小さな妖精さん達の神様になりました!頑張って村をよくしていきます!

雲貌

第1話 女神さまにおねがいされちゃいました!

 僕は、藍園 鏡太郎といいます。なかなか恥の多い人生を歩んできましたが、それでもなんとか頑張って生きてきたと思います。

 僕の家はとても貧乏でした。父は酒飲みで、僕や母に暴力こそ振るいませんでしたが、いつも家にいなくてたまに帰ってきたら顔を真っ赤にして眠ってばかりの人でした。僕の母は、僕のことを母なりに必死に愛してくれていたと思いますが、僕より好きな大人の男の人が何人もいました。小学校も中学校もあまり好きではありませんでした。勉強はいつも難しくて、運動も得意ではありませんでした。僕はいつも髪がボサボサで、同じ服を着て、給食は本当に必死で食べていました。だからかは分かりませんが、いじめられたりもしました。だけど生物係、生物委員の仕事は本当に楽しかった!うさぎのぺけちゃんは僕の小学生時代の唯一無二の友達でした。毎日昼休みと放課後は飼育小屋にいました。小屋の掃除や水換えも言われているよりたくさんしました。中学校では環境美化委員に入ってパンジーやチューリップの世話をしました。草取りが大変だったけど、あれも楽しかったなあ。そんなこんなで僕は中学を卒業して、父が勤めていたお弁当を作る工場で働き始めました。本当は動物園の飼育員さんになりたかったけど、情けない事に先生にも親にすら言えませんでした。本当に僕は恥ずかしい人間です。だけど工場で働いているうちに何人かの人にとてもよくしてもらいました。本当にありがたくて、感謝してもしきれません。

 僕が工場で働き始めて18歳になった頃、ほとんど同じ時期に父と母がそれぞれ蒸発してしまいました。残されたのは僕が一生働いても返せないかも知れないほど大きな借金でした。深夜のアルバイトも掛け持ちして、手元に残った少ないお金をなんとかやりくりして今日まで生きてきました。でももう駄目みたいです。無理して働きすぎてしまいました。さっきから視界がぐらぐらするし、頭は熱っぽいし、心臓はバクバクしています。自己管理も出来ない人間はだめだ、と工場長さんの言葉が耳に痛いです。今は1人で古いワンルームの賃貸で横になっていますが、もしも部屋の中で死んでしまうと大家さんに迷惑かけてしまうかも。僕は必死になって外に出るとすぐそこの川原まで震える足で頑張って歩きました。そして、倒れるように横になります。季節は夏で、もうすぐ朝です。しばらく横でじっとしているといっぱい生えた草の隙間から太陽がぴかりと輝きました。


「きれいだなあ...」


 とても綺麗な朝日を見て、僕は幸せだと感じました。一筋だけ、涙が目から体の外に出ていくのが分かりました。そしてゆっくり目を閉じるとだんだんと意識が薄れていくのを感じました。


⬜︎⬜︎⬜︎


 目が覚めると青い空が上にあって、僕の足元には教科書で見たような宇宙がそこにありました。びっくりして起き上がると、遠くから髪の長い女の人がこちらに歩いてくるのが見えます。きらきらと宇宙のような色をした髪の色です。とても不思議で、とても綺麗だと思いました。


「こんにちは、藍園 鏡太郎さん」


「あっ、はい!あの、こんにちは!」


いきなり声をかけられました。しかも僕の名前を知っています。誰なんだろうと思うと同時に、緊張しすぎて固まりそうになりました。こんなに綺麗な若い女性と話したことは人生で一度もありませんでしたから。



「ふふ、私はあなたの人生で1番綺麗な女性ですか?嬉しい事を思ってくれますね」


「ど、どうして僕の心が」


「読めるんです。だって私は女神様ですから」


「め、女神さま?」


「そう、女神様」


自分を女神様と名乗った女の人はそう言うと、僕の目の前までどんどん歩いてきます。顔と顔の距離がもう10cmもないんじゃないかってぐらい近付いてきて、僕は恥ずかしくて目があちこち泳いでしまいました。

