最終話

重たい斧の振り上げる為に踏ん張っていた為か、折れたヒールを脱いでから緊張で汗ばんだ肌を拭った。



「ふぅ……」


「「「「……………」」」」



斧の柄から手を離して、クルリと後ろを振り向いた。

頭の中はベルジェを守れた達成感でいっぱいだった。



「ベルジェ殿下、大丈夫でしたか?」


「ぁ…………あぁ」


「……?」



そのままクルリと周囲を見回すと、呆然としながら此方を見る皆の姿を見て体が強張った。


(え……?もしかして、やり過ぎた???)


アイカは力が抜けたのか、その場にへたり込んだ。

恐怖からかガクガクど腕が震えている。

彼女の足の間には見事に斧が床にめり込んでいる。


(このままだとやばい……!?)


言い訳を考える為に瞬時に考えを巡らせていた。

アイカが剣を向けた先にはベルジェしか居なかった。

何故ならば、ジュリエットは斧を取りに行っていたからだ。

実際にはジュリエットに向けようとしたのだろうが、ベルジェに向いてしまった。


(これ……!使えるかも)


このままアイカを帰す訳にはいかない。

大きく息を吸って、自らを落ち着かせた後に、アイカに向かって口を開く。



「アイカ様……!ベルジェ殿下に剣を向けるなんて許される事ではありませんわ」


「ひっ……!」



声を掛けると、アイカの引き攣った悲鳴が聞こえた。

しかし、時間が止まったかのように動かない周囲の人達。

ふと過るのは騎士達に連れ去られる自分の姿……。



「あの……正当防衛ですよね!?」


「…………」


「大丈夫ですよね!?」



強めの確認をしていると、返ってきたのは背後からの優しいハグだった。



「ありがとう、ジュリエット嬢……守ってくれた事、嬉しく思うよ」


「……ベルジェ殿下」


「ジュリエット嬢の言う通りだ。アイカ嬢を連れていってくれ」



ベルジェの指示でアイカは騎士達に引き摺られるようにして連れて行かれた。

放心状態の彼女に向けられる視線は冷ややかなものだった。


そしてリロイに何の見せたのか問うと彼は黒い笑みを浮かべながら「内緒……」と答えたのを聞いて背筋がゾッとした。



「もうアイカ嬢とは会う事もないだろうね……」


「……リ、リロイ様。一体何を」


「掃除だよ、掃除……これもバーズ公爵家の仕事のうちさ」



そして騎士の一人に紙を持っていくように頼んだ時のリロイの笑みが心から楽しそうであった。


皆が誘導されながら疎に会場に戻って行く中で、キャロラインとルビーと無事を確かめるように抱き合っていた。

そしてリロイはキャロラインを連れて、ルビーはモイセスに連れられて会場に戻って行った。

全ての問題が解決した事でスッキリとして気分爽快だった。


残された部屋の中で、ベルジェと目を合わせてから二人で顔を真っ赤にしながら視線を逸らした。



「…………」


「…………」


「戻ろうか……」


「はい」



けれどベルジェの足はピタリと止まったまま動かない。

顔を上げるとベルジェが真剣に此方を見つめていた。



「改めて、俺はジュリエット嬢のことが好きだ!その…… 勿論、異性として『愛している』と、いう意味で」


「…………!」


「前向きに、考えてくれる事……とても嬉しく思う」




顔を真っ赤にして瞼を閉じているベルジェの手を掴んで引き寄せてから頬に擦り寄せた。


(やっぱり、この気持ちは恋なのかな……)


ドキドキと高鳴る心臓……本当は分かっていた。

皆の前で恥ずかしくて答えを濁してしまったが、今ならばハッキリと言える。



「私もベルジェ殿下が好きです……!」


「…………ッ」


「フフッ、両想いですね」



そう言ってから、背伸びをしてベルジェの頬にキスをする。

すると彼はその場で口元を押さえた。

そして……ベルジェの手のひらの隙間から赤い液体がポタリと滴った。



「えっ?血……っ!?ベルジェ殿下ッ!?」


「すま、ない……刺激がっ…………ゴフッ」


「きゃあ……!誰かあぁあ!誰か来てッ!ベルジェ殿下が……!ベルジェ殿下、しっかり!!」



その声に先程、出て行った筈のモイセスやルビー、キャロラインやリロイが直ぐに駆けつける。

恐らく扉の外で様子を伺っていたのだろう。

けれど、今はその事に怒っている場合ではない。


ルビーがモイセスと共に居る際に持っている鼻血を吹いた時用の大量の布で顔を押さえた。

キャロラインはジュリエットとお揃いのドレスが鼻血で汚れたことにカンカンに怒っていた。

リロイは「また僕とジュリエット嬢と買いに行こう?」とキャロラインを慰めるように抱き締めている。

モイセスはベルジェに何かあったら困るからと医師を呼んでくると、すっ飛んで行った。

ルビーはそんな背中を嬉しそうに見つめている。


近くにあったソファにベルジェを寝かせて布を取り替えていると……。



「すまない、ジュリエット嬢……パーティーの日に、こんな……かっこ悪い姿ばかりを見せてしまって」



そんなベルジェの言葉に首を横に振った後に耳元で囁くようにいった。



「完璧なベルジェ殿下より、今のベルジェ殿下の方がずっと好きです」


「ーーーーッ!?」



そう耳元で囁くとカクリと力が抜けた首……ぐったりとした体とだらんとした腕を見て驚いてしまう。



「え……!?ベルジェ殿下……!リロイ様、ベルジェ殿下がッーー!」


「あーあ、これは前途多難だねぇ」


「お兄様……相変わらずヘタレ過ぎますわ」


「大丈夫よ、ジュリエット!わたくしもよくなるけど、意外と体に影響はないわ」


「ッ、ベルジェ!!医師を連れてきたぞ!!早く見て下さいっ」



医師は気を失ったベルジェの体温や脈を確認している。

しん、と静まり返る部屋の中で落ち着いた声が響いた。



「うむ…………恋ですな」





 



Happy end……?


ここまで物語を読んで下さり大変嬉しく思います!

ありがとうございました(*´-`)

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【電子書籍化決定】婚約破棄から始まる悪役令嬢の焦れったい恋愛事情 やきいもほくほく @yakiimo_hokuhoku

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