第341話 編制表


「ではお互い水に流すということでいかがでしょう」


「それが宜しいでしょう。歓待の準備をしてありますので、こちらへどうぞ」


 そうか、張貌とはこういうやつか。人が好い、そのおかげあるいはそのせいで色々と影響されてしまうんだろうな。曹操の奴の友人らしいが、こいつが曹操に合わせてやっているってところだな。酒と少々の肴を用意されて、後半は茶だった。自らも質素倹約ということか、清廉な人物だな。


「劉岱殿が戦死され、州が乱れぬようにと仮の刺史を名乗っているが、張貌殿はいかがでしょう」


「惜しいお方を無くしました。朝廷が合議して刺史を派遣して来るまで待つのが筋ではありますが、それでは民が余計に被害を受けるのみ。不敬越権ではありますが、速やかに秩序をもたらす者が冤州には必要です」


 本来は確かにそうなんだ、好きでそうしているわけではないという話だよな。何のための制度かというと民の為なんだから、こういう形なら許されると思いたいものだ。追認があれば、劉協がはなからそうすべきだと思っていた、という結末になるらしいからいいだろ。


「私では政治をみる能力が無いので、ここに居る荀彧に州の西半分を任せ、任城に居る荀攸殿に東半分を任せることにしようと考えています」


 事実だぞ、これに関しては譲れん。荀彧らに全権限を与えた方が絶対により良い未来になる、断言しても良い。


「荀氏の知恵を借りられるとは、冤州にとってなんと喜ばしいことでしょうか」


 同意だ、全くその通りだね。なるほど、張貌という奴は終始こういう態度か、これならば気難しい奴や尖った奴でも付き合えるというものだ。


「時に、中牟の朱儁将軍についてはどのようにお考えで?」


 これには俺にも定まったなにかがないんだよな、より詳しいだろう人物に尋ねるのは悪くないはずだ。こうしたいという想いがあれば、出来る出来ないを別にして教えて欲しいと思っている。


「ふむ。そうですなあ、志は素晴らしいですが、恐らくは……」


 ほう、張貌にそういわせるということは今一つか。何度か朱儁の顔は見たことがあるが、結構良い将な気がしたんだがどうかね。


「董卓相手に真っ向挑む姿勢は諸兄らにも支持されていると思いますが」


 髭を撫でて大きく息を吸い込むと目を閉じる。どこまでを明かすか、あるいは何を語るかを悩んでいるんだろうな。


「私は孫羽将軍の意志を継ぐ者として、何があろうと劉協を支えるつもりです。この世の全てを敵にしようと、絶対に味方であり続けると誓いましたので」


 息を吐くと天を仰ぎ大きく頷く。心が決まったかのように目を開くとこちらを真っすぐにじっと見つめて来た。


「恭荻殿を特別に見ていることは孫公からも聞いております。宦官の乱における恭荻殿のご活躍も、小黄の屋敷を始め全てを継承されたことも。それに比べ朱儁将軍は皇帝陛下の配下であることをこそお選びになるでしょう」


「というと?」


「たとえ佞臣を介したものであっても勅令に従うことを良しとし、全てを投げ打ち参じる姿が見えます。志高くとも決して叶うことはありませんでしょうな。なんと勿体ないことか」


 うむ! そこまで見えているのか、張貌とは俺が思っていたよりも鋭い人物のようだ。朱儁は大一番で全てを逃すような奴だったか。行いは正しく、されど叶わず。乱世ではなくもっと平和な時代に生まれて居れば別の評価を受けたんだろうな。


「世の乱れは長く続くでしょう。その時、自分に何が出来るかを追求したいと考えています」


「そうでしたか。私などは精々郡一つを維持するので精一杯、恭荻殿のお志が成就するよう祈願致しましょう」


「張貌殿がそうして陳留を守ってくれているので、多くの者が救われるのです。私は貴殿を尊敬します」


「どうか皇帝陛下をよろしくお願いいたします」


 翌朝陳留城を発つ。僅か一日の距離でしかないが、次訪れるのはかなり先の話になるだろうと感じながら。何事もなすことなく再度会うこともあるまい、張貌殿こそ国士だ。


 初平三年四月、西暦では百九十二年のことだ、朝廷からの使いがやって来て、正式に各種の任官の追認が得られた。諸々の官職の整理をするために、各地へ発信を行った。


192現在年齢

冤州刺史恭荻将軍・島介(伯龍)39

 冤州別駕従事恭荻中郎将・荀彧(文若)29

 冤州別部司馬・文聘(仲業)25

 恭荻別部司馬・趙厳(伯然)21

 恭荻宿営司馬・典韋(温伯)36

 冤州司馬・牽招(子経)24

  騎督・北瑠47

潁川太守・張遼(文遠)27

  恭荻参軍・郭嘉(奉孝)22

任城相・甘寧(興覇)33

 冤州治中従事黄門侍郎・荀攸(公達)36

 任城軍従事・徐盛(文嚮)30


 

