へっへっへっへっ。はっはっはっはっ。
副音声:ちゃらりーん♪ちゃらッちゃらッちゃらッちゃらッちゃッちゃッちゃッ♪
【第⑨わん! ポチ、三種の神器を掴むの巻】
『何がいけなかったのであろうな?吾輩には皆目見当もつかぬ』
ポチはその日、結局縄張りの見回りに行く事か許されなかった。そればかりか、「おすわり」「お手」「伏せ」が出来るまで外出を禁じられてしまったのだった。
ポチの犬格完全否定後に、母親からお手本がポチに見せられたが、それこそポチには理解が及ぶ範疇ではなかった。
ポチからしたら何故それが「おすわり」なのか、そんな事が「お手」なのか、そしてその行為を何故に「伏せ」と呼ぶのか分からない事と、それを行う意義が理解出来なかったとも言えた。
その点は王であった事が災いし自らが臣従するような行動を、
しかし、このままでは「犬生」を謳歌する事が出来ないのもまた事実であり、ポチとしてはやりたくない事でもやらなければならないという事を、悟らなければならなかったのである。
『面倒臭い。やる気が起きぬ。外に出られないのであれば、このまま家の中でずっとゴロゴロしてやる……。べ、別に外に出なくとも生きていける。仮にそれでも犬生を謳歌する事も出来るハズだ』
ポチの性格上、無理だった。
『あんな事が出来なくても、吾輩には関係ないではないか。何故、己の信条に反した事をしなければならないのだ?』
ポチは心の赴くままに、本能に従って行動したい派だった。
こうして、ポチは
だが、そんな考えにシフトさせた矢先の事、ポチの鼻腔をくすぐる芳しい香りが匂って来ていた。
『な、なんだ?この旨そうな匂いは?嗅いだだけで口の中がヨダレで満たされる……。こ、これは……い、一体何の匂いなのだ?』
それは素敵な高級ステーキを焼いている匂いだった。ポチ達の飼い主である老夫婦の金婚式のお祝いに、普段は食べられないような高級なお肉を焼いている匂いが充満していたのである。
当然、その芳しい香りにポチは食べたくなった。よって、フラフラとキッチンへと歩を進めると、素敵な高級ステーキを仲睦まじく焼いている老夫婦の足元に
正に、本能に忠実に従った結果の産物とも言えるだろう。
だからこそそれは、偶然出来た「おすわり」だった。高い所を見上げた事で出来た結果だ。そしてそれに拠って——地面にお尻を付けた事で前脚の可動域が変わった。だから今度は、足元にいるのを気付いてもらえないから右前脚で、軽く引っ掻いてみる事にした。
それは「お手」が出来た瞬間だった。
再三に渡り足を引っ掻いたのに気付いてもらえなかったポチは、不貞腐れる事にした。拠って、そのまま前脚を滑らせ腹を床に付けたのだ。
それこそ「伏せ」だった。
こうして素敵な高級ステーキのおかげで、ポチは「おすわり」「お手」「伏せ」が出来るようになった。あれほどまで頑なに、それをやる事への意義が分からずにいたポチだが、食欲の前に屈した瞬間と言えるだろう。
それこそ信条を曲げてまでやらなければならないと考えさせた素敵な高級ステーキの力は、絶大だったと言い換えられるかもしれないし、
「旨い!旨い!旨いッ!!これは久しく味わっておらなんだ肉の味わい!この世界には、こんなにも旨い肉があるのかッ!」
訓練の甲斐は無かったが、食欲に負けた事で無事に習得出来たポチは、ご褒美として素敵な高級ステーキの欠片を貰い、舌鼓を打っていた。
だが、あくまでも欠片だった事から、あっという間に失くなるのは当然の事。
拠って、早々に食べ終わったポチは老夫婦の元に行き、椅子に座って食事をしている真っ最中の老夫婦のその足に対して、これでもかと言わんばかりに「お手」を繰り返していた。
とは言っても、結局その後いくら「お手」をしても素敵な高級ステーキがポチの口に入る事はなく、終いには怒られ退散せざるを得なくなったポチであったとさ……。
『吾輩は覚えた。これらの行為は、普段食べているドッグフードよりも、高級な食事を貰うための行為だったのだな。吾輩としては旨い飯が喰えるのならば、信条に反する事でもなんでもしよう!それくらい、あの肉は旨かった。うむうむ、また食べたいものであるな』
こうしてポチは犬の三種の神器とも言える、「おすわり」「お手」「伏せ」をマスターした。全てはより良く旨い食事をゲットする為に……である。
だが、その日の深夜、ポチ達が住む老夫婦の家から火が出る事になるだなんて、一体誰が想像したであろうか……。
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