クークゥポッポー株式会社
結騎 了
#365日ショートショート 185
男は、クークゥポッポー株式会社に勤め、十年になる。長年勤めた商社からの転職。そこにどんな想いがあったのか。
「最初はこの仕事も、どうかと思ったんです。毎朝が早いですし、なかなか自分の実績が認知されにくい。でも、ある時に気付いたんです。これの社会的意義の大きさに」
早朝、四時。スマートフォンのアラームを消し、男は起床した。会社から支給されたグレーの作業服に着替え、夜明け前の住宅街を歩いていく。芝生が綺麗な公園には、同じ作業服をまとった数人が集まっていた。彼らがこの地区の担当である。
「ここで毎朝、集会があります。ブロックリーダーから直近の事例が共有されるんです。主に、市民からの目撃のヒヤリハットが多いですね。参考になります」
集会を終えると、男は配置に向かった。ある大きな戸建て、それに沿って道から少し入った暗がり。スタンバイを終え、あとは待つばかりである。
「練習はもちろん大変でした。でも、仲間も頑張ってますから。三件隣には池田さん、反対側には茂木さんが配置についています。二人ともこの業界のベテランですよ。私も、もっと頑張らないと」
夜明けから少し、作業の時刻となった。
男は口を尖らせ、あえて音の響きを意識しながら、音程を下げて上げて、伸びる音を奏で始めた。自在な声色である。クークゥポッポー、クークゥポッポー、クークゥポッポー。一定のリズムを繰り返していく。その様はとにかく正確だった。
「鳩が鳴いてると、そう思っている人もいるそうです。それはそれでいいんです。自分達の仕事が伝わっている証拠ですから。収益の構造としては、各都道府県からの補助金で成り立っている弊社ですが、やはりそれだけ、この音がもたらす効果は大きいと思うんです。国全体が我々を必要としてくれる、ってことですからね」
男は、朗らかに笑った。
「クークゥポッポー。クークゥポッポー。クークゥポッポー」
その両の掌は、嬉しそうにはためいていた。
男の挑戦は、続く。
クークゥポッポー株式会社 結騎 了 @slinky_dog_s11
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