わきゃ?! ふっふっふっわふっ

副音声:ちゃらりーん♪ちゃらッちゃらッちゃらッちゃらッちゃッちゃッちゃッ♪




【第⑩わん! ポチ、新たな家族に迎えられるの巻】



 その火、家が燃えた。漏電火災によるモノだった。火元は壁際のコンセントからで、老夫婦と犬2匹は自力で燃え盛る家から逃げていた。



『あわわわわわ。これはまるで、あの時のようではないかッ。なんでこんな事に?』


 この国……いや、この世界に於いて、ホームレスになるという事は、魔獣に襲われる可能性が高い。

 昼間は早々お目に掛かることは無いが、夜行性の種が多い魔獣は、街なかであろうと夕方から夜間になると闊歩しているからだ。

 よって老夫婦は生きていく為に、犬を他人に譲る事を選んだ。何故なら、老夫婦の新たな住まいはペット禁止だったから、仕方なく……だった。



 こうしてポチもまた、生まれ育った家を出て、共に暮らしていた家族とも離れる事になったのである。

 ちなみに火事の後、母親の行方をポチは知らず、ポチの知らない内に母親もまた人に譲られていたのだった。



 幸いにして、ポチの新たな家族は直ぐに見付かった。4人で暮らしている、ごく普通の家族だ。中年の夫婦に、子供が2人。その夫婦の子供たちは気が強い姉と、姉と歳の近い人懐っこい弟で、特に弟が犬を飼いたいと両親に話していたそうだ。

 とは言っても、姉弟はそんな小さな子供ではない。歳の頃で言えば、10代半ばといったところである。



「名前がポチ?なんか、ザ・犬って感じの名前でいいじゃん。宜しくな、ポチ」


「あたしは犬飼うなんて反対だったんだからね。でも、アンタが飼いたいって父さんと母さんに言ったんだから、ちゃんと責任持って面倒見なさいよね!」


「分かってるよ、姉ちゃん」


『あれ?なんだこれは……?この者達の言葉が分かる。何を言ってるのか分かるぞ!吾輩の身に何が起きたというのだ?』


「ポチッ!それじゃあ散歩行くか?」


『今までは何を言ってるか分からなかったのに、吾輩はまた一歩成長してしまったようだな』


「おーい、ポチ?散歩行かないの?」


『何かをきっかけに成長しているのだろうか?それならば、何かをきっかけに再び魔術が使えるようになるかもしれん。今はまだ使えず、鍛錬こそ今ではもう、していないのだが、その日がくれば使えるように……』


カチャ


『ん?うわぁ?!何だコレは?吾輩は奴隷ではない!何故に首輪なぞを付ける!』


がりがり


「ほらぁ、嫌がってるじゃん!今までこの犬、首輪せずに飼われてたんじゃないの?まったく、父さんもどっから貰ってきたか知らないけど、躾もされてない、芸の1つも出来ない犬なんて貰ってきちゃってさ。困ったモンだよね」


『なに?コヤツ……吾輩を愚弄しているのか?芸の1つも……だと?芸と言うのは、あの三種の神器のコトやもしれんな?それならば、どれ1つ見せて驚かせてやろう』


 ポチは考え事をしていたので、話しを聞いていなかった。だからこそ急に付けられた首輪に驚いていた訳だが、それ以上に愚弄されたと思ったポチは首輪に対する興味を失い、おもむろに視界に映った椅子に向かって歩いていった。



「お、おい、ポチ?」


「どうしちゃったの、この犬?」


『先ずは見るがいい。吾輩にひざまずくが良い。これが三種の神器が2つ……「お座り」からの「お手」である』


「ぷっ……何これ?超ウケる」


「す、凄ぇ!なぁ、姉ちゃん!こんな座り方出来る犬なんて見た事あるかよ?それにポチは、今、「お手」をしてるんじゃないか?」


『ほう?コヤツ、吾輩のコレをちゃんと「お座り」からの「お手」と認識しておる。なかなか見どころのある人間だな。ふっ』


「なんか、今、笑ったわよね?その顔、無性に腹が立つんだけど?取り敢えず、殴っていいかしら?」


「いやいや、姉ちゃん。すぐ暴力は駄目だろ?そんなんだから、彼氏にも逃げられ……はっ?!」


恋太郎れんたろう……死にたいのかな?」


「ひえぇぇぇぇ。お助けを〜」


ドタバタドタバタ


『くっくっくっ。こやつら、なかなか楽しいヤツらだな。まぁ、吾輩の犬生も賑やかなものになりそうであるな』


 こうして、ポチは新たな家族と共に暮らすようになった。これはポチが月齢で言えば8ヶ月くらいの頃の事である。



 それからポチは、昼間は学校に通う姉弟が帰って来るまで、暇な日々を過ごす事になる。だが、姉はポチの面倒を見る事などなく、散歩はもっぱら弟の恋太郎が帰ってくるまでオアズケとなっていた。

 更に付け加えると、前の家にあった、抜け道ペット用扉などはないので家の外に出る事も叶わなかった。


 ちなみに、姉弟の両親は共働きの為、夕方まで帰って来ない。その為に、火事になる前は日に3食食べられた食事は、朝夕の2回だけに変わり、ポチとしてはそこが非常に不満だった……が、人間の言葉は理解出来ても、話す事は出来ないので意思の疎通が出来るワケもない。

 だから、食事が与えられるまで、空腹に耐え忍ぶ毎日を過ごしていたワケだが、1日に2回の食事でも慣れてしまえば造作の無い事だと思ったポチだった。


 まぁそもそも、ポチが人間だった頃は、食べられない事なんてザラにあったので、それに比べればどうってこと無いって事に違いはないのだ。

 だが一方でその時の教訓として、「食べ物はいつなくなるか分からないから、ある時はすかさず食べろ」と言う事を思い出したりもしていたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る