エクソシストキング☆ノボル

空殻

#1

ヘイ、レディースアンドジェントルメーン!

エクソシストキング、ノボルの一日が今日も始まる。


顔を洗って、まずは朝ごはんだ。パンをかじって、バナナをかじる。

ノボルは一人、キングは孤独だ。

酒飲み暴れるろくでなし、オヤジは昔に出ていった。

おふくろは俺を一人で育てて、俺がキングになるのを見届けて、あとはポックリいってしまった。

キングがあるのはおふくろのおかげ。

サンキュー、ママン!ファッキュー、パパン!


朝食を終えて俺は家を出る。でも行くのは学校じゃない。

キングには、この町に平和をもたらす責任がある。



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子どもの頃から、俺には、人に取り憑いた悪魔が見えていた。悪魔ってのは色んな形をしているけれど、とにかく取り憑いた人をイライラさせて、イカれた行動を起こさせる。

まだ俺がちっちゃな保育園児だった時、公園で友達のたかしくんが悪魔に憑かれているのを見た。たかしくんの耳元で、親指ほどのサイズの小さな悪魔が、罵詈雑言を囁いていた。

それで、たかしくんが何をしたと思う?たかしくんは、頭を下に向けてすべり台を何度もすべり、頭から砂山に突っ込んではケラケラと獣みたいに笑ってた。そんなことをしてれば、たかしくんの首がベキンと折れちまうのも時間の問題で、何よりたかしくんのその笑い声があまりにもうるさかったから、俺はたかしくんに声をかけた。

たかしくんも、たかしくんの耳元のミニチュア悪魔も一瞬だけ俺の方を振り向いて、その間に俺はたかしくんの左頬を思いっきりひっぱたいた。

たかしくんが、いやたかしくんを操っている悪魔がぶちギレて、俺に向かって掴みかかってくるから、俺はたかしくんの右頬も思いっきりぶった。ほら、よく言うだろ?

汝、右の頬をぶん殴ったら、左の頬も張り倒せって。

とにかくそれでたかしくんの悪魔が動きを止めたので、俺はその悪魔を思いっきり掴んで、握りつぶした。一瞬だけ甲高い声がブザーみたいに響いて、あとはそれっきり。手を開いても、そこにはもう何もなかった。


それからの俺は、悪魔を見つけるたびに、その悪魔を潰すことを繰り返した。悪魔が自分にしか見えないってことはとっくに気付いていたし、悪魔に触ってぶん殴ったり踏みつぶしたりできるのももちろん俺しかできない。

悪魔を潰して回るのは、別に人助けをしたいってわけじゃなかった。悪魔の姿は、俺にとっては例外なく気持ちが悪いものだったし、悪魔に取り憑かれた人の奇行はとにかく不自然でイライラしたから。

そうやって小学生になってもずっと悪魔退治を繰り返して、そうすると仲のいいヤツの何人かは、俺が何かとんでもないことをしているってことだけ漠然と理解したみたいで、俺が潰した悪魔に取り憑かれていた人たちもなんとなく俺に感謝をしたりなんかして、そんなこんなで俺は気が付いたら『キング』と呼ばれるようになる。


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家を出てから、俺は特に目的地を定めるわけでもなくさまよう。

今の季節は夏の終わり、日に日に気温が下がり始める時期。

今日はそれなりにいい天気、それなりに青い空で、風も少しあって気分がいいので、俺は鼻歌混じりに町を歩く。曲名は知らない、外国のロックバンドの曲。やけに『ファック』と『ロック』が多かったことだけ覚えているが、まあ気分を上げるにはいい曲だ。

普通の学生は学校に行っている時間だが、学生服を着た俺が出歩いていても、町の人間は何も言わない。商店街の肉屋のおばちゃんなんか、俺にコロッケを渡してくる。朝飯を食ったばかりだが、俺はもちろん受け取る。熱い。うまい。


商店街に最近できたゲーセンの前を通り過ぎようとして、俺の耳に怒声が聞こえる。ゲーセンの脇の路地から聞こえてきたので、そちらに向かうと、トサカを立てたヤンキーが、眼鏡をかけた子ども相手にカツアゲをしている。

ヤンキーの背後に、背後霊よろしく黒い影がまとわりついていて、俺はそれが悪魔だと一目で悟る。

俺はわざと音を立ててヤンキーに向かって歩いていく。ヤンキーと悪魔がまとめて振り向くので、俺はまとめて右フックを食らわせる。ヤンキーがぶっ飛んで、悪魔もぶっ飛んだ。唖然とする眼鏡のガキに俺は笑いかけるが、ガキは泣いて逃げ出した。なんでだ?と思うが、ヤンキーにカツアゲされているところに別の人間がそれを殴り飛ばしに来るんだから、それはもう恐怖のキャパオーバーってことかもしれない。ちょっとした大怪獣バトルだ。

立ち上がろうとするヤンキーの背中に俺は手を伸ばし、悪魔の首根っこをつかまえて、無理やりヤンキーから引き離す。悪魔を引き剥がすのはどうも相当の苦痛を伴うらしく、ヤンキーが悲鳴を上げる。だけど許してほしい、悪魔祓いってのは痛みを伴うものなんだ。

人間から引き剥がした悪魔は、急激に体のディテールがしっかりしてくるみたいで、今や俺が首を掴んでいる悪魔はただの黒い影でなく、羽毛の無い裸のニワトリの着ぐるみのようなすがたになっている。大きさはヒトの背丈の半分くらい。気持ち悪い。あと、『裸の着ぐるみ』って何か矛盾している気がする。

俺は肩と脚に力を入れて、その裸ニワトリ悪魔を空高くぶん投げる。野球のボールのように、悪魔は高く真上へと飛ぶ。商店街の両脇のビルよりも高く。俺は右手の人差し指を立てて銃の形にし、指先を宙に浮いた悪魔に向けた。

バーン!

俺の口から飛び出すセルフ効果音と共に、指先から光の線が飛び出して一直線、悪魔の体を貫く。悪魔は爆発、断末魔。

もちろん、悪魔は俺にしか見えないし、指先から発射する光の線も、爆発と断末魔も、俺にしか認識できない。だから、何も知らない人が見れば、俺はヤンキーを吹っ飛ばした後、何もない空間を掴んで放り投げ、空に向かって鉄砲を撃つ真似をする変人だ。絶対に理解はされないだろう、キングは孤独だ。

それでも俺はキングなのだから、この町の治安を守る義務がある。


まだ朝の十時を回ったところだ、俺のパトロールはまだ続く。

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