#2

商店街を出た俺は、まっすぐ河川敷に向かう。今日は風が気持ちいいので、もっと風を浴びたくなったからだ。


この町は、ほぼど真ん中を川が貫いている。それなりに大きな河川で、夏には花火大会が行われりなんかもする。俺も小さい頃、両親と見に行った記憶がある。


堤防の坂につくられた階段を下ると、広めの河川敷にサッカーグラウンドがあるのだが、そこに広がるのは地獄絵図。


どうも社会人サッカーチームのメンバーが練習をしていたらしいのだが、練習している4人全員が悪魔に憑かれ、そして奇行に走っている。一人はブリッジの姿勢でカサコソとGのつく虫のようにグラウンド中を這いまわる。他の二人はサッカーボールを思いっきり手で持ってキャッチボールをしているのだが、互いに投げ合ったボールを顔面キャッチし合っている。もう両方とも顔面が砂と鼻血まみれだ、見てるだけで痛い。最後の一人は比較的まともで、ボールをサッカーゴールに蹴っては拾いに行くだけ。これだけならシュート練習しているように見えなくもないが、ただ、周りの三人の奇行が全く見えていないというのが異常だ。

これは完全な経験則だが、悪魔に憑かれた人間の奇行が異常であればあるほど、その悪魔の力が強い場合が多い。先ほどの商店街ゲーセンの裸ニワトリ悪魔なんて、いかにもヤンキーがやりそうなカツアゲをさせているだけなので、まあいわゆるザコだ。

だから、この場合は、シュート練習の悪魔は弱く、顔面キャッチボールの悪魔二体とGブリッジの悪魔はそれなりに強い。

まあ、強いって言ってもそれは程度問題で、キングの俺にとっては関係ない。川に風を浴びに来たついでなので、悪魔退治は速く終わらせてしまいたい。


俺はグラウンドに何の遠慮もなく侵入し、まずはゴールに向かってボールを蹴り続ける人に近づいていって背中から伸びた黒い悪魔の影を掴む。悪魔はやけに小さくて、ほとんど俺の右手に収まるサイズだから、掴んだままあっさり握りつぶす。それで終わり。


仲間が倒されたことに気付いて、他の悪魔が一斉に反応する。三体まとめて寄生先の人間から離れて、一気に悪魔本来の姿になる。ブリッジで這い回っていた人間から離れた悪魔は、馬のような姿をした悪魔になった。ただし、馬と言っても六本脚で、頭は枝分かれして二つある。頭が二つもあると意思決定に苦労しそうだ、とそんな感想を抱く。

一方で、顔面キャッチボールをしていた二人から現れた悪魔は二体一組の悪魔らしく、身長2メートル超えのムキムキのマッチョが二体、ポーズを取って実体化した。二体の取るポーズは、お寺の仏像で見たことがあるので、たぶん仁王像の阿吽だと思う。それだけなら強そうなのだが、頭部がイカとタコなのでなんとなくマヌケだ。子供向けアニメのキャラクターがグロテスクになった感じ。

ともかく、悪魔が自主的に離れてくれたのだから、さっきのヤンキーみたいに、悪魔が引き剥がされる苦痛でイタイイタイしなくて済む。それは俺も助かる。俺だって、何も好き好んで他人の悪魔を引っぺがすわけじゃないのだ。大概の場合、そうしないと祓えないからそうするわけで。


ともかく、まずは駆けてくる六本脚、二つ首の馬に向き合う。悪魔はヒヒーン、と馬らしい鳴き声の二重奏を奏でている。馬の突進をぎりぎりまで引きつけて、激突直前で回避、ついでに足を引っかける。普通の馬相手に普通の人間が足を引っかければ、簡単に人間側の骨が折れたりして終わりだろうが、相手は悪魔で、俺はエクソシストキング。馬悪魔は見事にその六本脚を絡ませて地面に転がる。転んだ馬に人差し指を向けてバーン!光の線が馬の脳天を直撃、爆発。


馬を片付けた後は、イカとタコの仁王が息ぴったりに殴り掛かってくるのを避けて、避けて、避けまくる。仁王だから大柄だしパワーはあるのだろうが、動きが大振りなので避けやすい。小学生の頃に、中学生不良に絡まれたときのことを思い出しながら、俺はバックステップ、ちょっとしゃがんで、横にターン。二対一でダンスでも踊るみたいに避けまくって、隙をついて懐に入って、右手はイカ、左手はタコ、それぞれのお腹に掌底を突き当てた。それなりに筋力と、霊力、魔力、あるいはエクソシストパワーのような無形の力を込めたので、悪魔にはそれで充分な致命傷だ。お腹に大きな穴を空けて、イカタコ仁王はまとめて消え去った。



悪魔を全部祓って、サッカーグラウンドに平穏が戻る。社会人サッカー選手たちはまだぼうっとしているけれど、すぐに元通りになるだろう。

俺は俺で、ここへ来た目的をようやく果たす。

流れる川に向かって、大きく手を広げて深呼吸。

ああ、風が気持ちいい。

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エクソシストキング☆ノボル 空殻 @eipelppa

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