やっとはじまる、わんわん1章なのである
わん、わわんわん!!
「随分と楽しそうであるな?」
「いやなに、
「それで、何を見ているのだ?」
「あぁ、娯楽代わりに人間界の様子を覗いているだけさ」
「人であった頃の忘れ形見であるか?」
「まぁ、そんな所さ」
これは
この話しは此の我が紡ぐ物語なのだから、それなりに好き勝手させて貰えると助かる。
そう……飽くまでも此の我の主観と客観で紡ぐ物語なのだ。
だから、面倒くさい訳などは本編が始まると同時に中止にしてやる!
それでも楽しめるように精一杯紡いでやるから、どうかバカ息子の勇姿に盛大な爆笑を頼む!!
副音声:ちゃらりーん♪ちゃらッちゃらッちゃらッちゃらッちゃッちゃッちゃッ♪
【第①わん! ポチ、空を見上げるの巻】
ポチが産まれてから2ヶ月が過ぎようとしていた。
ポチは5匹兄弟で何番目に産まれたかは知らないが、現在では残りの4匹の兄弟達は誰一匹として残っていなかった。
拠って、この家にいるのは家主の老夫婦の他に、ポチとポチの母親だけである。
『暇だな。かれこれ2ヶ月余りの日々を費やし、魔術の鍛錬をしてきたが、何1つ使う事が出来ないとは……』
『仕方が無い、今日は何をするかな?とは言え、吾輩に
ポチは母親にも聞こえるように盛大に独り言を宣った後で、堂々と家の中を散歩していた。
それはもう、シッポをフリフリしながら。
この家は生前の王宮に比べれば非常に狭く、ポチの体格であったとしても10分もあれば隅から隅まで散歩し尽してしまうほどだ。
まぁ生後2ヶ月が経っているので視界の高さは産まれたての頃と比べ、優に6倍近くなっている。
それだから見通せる景色も随分と変わっていた。
その結果、傍から見れば何事にも興味津々やんちゃ盛りと言ったところだと言えるだろう。
『それにしても、この家は狭いな。2階に昇る為の階段もないし、かと言って地下に潜る階段も無い』
『今日は
探検をしている内にポチは当初の目的を思い出した。だからこそ考えを改め、一目散に玄関に向かって行った。
『アレを回せば、この扉が開く事は分かっている』
『と、届かない!!こうなったら、2本足で立ってやる!!』
ポチは玄関まで無事に到達したものの、扉のノブまで足が届くワケがない。
そこで気合いと根性で前足を扉に掛け、器用に後ろ足で立ち上がってみせた。
………が、届くワケもない。
仮に2本足をプルプルさせながら立った所で、40cmにも満たない体高ではノブに届くハズもない。それは当たり前のコトだ。
『ええいままよ、こうなったら奥の手を用いるまでッ!』
ポチは千載一遇のチャンスを逃す事を善しとしなかった。
だからこそどうしても扉を開けようと、必死に掴まり立ちをした状態から、立っている後ろ足で果敢にもジャンプをしてみせた。
………が、届かない。
仮に2本足でピョンピョンとジャンプをしたところで10cmくらい高さが増したくらいだ。そこまで筋力は発達していないし、そもそも2本足でジャンプしたところでバネは最大限活かせない身体の構造だから仕方がない。
拠ってこれもまた当然のコトだ。
その結果、扉のノブに届かないばかりか、慣れない2本足立ちの上にジャンプまでしたのだ。だから「ツルっ」と足を滑らせ、『あッ』と思った矢先には「こてッ」と玄関先で盛大に転んでいた。
『いてててて。無理だ。ここからは逃げられない。そもそも、
ポチは最初は痛がっていたものの、すぐに転んだ痛みなど、
そして、その様子を尻目にポチの隣を母親がすり抜け、扉の下にある
それは実に衝撃的だった。
それこそ稲妻が脳天から足のつま先まで駆け抜けて、そのまま大地へと流れていくほどの衝撃。
“外に出たいなら、
先に
『よ、良いのか?逃げ出すかもしれんぞ?』
“逃げられるモノなら逃げ出してみよ。外に出れば分かる”
ポチは母親に言われるがままに、
『こ、こッ、これはッ!?』
ポチの目に映ったモノは、眼下に広がる(飽くまでもポチ目線の)広大な草原だった。
そこはかつて自分が目にした景色とは明らかに違っていた。
草原の淡い緑に、その奥の木々の深い緑。
空には蒼い空があり、白い雲が幾重にも浮かんでいた。
遠くにある黒く舗装された道を、赤く薄べったい馬が重低音を掻き鳴らして走っていく。
それは今までの人生に於いて見た事の無い風景であり、ここが自分の住んでいた土地/世界とは明らかに違う事を納得せざるを得なかった。
“逃げる気はまだあるか?逃げれば飢える。逃げれば襲われる。生きていく為の食事も身の安全を守る場所も……、どこにも無い”
『吾輩は少し前までヒト種であった。その時の記憶もある。だが、この地は吾輩が知る国とは
『吾輩はヒト種ではなくなったのだな?死んで生まれ変わったとでも言うのだな?』
“生まれ変わりと言うものがあるならば、そうであろうよ。明らかにお前は人ではない”
“さて、ここから逃げたいのであれば行きなさい。ここの敷地を出れば自由に暮らしていける。夜になれば我らより大きな獣が現れるが、そのモノどもの腹に収まりたければ行くといい”
『吾輩はもうヒトで無いのであれば、吾輩の国に帰る事は出来ない。それに生まれ変わったのであれば、吾輩の国はこの世界には無いかもしれん』
『ならば、ここで新たな人生を生きてみようと思う。吾輩のジョン・ジョ…』
“お前はポチよ!”
『ハイ、オカアサマ』
“でもま、それならばそうなさい。しかし、お前はもうヒトではないから人生ではないな。言うなれば犬生とでも言うべきか?”
『ケンセイ?ならば、その“ケンセイ”とやらを
ポチは家の玄関先で空を眺め、母親と話しをしていた。
外は風があり、心地良い風が草原を揺らしながら吹き抜けていく。
鼻を突き抜けて行くほどの爽快な草の匂いを吸いながら、ポチはこれからの「ケンセイ」がどんなモノになるのか楽しみで、胸を膨らませ目を輝かせていたのだった。
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