前日譚─4

メトが倒れてから一週間

体調はかなり回復し、元気に校内を走り回る姿すら見られるようになってきた。


けれどその他六人の顔色は暗い。

彼女らはメトが倒れた事で、より明確に「期限」を知覚してしまった。


─少し経緯を説明しよう。

メトは青の侵食から人類を守る研究の最初で最後の成功体。

残りの彼女ら六人も被検体として研究室に所属しており、皆孤児院出身だった。

彼女らが選ばれたのは孤児は身寄りがないから実験体として都合が良いとか、あらかたそんな理由だろう。

約10年程前、何処からか「新種の青い花」が発見された。後々それは発見と言うよりは「発生」である事がわかった。

青い花は観測する限りありとあらゆる物質に茂り、蝕み、犯していく性質を持ち。

青い花に咲き誇られた物には真っ白な結晶が生え、また、それ自身もそのように変質する。

どうやらその白結晶が青い花にとっての雄蕊であり、その結晶に直接触れたものは青い花の種が付くという仕組みらしく

大気物質も微量ではあるが種を付着させてしまうため、人間への侵食原因の多くは空気感染となった。─もちろん青の花、白の結晶を直接触れてしまえば感染は免れないが。─

青の花に感染した人間の症状。

第1段階は皮膚が部分的に青く染まる。基本、指先などの末端から進むことが多い。それ以外の症状はまだ自覚できない。

第2段階は青く染った皮膚から芽が生え、青い花が咲く。少しづつ、染まった部位の感覚や機能が薄れていく。

第3段階は全身が青に染まり、身体の至る所に花が生い茂る。その頃には話す事も動くことも出来ず、ただ植物の様に成る。

第4段階では遂に身体が白結晶化していき、本格的に機能を失い死んでいく。


感染することを、見た目通り「青に染まる。」と、人は呼んだ。


一瞬だった。世界は青に染まり、白を呼んだ。

必死に対抗策を講じたがなかなか活路は見えず。

ただ、何故かいくつかの動物には侵食しないことが解り、その原因を突き止めると共にそれらの動物の様に人間を人工的に進化させよう。と研究を進めたのが彼女らが所属した研修室だった。


その唯一の成功例がメトであり、侵食の影響を受けない人間となった。

ほか六人も少しその実験の恩恵があり、メトの髪を身体に結ぶとメトの侵食耐性に同期して空気感染等の軽量であれば青への耐性を得ることが出来る。

けれど、その方法は副産物で、意図していないものでありどのようなリスクがあるか分からなかった。

そのリスクを研究していた時、研究室は突如青に飲まれてしまった。

原因は分からない。と言うより彼女たちにとってはどうでもよかった。皆、ただひたすらに走り、逃げた。


そして、行き着いた先が今居る廃校。という訳である。

研究室を出る時ハルマがメトの研究資料を手当たり次第に持ってきており、そこで知った最悪の情報が「メトの同期限界」であった。


この一週間、六人はメトに隠れて端から端まで資料を読み漁り、期限がそう遠くないことを確認。

そして新しく「青の耐性を持つ為のもうひとつの方法」を知ることとなった。


だがそれは、とても、残酷な物であった。

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