陳相・荀諶(友若)31

済北相・荀紺

 潁川長吏・荀悦(仲豫)44

   陳紀(元方)62、陳葦(長文)26、辛評(左治)24、杜襲(子諸)23

単于・於夫羅41

   孫策(伯符)18、黄蓋(公覆)46、程普、孫河、呂範


冀州牧・韓馥49

 冀州別駕従事・閔純32

 冀州治中従事・李歴42

 冀州別部司馬騎都尉・沮授46

  歩督・沮宋42

 冀州長吏・耿武36

 冀州従事中郎・田豊32

 安国校尉・張合21

 冀州都督従事・趙浮

 冀州都督従事・程喚

 冀州軍従事・審配36

 冀州軍従事・審栄22

 冀州軍従事・張楊37


渤海太守行車騎将軍・袁紹

 行車騎軍師・逢紀

 行車騎参軍・郭図

 行車騎参軍・許攸

偏将軍・高幹


右北平太守奮武将軍・公孫賛47

 奮武長吏・関靖32

 奮武司馬・王門46

 奮武校尉・麹義42

 奮武功曹・厳綱39

 奮武右曹・単経40

 奮武左曹・田偕37

 奮武郎中・田豫26

  騎督・趙雲23

啄郡太守・公孫越42

中山相・公孫範41

漁陽太守・雛丹40

遼東太守・公孫度


東郡太守・曹操37→幽州

 夏侯惇→東郡太守、曹仁、曹洪、夏侯淵、曹昂、戯英(志才)23


平原太守・劉備31

  騎督・関羽

  歩督・張飛


大頭目・臧覇

大頭目・昌稀

 頭目・孫観

 頭目・呉教

 頭目・尹礼

 頭目・孫康


太師・董卓

 太師長吏・賈翅

 太師軍師・楊定

 太師東曹・段猥

奮威将軍・呂布→仮節儀同三司温侯

左将軍・董旻

侍中中軍校尉・董曠

中郎将・牛輔

  郎・支胡赤児

  騎督・李鶴

   李応、李桓、李武、李利、李還、胡封

  騎督・郭汜

   樊稠、楊密、伍習

陳太守(遥任)胡軫

 督軍校尉・華雄

  歩督・張済

  歩督・王方

中郎将・徐栄

  歩督・李蒙


太傅・馬日碇

太尉・皇甫嵩

司徒・王允

司空・淳于嘉

太僕・趙岐

光禄勲・楊彪

車騎将軍・朱儁

前将軍・趙謙

後将軍・袁術

司隷校尉・黄碗

黄門侍郎・鐘揺(元常)42

幽州牧・劉虞

荊州牧・劉表

益州牧・劉焉

豫州刺史・孫賁

徐州刺史・陶謙

揚州刺史・陳温

青州刺史・田恢

山陽太守・袁遺

丹陽太守・周欣

盧江太守・陸康

北海相・孔融

   太史慈

豫章太守・周術

陳留太守・張貌

 軍従事・張升

 功曹・衛恒

広陵太守・張超

泰山太守・応劭

汝南太守・徐蓼

交祇太守・朱符

九江太守・劉貌

河内太守・王匡

南陽太守・張諮

江夏太守・劉祥

偏将軍・馬騰


   徐庶26


賊徒頭目

睦固、千毒、白曉、王当、孫軽、杜長、陶升


25

 州府の執務室に荀彧を呼びつけて今後についての話をする。陳留城での話をして後だ、この前とは違う道筋が浮かんでいるかも知れない。


「さて、諸々の調整は済ませた、ここから先は新たな一歩になるがどうだ」


 任官ほその全てが希望通りの形で落ち着いた、俺的にはな。もちろんそう前置きしたのは荀彧が少し気がかりだと思っているアレだ。


「まずは、数々の困難を乗り越えられ、この場に居られる我が君にお祝いを申し上げます」


「ふん、まだ道半ばにも達していないぞ。それに多くはお前の功績でもある」


 ほんとだぞ、心底そう思っているんだからな。何せ俺だけでは情報が無い、一人なら右往左往しているうちにいつのまにか追い詰められて破滅しているはずだ。


「諸兄らの功だと致しましょう。ですが宜しかったのでしょうか、公達殿を立てられた方が」


「無論荀攸殿には感謝しているし、お前が言っていることもわかっているつもりだ。だがそうだとしても、俺の別駕は荀彧だと決めている」


 別駕とは冤州別駕従事、つまりは冤州副知事だな。刺史が乗る馬車とは別に用意される馬車に乗る者、すなわち副司令官を認めていると皆に示すための属官。そして荀攸殿は治中従事、即ちナンバースリー、別駕に半歩下る。確かに年少の身では気を使うところもあるだろうが、俺の右腕はお前なんだよ。


「必ずやその信頼にお応えさせて頂きます」


「ああ、それで良い。で、今後俺はどうしたら良い?」

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