わ……ん?わわわわわわんッ!!

副音声:ちゃらりーん♪ちゃらッちゃらッちゃらッちゃらッちゃッちゃッちゃッ♪


【第③わん! ポチ、本格的に迷子になるの巻】



 ポチは抜け道ペット用扉から外に出る事が多くなっていた。それは飼い主がいようと、母親がいようとお構い無しで外へと出掛けていったほどだ。

 飼い主の老夫婦はそれを見咎める事はしないし、母親も同じ意見だったようだから尚更の事、ポチは自由気ままだった。然しながら、もう逃げ出そうとは考えてなどいない。「犬生」とやらを謳歌するために散策しているのだ。散策出来る範囲は縄張りと言えば言い得て妙だし、その縄張りの巡回も日課になりつつある。……が、そういった事に興味津々なお年頃になったとも言えるかもしれない。

 つまりは、家の中にいてもし、狭い家の中では存分に走り回る事も出来ない。そして五月蝿くしてれば母親から叱られる……と言った、負のジレンマはポチの目を外に向けさせていったのだ。

 結果、傍から見ればヤンチャな盛りと言われる時期と映っていたかもしれない。




『今日は随分と遠くまで来てしまったな』


 ポチは外に出るといつも通りに気ままに散策していた。家の周りは既に散策し終えており、興味が唆られるモノは何一つとして残っていない。そして、変な臭いや何かが立ち入った形跡もなかった。しかし一応、マーキングだけはしておく。

 散策と巡回を一通り終えると、ポチはひたすら外を走り回っていた。だが、無邪気に走り回るのも、興味が湧くモノを探す一環なのは分かっていてもらいたい。これは飽くまでも散策と巡回なのだ。

 そんでもって、今日はまだ明るいことから少しばかり遠くまで出歩いて来ていたのも事実だった。



「帰り道は鼻が覚えているから帰ろうと思えばいつでも帰れる」


 そんな甘い思いがあった。そしてその結果、迷子になっていた。

 興味が湧いた空飛ぶキレイな虫を追い掛けたとか、興味が湧いた鳥と追いかけっこをしたとか、そんなコトはない……。いや、それは……ないぞ。本当にないぞ。本当だぞ?

 まぁ、そんなこんなで、うんちゃらかんちゃらの果てに迷子になった事もまた事実だった。



“日が暮れるまでに帰ってきなさい”


 それはこれまたいつも通りに母親から受けた忠告だった。この世界には凶悪なモノ達がいるから、日が暮れるまでに帰ってこれなければ、そいつらの腹の中に収まるだけ……と前から口を酸っぱくして言われていたし、耳にタコが出来るほどに聞かされていた。



『そんなモノがこの平和な世界にいるハズがない。それはただのだ』


 そう、ポチはただの脅しだとタカを括っていたのだった。そして、そんなモノが仮にいたとしても、自分は誰もが恐れる才能を持つ「千勝の覇者ウォーロード」なのだ。遅れを取るつもりはない。

 だからそれはもう、ただの慢心でしかなかった。




『ここは、一体どこなのだ?見覚えがない。これは完全に迷子だな。それに空が曇って来ている。雨が降ったら臭いを追う事も出来なくなる』

『どうしたものか……』


 ポチはいつの間にか家の敷地内から、敷地のそばにある森の中を彷徨っていた。だが、前世の記憶があるから寂しいワケでもないし心細いワケでもないが、純粋に困っていたのは確かだ。

 鼻が利くので自分の臭いを追って、来た道を戻ろうとしているのだが、先程から鼻を突く強烈な異臭が時々流れてきており、その臭いに妨害されて自分の臭いが追えなくなっていたのが悩みのタネだった。


 ここで雨が降れば鼻を突く異臭も失くなるだろうが、それでは元の木阿弥になる。だから夕闇が迫って来ているこの現状に、焦りを覚えていたのも確かな事だった。




ァォーー  ーー


 何処かで何かが鳴いている声が聞こえたような気がした。ポチはその声の方へと向かって歩く事にしたのだ。

 なんと言っているかは分からなかったが、そっちに行けば状況が打開出来ると踏んだのは事実だった。


 そしてポチは興味を持ったら即行動せずにはいられなくなり、「ザッザッ」と足元に散らばる落ち葉や、草を掻き分けて進んでいったのである。



パララッ

キぃん


 先程の鳴き声とは違う、何かの音が聞こえて来ていた。最初に聞こえた音は今までに聞いた事もない音で、次に聞こえた音は金属がぶつかるような音だ。

 何かが闘っているのか、或いは誰かの生活音かもしれない。


 ポチはあの鳴き声に向かって行けば打開出来ると思った事が、実は間違いだったと次第に気付き始めていた。しかし、それらの音がどうしようもなく気にしてしまったのだ。

 こうなったら好奇心に任せてもう、残された道なんてあるハズがない。

 ポチの好奇心に勝るものなど、この世には存在しないのだ。




グガアァァァァァ


『ッ?!』


 それはポチの目の前に唐突に躍り出て来た。巨大巨人族ティタニアほどではないが、巨大な緑色の身体に、手には棍棒のような武器を持っている。更に付け加えると頭には小さなツノのようなモノすら見えた。そして、凄く臭い。

 鼻が利くポチの鼻を捻じ曲げようとしていた正体はどうやらコイツらしい。



『なっ!?魔獣……だと?こんな巨大な魔獣……ん?いや、待てよ?これって、ただの小鬼種ゴブリンなのでは?』


グガッ


『そうか、やはりそうだったのだな。吾輩、周りにいるモノが自分よりデカ過ぎるから巨大巨人族ティタニアと勘違いしていたが、あの老人達はヒト種なのだな。まぁ、小鬼種ゴブリンがこのサイズなら、ヒト種はあのサイズだろう』

『うんうん、そうだなそうだな。それならば、もう、何も恐れる事はないな』


 ポチが今を生きているこの世界は、過去に自分がいた世界とは違う。拠って大きさの比較対象に於いて同じモノがなければ比較出来るハズもなかった。

 2つの世界で同じモノがなく、比較対象がなかったとも言い換えられる。

 その事は大きさの比較に於いて、ポチが今までと漸く気付かせてくれたのだ。

 それは要するに小鬼種ゴブリンのサイズが共通であれば……の話しだが、そんなコトまで頭が回ってるハズもないし、そこをツッコんでもダメだ。



グガアァァァァァ


『あ、忘れてた。まぁ、小鬼種ゴブリンごとき、吾輩の魔術で……くらえ、火炎烈弾ファイヤーボール!!』


グガアァァァァァ


『あ、しまっ!吾輩、魔術がまだ使えない……こ、これはピンチだ』

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