わんわん、わわんわ…ん!?

副音声:ちゃらりーん♪ちゃらッちゃらッちゃらッちゃらッちゃッちゃッちゃッ♪


【第②わん! ポチ、ドッグフードと格闘するの巻】



  これは生後2ヶ月を過ぎた頃のもう1つの話し。



「スエイエイ、「グオフエイン」ドゥエイツオイ!!」(副音声:さあ、「ご飯」だぞい!!)


『どうやら、「グオフエイン」と言う単語が出てくると吾輩に食物が与えられるな?』


  元人間であるポチは言語に疎いワケではないが、初めて聞く言語にはやはり抵抗があった。


 それでもやはり、言語を理解する事は生きていく上で必須とも言える事柄だ。だからこそ巨大巨人族ティタニアの話す言葉の分析及び解析は、欠かさずに行っていた。



『「グオフエイン」以外の単語は覚えなくても良いかも知れんが、「グオフエイン」は生きる為に必要と覚えておこう』


 そしてその「グオフエイン」が聞こえた後に必ずポチの前に置かれる、ポチ専用と思われる銀色の皿。

 その上にはいつも通りの食物が……無かった。



『な、な、なななな、なんだコレはッ?!獣のフぴーか?ぴーソなのか?!しかも山盛り……だとッ?!』


 何故ならポチの前に置かれた専用皿の上には、山盛りのドッグフードが盛られていたからだ。

 もう時期的に離乳食から切り替わっているのは当然のコトだ。そしてそんな「切り替わり」など、いつも突然やって来るのだ。

 そこにポチが意見を出せる猶予などあるハズもない。



 ポチは今まで見た事の無い食物に対して抗議の意味も含めて、ドッグフードと男の老巨大巨人族ティタニアの顔を交互に何度も見比べていく。

 それは「これが本当に食べられるのか?!」と睨みを利かせていると言っても過言ではない。



 そして傍から見れば、初めての食べ物に対して食べ方が分からず、つぶらな瞳で飼い主を見詰め、今まで食べていた離乳食を要求しているように見えなくも……ない。



………が、現状はただ『食べられるモノを寄越せ!!』と無言で訴えているに過ぎなかった。

 だからこそ、睨みを利かせていたが正解だろう。



「エイエイ、フエイジュイムイトゥイドゥエイクエイアーエイウォエイクエイアーエインヌオクエイ?」(副音声:ああ、初めてだから分からんのか?)


 男の老巨大巨人族ティタニアはポチには全く伝わらない言語を話していた。

 だから何を言っているかはサッパリだ。


 しかしその後、老巨大巨人族ティタニアは、ポチからすれば「暴挙」と罵られるコトと同義のコトをしたのだ。


 老巨大巨人族ティタニアそのままポチの口を掴み強引に開けさせると、3粒程のドッグフードを摘み上げ、ポチの口の中へと放り込んだのだった。



『な、何をするかッ?!クぴーを、ぴーンを、口の中に入れるなッ!!』


 ポチは口を掴まれ必死に抵抗するが、流石に力で敵うワケもない。拠ってそのまま摘まれたモノを、口の中に放り込まれるコトに対して止める術は持ち得ていなかった。



『よ、よもや、こんなグロテスクなモノを口の中に入れられてしまうとは……ん?見た目ほど、不味くないな?』


『いや、今まで食べていたものよりも……、ん?噛めば噛むほど、しっかりとした味があるな?』


『んんん?これはなかなか美味なのではないか?うむうむ、王宮で貧困に喘いでいた時に、獣のぴーンや魔獣のクぴーは流石に食べなかったから違いが分からぬが、意外とイケるのやもしれん』


 ポチは今までの自分の固定観念が崩れていくのを悟った。


 そして、今までの離乳食よりも美味なドッグフードを一心不乱に食べていった。



 更には、一心不乱に急いで食べ過ぎた結果、皿からポロポロとドッグフードが溢れている事に気付いていなかった。

 だからこそ完食したと思った時には、半分近くが床に転がっていたのだった。



『まだ、腹が満たされておらぬ!ぬぉッ?!気付けば周りに大量に転がっているではないかッ!!』


『コヤツらは、勝手に増えるのか?いや、そうに違いない!それならば、吾輩の腹が満たされるまで食してくれるッ!!』


 だがそうは問屋が卸さない。床に転がったドッグフードほど、モノはない。

 犬の口はそこまで器用に出来ていないから当然の事だった。


 ご存知の通り、犬の口は人間と違い先に尖っている。更には乳歯は全て生え揃っておらず、口を開いて噛み付くように拾おうにも、上手く口の中に入ってくれない。


 しかも転がっているのを1粒ずつ食べるのであれば、そのイライラは募るばかりだ。


 そして、諦めた。



 食べたい衝動に駆られながらも……、腹が減っているにも拘わらず……、食べ辛い事への腹立たしさが勝り諦めたのだ。


 だがしかし、非常に未練は残るもの。



 その結果、前足でおもちゃのように弄り倒した挙句の果てに、遂にドッグフードは粉々になっていった。



『吾輩の食物が……。粉に……。そうか、それならば!!』


 ポチは閃いた。いや、もっと早く気付けば良かったと同時に後悔もした。

 そう!!それは、「舌を使う事を」だ。



 舌を使い床を舐めずり、粉々になったドッグフードを「これでもかッ」と、親今度もまた一心不乱に舐め取っていった。



 その結果、粉々になったドッグフードを綺麗に腹に収める事に成功した。

 まだ粉々になっていなかったドッグフードも、舌を使う事で粉々にする事無く形があるまま食べられていた。

 腹は満たされ満足感が身体と心を満たしていった。



 しかし、床はカピカピになった。


 最初はヌルヌルテカテカ。それが時間が経つ事で乾燥し、カピカピになっていった。



 その後、老巨大巨人族ティタニアの男がカピカピになった床を、どこから持ってきたか分からないボロボロの雑巾で水拭きした。

 そして時間が経つ程に…嗅覚が鋭い犬の鼻が曲がるくらい、床が酷く臭ったのは言うまでもないだろう。



 それは食べ物で遊ぶと痛い目を見る……と言う、教訓のようなお話しだった。

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