 すると彼女は僕の両頬を両手でそっと包んできたのです!僕は一瞬で頭が爆発してしまいました。


「あなたにおねがいがあります。鏡太郎さん」


「は、はいっ!!ががが頑張りますっ!!」


 内容も聞かずに僕は女神さまのおねがいを受け入れていました。


「ふふっ、面白い人」


そう言って女神さまは僕に語り始めました。


「いいですか、あなたは不幸なことにもう死んでいるのです」


「そうなんですかっ?!」


「はい、そしてあなたには今二つの選択肢があります。一つ目はまた記憶を無くして同じ人生を歩む選択肢」


「人は死んだら地獄か天国に行くかと思っていました」


「いいえ、人は繰り返し同じ運命を辿り続けるのです。人だけではない、この世界の意思あるもの全てがそうです。通常は逃れられないこの円環を人は永劫回帰、と呼ぶそうですね」


「む、難しくてよく分からないです」


「無理に分かろうとしなくても大丈夫ですよ」


そう言ってにっこりと女神さまは微笑む。優しすぎます。


「はい、私はとても優しいですよ」


また、心が読まれてしまった!


「あ、あの、もう一つの選択肢とは...?」 


「よくぞ聞いてくれました!それは、私の下で神様として働きませんか?という提案なのです」


「ど、どういう事でしょうか?すみません、僕の頭が良くないせいで、おっしゃる意味がよく分かりませんでした...」


「そう自分を卑下しないください。一つずつ説明していきますね」


「はい!」


「まず私はあなたと異なる世界の神様、要は管理者をしているのです」


「女神さまってすごいんですね」


「はい、すごいんです。そしてその世界にはペカプーという種族が存在しています」


「ペカプー…?」


「はい、ペカプーは小さな妖精の一種です。翅は持っていませんが、とてもすばしっこくて可愛いのです。これを見てください」


そう言うと、女神さまは指先を僕の頭にコツンと触れました。すると、白くてもこもこした、ずんぐりむっくりの生物の映像が頭に流れ込んできたのです。


「わぁ!可愛いすぎる!」


「そうでしょう、そうでしょう。早い話、この子達の面倒を見て欲しいというお願いなのですよ」


「お世話すれば良いんですか?」


「いえ、彼らは立派な高度意識生命体です。お世話、というより導く、というのがあなたの役目なのです」


「みちびく...ですか。誠に申し訳ありませんが、僕は頭がよくありません。だから間違った方向へ導いちゃったりしたらと思うとすごく怖くて...」


「お気持ちは十分分かります、ですが今ペカプーは絶滅の危機に瀕しています。強い種族に押し負けて、数に数を減らし、現在はその数がなんと13。本当にギリギリなのです」


「た、大変だ…!」


「そうです、ですが私はこの世界の管理者。ペカプーもその他の種族も平等に愛さねばなりません。つまりはどちらかに肩入れ出来ないのです。さらには平素の管理業務もここ数百年はとてつもなく膨大で、非常に大変な状況なのです」


「女神さまも大変なんですね…」


「しかし、あなたがペカプーの神として赴任すれば全てが解決するのです!」


女神さまはそう言うとくるくる踊り始め、不意に僕の両手を握りしめた。


「心優しいあなたにしか頼めません。ペカプーの神様に、なってくれませんか?」


「は、はい!!全力で頑張ります!!」


僕にも出来ることが、あるんだ。そう思うと心がすごく熱くなるのを感じました。それに今までの人生、これほど誰かに必要とされた事はありませんでした。僕はぎゅっと女神さまの手を握り返します。


「では契約しましょう。---汝、女神ハルハライアの名の下に我が眷属の一柱として神にならん事を」


そう言うと、女神さまは僕の頬に口付けをしました。また僕の頭は爆発しました。


「では、あなたがペカプーの希望とならん事を」


女神さまはそう言って微笑みます。僕はなんだかすごく、眠く....なって.....き........












ep1.虚飾に塗れた女神は微笑む




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