その7
「ご主人様…。よくぞご無事で!」
「真琴!よくここまで来たな!」
「大変なんだ。リッキーが、目を覚まさないんだ。フィラーに体を呑み込まれそうになって、僕が助けたんだけど、まだ眠りから冷めないみたいで…。」
「大丈夫です。リッキー様は私が看護します。フィラーが体を呑み込む、ですか?実は、ここへ来る途中、私達も子供が黒い男に操られて、「平和の砦(へいわとりで)」へ向かわされたのを見たんです。」
僕たちの会話に、レイブンも大きく頷いて参加する。
「ああ、俺が近づいても、ただロボットみてえに何も言うことを聞かなかったんだ。子供が襲われていることは間違いねえ。それによ、この奥の部屋、子供の声がするんだ。」
「子供の声!?僕が見てきたのは、どんどん子供達がフィラーに操られていく様子だった。とにかく、急がないと全員の命が危ない。ルーク、リッキーは君に任せる。僕とレイブンで、奥に行こう。愛(めぐ)ちゃんを見つけなきゃ。」
「おまかせください。シュナ様からいただいた薬を私にください。私はリッキー様が回復されたら向かいます。」
「ルーク、ありがとう。すぐに合流だ。」
僕の鞄をそのままルークに渡すと、ルークは早速腕をまくって、薬を探し始めた。
僕とレイブンは、チューブが奥の部屋まで続く階段を慎重に昇って行った。確かに、何かが高速で回転するような音とともに、子供達の楽しげな声が聞こえてくる。
「僕の合図で行くよ。中に、沢山の子供たちが閉じ込められている可能性だってある。慎重に行こう。」
レイブンが僕の目を見て頷くと、僕はゆっくりと扉を押して開けた。
その時、僕は信じられないものを目にした。
大量の色も形も違うフィラーが集まって、球状になって、宙に浮かんでいる。子供達の声は、その中から聞こえていた。階段から続くチューブから、フィラーが吐き出され続けていく。部屋中は長いテーブルが横にいくつも並んでいて、椅子がしっかりと収まっていた。赤い絨毯に赤いテーブルクロス、全てが赤で埋め尽くされている。よく見ると、奥に一つ椅子があって、そこに誰かいる。なんか今一瞬、目が合った気がする。
「おい、真琴(まこと)!伏せろ!」
レイブンが僕の頭を掴んで伏せさせた。その瞬間、頭上を何かが霞めて、僕たちの後ろの壁に当たってすとん、と落ちた。数輪のバラだ。鋭い棘の付いた茎に当たっていたら、大けがをしていたかもしれない。
「レイブン、ありがとう。危ないところだった。」
「あいつが俺に笑いかけて、攻撃してくるまで一瞬だった。あいつ、何者だ?」
その人物がいるところまで進もうとしても、フィラーの中の、笑うような叫ぶような耳をつんざく声が大きくなり、あまりの圧力に近づくことができない。
「あの攻撃を交わすとは、さてはお前人間ではないな…。まさかこの儀式を邪魔する者がおらんとは思ったが、二人も邪魔者が入るとはな…。」
その人物は、女の子の声をしていた。だけど、口調が荒々しく苛立っている。待って、あれって、もしかして…、赤いドレスに赤い靴、赤いリボンを付けた小さな「女の子」。それは、今はローザ女王と呼ばれる、夏目(なつめ)愛(めぐ)の姿だった。
「愛(めぐ)ちゃん…!?君なの?フィラーを使って子供達を操って、合戦を始めたのは?」
「誰だ、それは?私はローザ女王だぞ。そんな名前聞いたことないわい。お前たち、この儀式を邪魔するのだから、相応の理由があるのだろうな?」
「儀式って…。あなたは、一体愛(めぐ)ちゃんに何をしたの?」
目の前にいる人物は、もうマサトの友達、夏目(なつめ)愛(めぐ)じゃなかった。ローザ女王になり切っているというか、もう自分の意志で話しているのではなさそうだ。
「この小娘は、ルビーの城が欲しいと言ってな。自らこの城の罠へやってきたところを、乗っ取ってやったのだ。」
「そんなことは、もうさせない!僕は、愛(めぐ)ちゃんを、みんなを、取り戻しに来たんだ。あなたこそ、「儀式」で何をしようとしてるんだ!」
「ハハハ、まあ、お前たちはいずれフィラーに吞み込まれておしまいだろうが、ここまで来れたことを讃え、特別に教えてやろう。子供たちがステージ3で集めているフィラーは、彼らの「想像力を吸い取る容器」なのだよ。子供たちが喜んで使っていくうちに、想像力が全て吸い取られていくのだ。」
「想像力を吸い取る!?」
僕は、リッキーが最後は力を失ったかのようにフィラーに呑み込まれていったのを思い出した。使えば使うほど、想像力が吸い取られていたなんて。
「想像力を失った子供たちは、どうなるか知っているか?後は、命令に従って動くだけなのだ。今の「平和の砦(へいわとりで)」と「ローザ王国」の「ティエラ戦争」は計画の成功を祝う、ちょっとした実験にすぎない。まあ、ステージ2で邪魔者が入ったようだが、着実に子供たちの数は増え続けている。このゲームは大成功だよ。」
ステージ2。僕たちが開放した秀(しゅう)君やサクラやみつば、プレイヤーのみんなだ。あれも、子供たちをお金に夢中にさせて、想像力を奪う、実験だったんだろうか?
「あなたは、悩んで、苦しい思いをして、このゲームに逃げてきた子供を利用してるだけなんだ。そんなことをして、一体何が楽しいんだよ!」
「このゲームは、最初から、小学生の想像力を吸い取って研究し、ゲームで人の買いたいという心を操ることで、我が社を世界で一番のゲーム会社にする、壮大な計画だったのだよ。」
僕は愉快そうに話すローザ女王の話を聞いて、拳を握り締めた。
「ローザ女王を名乗って、愛(めぐ)ちゃんの体を乗っ取るなんて、なんでそんなことをするんだよ。せめて、愛(めぐ)ちゃんを解放してあげて!」
「残念だがな…。無理だ。私の命令が王国全体に行き渡っておるからな。もう少しで計画は完了する。さあ、諦めて帰るがよい。それとも、この正規の瞬間を、指をくわえてみるかだな!ガハハ!」
今もずっと、僕たちの想像力が吸収され続けてる。集まり続けるフィラーに、僕たちは操られる。そんなことを平気でするゲームを作る会社なんかに、負けてたまるもんか。僕は、絶対にみんなを解放して見せる。さっき、僕がフィラーをやっつけて、リッキーを解放したみたいに。そうだ!このフィラーを一つ一つ破壊できれば、子供達が開放されるはず!だけど、どうやって…。
「さあ、もう目障りだ。消えるがよい。」
そう言って、今度はローザ女王が、フィラーを塊の中からいくつも飛ばしてきた。
「レイブン、危ない!」
僕はレイブンの前に立ちはだかった。
「真琴(まこと)!!やめろ!!」
僕とレイブンの「エスケープ・ワールド」 白柳テア @shiroyanagi
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