ!がるるッ」


「親父、この家にはポチ以上の狂犬がいるから、そっちは俺の手腕じゃどうにもならないぜ?」


ぼこんッ

「がるるるるるッ」


ってぇな、姉ちゃん!はいはい、分かったよ。口じゃなくて手を動かしますよーだッ」


『全く、どこに行っても騒がしいヤツらよ。だが先程、家族の命運は恋太郎の手にあると言っておったな?恋太郎め、いつの間にそのような力を身に着けておったのだ?まぁ、千勝の覇者ウォーロードたる吾輩の戦闘能力に勝るとは思わんがな』


 荷解きを手伝うコトなどするハズが無いポチは、尻尾をフリフリしながら先ずは新たな家の物色をする事にした。だが、前に住んでいた家よりも遥かに小さいこの家では数分も経たない内に物色は終わってしまい、その中にめぼしいモノがあるハズも無い。

 だが、めぼしいモノは無かったが、先に見付けた自分に専有優先権があると思い込んでいるポチは、狭い部屋の奥にある一角に居座る事にした。



『よし。この部屋を吾輩の根城としよう。このような小さい部屋だ、家人は誰も使うまい。ここは吾輩の拠点として……』


「邪魔よ、バカ犬!」

どさッ


『おわぁッ!吾輩の根城が侵略されていく……』


「もうッ!なんでこんな要らないモノまで持って来たの?わざわざ荷解きしちゃったじゃないッ!そのまま押し入れに入れとくからね」


 要するにポチが自分の根城に選んだのは押し入れだった。多少ジメジメとしてカビ臭かったが、人知れず様々な訓練を積むには持ってこいだと感じたのだ。くはこの場所を、魔術用の工房にしようと考えるに至る程にまで妄想が進んでいたかは定かでは無い。

 だが、それも直ぐにダンボールに占拠され居場所はなくなったのだった。



『吾輩の次なる根城を探すか……よしッ!次はここだな。流石にここならば先程よりも狭いから本当に誰も来るまい。いや、確かに狭いな……。だが、この白く硬いモノは何なのだ?なぜ部屋の中心にこんなモノを置いておくのだ?全くもってワケが分からん。いや、待てよ?前に住んでいた家にもあった気がするが……家人は一体、何に使っていたのであろうな?』


「もう、この家の男共ときたら、なんであんな役立たずなの?要らないモノばっかり持って来た挙句に、ゲームしだすなんて信じられないッ!あたしはトイレに行く時間も惜しんで荷解きをしてるって言うのにッ」


しゅるッ

 すすすー

ぺたん


ちょろちょろ……


『いや、待ってくれ……吾輩……ここにいたら凄くいけないのでは?見付かったらこの前の地獄の再現にな……あっ……』


「@#%&*☆¥※〒ッ?!!?こ……こ……こ……このバカ犬ッ!なんでアンタがここにいて、なんであたしのトイレを覗いてるのよッ!」


 ポチは占拠した押し入れから追い出され、次に根城とすべく迷い込んだ場所はトイレだった。トイレの水タンクの下、便器の後ろにある隙間にて今後の展望などを考えようとした矢先の出来事だったと言える。

 ポチはトイレを使わない。その事がアダとなり、そこに居座ってしまった挙句に起こった悲劇だった。


 そもそも怒り心頭の余り、トイレの中にポチがいる事を確認せずに入って、そのまま脱ぎ出した挙句にトイレを済まそうとした方が悪い……などとポチが言えるハズも無いし、トイレの扉が開いていた事を訝しむ事無く、平然と入って来た方が悪い……とポチが言う事も無い。


 ただポチはこの状況を真摯に受け止め、流石に女性のトイレを見る訳にはいくまいと、縮こまる事で紳士的にやり過ごそうとしたのだ。

 だが、スッキリした姉はトイレットペーパーを取ろうとした際にポチの尻尾を見付けてしまったのである。

 それが悲劇の始まりであって、トイレが惨劇の舞台に選ばれた根拠でもあった。



「アンタって犬は、あたしのパンツを覗くだけじゃなく、あたしのトイレまで覗くなんてッ!もうッ!そんな所に隠れてないで、ちょっとこっちに出て来なさいッ!」


むんぎゅッ


『ッ@#$〒※¥☆*&☆¥※〒ッ!?』


 それはポチが上げた、声にならない悲鳴……とでも言うべき絶叫だった。姉はポチの尻尾をと掴むとそのまま引き摺り出そうとしたのである。流石のポチもこれには声を上げずにいられなかった。

 尻尾はただでさえ敏感な部位であり、人間だった頃に味わった事がない経験としか言いようがない衝撃だった。



「なんだ?どうしたんだ、ポチッ!っておわぁ、そんな所で何やってんだよ、姉ちゃん!ってかその前になんで履いてねぇんだよッ!」


「れ……れれれ……恋太郎ッ!見んなッ!来んなッ!あっち行けッ!あたしを見るなあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


ぶぉんッ

 べしッ


 惨劇と喜劇は紙一重だった。下半身モロ出しの姿を見られた姉は、それが恋太郎であっても容赦が無かった。尻尾を掴んだままのポチをそのまま恋太郎に投げ付けたのだから……。

 こうして恋太郎はポチを顔面キャッチしポチの股間を顔に押し付けられた状態でノックアウトされ、盛大に床に転がって行ったのである。



「おおぃ、恋太郎?あのゲームの続きって、どうやったらクリア出来るんだ……っ?!どうした、恋太郎!それにポチッ!」


「まったく、この家の男共はなんでこうなのかしら?」


「へっ?」


「ゲームはいいから、早く荷解きしてくれないと、ご飯抜きだからねッ!ぷんすかふんすッ!」


 ゲームに夢中だった父親は恋太郎とは違い、ポチの悲鳴を聞き付ける事も無く、恋太郎がノックアウトされた音で来たワケでも無い。

 ただ、ゲームの攻略法を聞く為に恋太郎を探しに来たワケなのだが、結果としてこの家の男二人とオス一匹がご飯が抜きになるかどうかの瀬戸際に立たされたのであった……。

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