第411話

「酒? お、おういくぜ! というかどうしたんだ旦那」


「これ翼徳! 愚弟の無礼をお許しを。島将軍、何用で我が陣営にいらしたのか、意図をおきかせいただけますか」


 関羽が警戒して緊張する、意趣返しに現れた可能性が高いだろうと。その時にはどうすれば劉備の為になるか、思案を巡らせる。


「今度会ったら飲もうって約束だったから丁度いいと思ってな。なあ趙雲」


「確かにそのお言葉承っております!」


「旦那が酒に誘ってくれるなら行かないわけねーじゃんか!」


「ということだ。関羽もどうだ?」


 殺しあったことなどどこ吹く風で言われてしまい、関羽は目を閉じて少し頭を捻る。目を空けて島介を見て、何かを企んでいるような様子ではないと頭を振った。


「ご好意に感謝いたします。長兄の判断を仰ぎたく」


「悪いが劉備殿も一緒にどうだと聞いて来てくれ。ところでどうだ、うちの若いの、呼廚泉というんだが伸びると思わんか?」


 次から次へと勝てない相手が出てきて、自身を大幅に失ってしまったかのようにしおらしくなってしまっている。実のところこの時代の特異点スポット巡りというのは島介しか知らない事実だ。張飛が近寄り肩をバンバンと叩く。


「おーいいじゃねぇか! なあ子龍」


「なかなかの逸材かと存じます。将来が楽しみです」


 まるで学校の下級生を値踏みするかのような力関係に呼廚泉以外が笑ってしまう。


「だろ。こいつには知らないこと知る、その違いを学んでほしくてな。呼廚泉、趙雲は何があろうと正義を貫き、命に実直で、困難に向き合うことが出来る男だ覚えておくといい」


「自分にそのようなお言葉を、島将軍有り難く!」


「おいおい、じゃあ俺はなんだ俺は!」


「これ翼徳、何を騒いでおるのだ」関羽と劉備がやって来てそちらを向くと互いに一礼した「ご訪問歓迎いたします」


「急に悪い。俺の感想をちょっと話していたところだ」


 趙雲の喜色を認めて、小さく頷く。その劉備の姿をみて関羽が口を開いた。


「どのような感想でしたでしょうか」


「うん、関羽は強い相手に決して屈することなく、弱い者を庇護し、絶対に劉備殿を裏切ることが無い無双の勇士だ。そんな感じのをだな」


「我が愚弟のことをよくご存知で。感謝致します」


 部下を評価されて嬉しいのは誰でもそうそう変わらないが、劉備は儀礼的にそう返したに過ぎない。ただ、真実を述べているというのは認めた。


「だからよう、俺はどうなんだよ旦那!」


「張飛は酒の飲み過ぎでいつも叱られてるのが良くわかるよ、ははは」


「いや、そうじゃなくて、意地悪しないでくれよ!」


 劉備は目を閉じてなにも言わず、関羽はすまし顔でその通りという感じだった。趙雲は笑っている。


「そうだな、度胸満点で一人で万の軍勢を相手にしても退かず、勇猛果敢に軍勢を先頭で指揮する猛将。だがお前の最大の特長は、やはり劉備殿の想いを代わりに声に出来るところだろうな」


「だろぉ! やっぱり旦那はわかってるよな!」


「さっきも言ったが悪酔いで大失敗は頂けんからな、お前は要注意だ。深酒が許される条件は一つだけだぞ」


「条件? それはなんだ?」


 これについては皆がそれなりに興味があったようで注目が集まる。


「張飛を叱ってくれる、劉備殿か関羽が居る場なら良い。それ以外では絶対にダメだな」


 何とも言えずに張飛が一番深く納得してしまった。確かにその条件なら許されるし、絶対に叱られていると想像してしまう。


「そんなわけで、張飛の為に劉備殿も酒宴に参加しないか、全てこちらで用意する」


「愚弟のことでそこまで理解を示されては。喜んで参加させて頂きます。だが翼徳、正体不明になるほど酒を飲むのは許さんぞ」


「そんなぁ」


 二人のやりとりに、その場の皆で大笑いしてしまった。なぜ他所の部将らにこうまで言えるのか、そしてそれが受け入れられているのか呼廚泉は僅かな時間にあまりに多くのことを体験してしまった。


 酒宴の翌日だ、薊内各所に滞在している各軍に戻って戦の準備を行うことになる。参謀らの主な仕事は情報の交換、それぞれの知恵袋が朝から集まってずっと会議を行っていた。担当は当然荀彧だ。そしてもう一つの大切な仕事、島介はそちらに立ち会っていた。


「ここが主要な倉庫になるわけだが、結構なものだなこれは」


 城内に立てられている四角い倉庫、その中にはぎっしりと様々なものが詰められている。火気厳禁で、壁も石や煉瓦でつくられていた。焼き討ちが出来ないだけで、安全面では結構な差が出て来る。


「凄まじいものですなこれは」


「兄者の言う通り、ここまでの備蓄とは……」

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