逆子のアルカナ

葉巻の紅

逆子のアルカナ 1話~完結

1.あなたの爪の長さを見てみたい。


あなたと私の違いを見てみたい。


あなたと私の違いに気づいた瞬間を喜びたい。


あなたのことをもっと知りたい。


あなたの爪の長さを見てみたい。



2.天照


池を眺めていた。

寒空に「げこげこ」と鳴き声が響き、夜の割に賑やかだった。


しゃがんだ僕は、高く伸びた葦の隙間に一匹のカエルを見つけ、見つめる。

カエルは音を立てず、じっとしている。


月が日に代わってカエルの背を照らしている。

その身に溶ける光はどこか妖艶で、僕をいざなっているようだった。


光に焦点を合わせる。視角で縁取れらた世界がぼやけていき、揺らぐ。


「げこっ」


彼女は勢いよく飛び跳ね、僕から逃げた。

……誰もいなくなった水面に、砕けた月がふわりゆらり何枚も。

程なくして元通りになって、寒い風を感じた。



3.逆子のアルカナ


私はあなたと、もう一緒にはいられないの。


生まれも育ちも関係ないと言ってくれた。

それでも、私はあなたと違っていた。

そう生まれたのだから、しょうがないでしょう?

生まれ持ったアルカナが、あなたと逆を示していたの。


そんな顔をしないで、仕方ないの。

あなたと私が出会ったのは、運命が勘違いしただけ。


あなたより好きな人ができたわ。

そして、あなたのことも、本当に、嫌いになったの。



4.正位置


 君が遺書を残して岬に流れたことを知った時から、君が他に好きだと言った人は、探しても探してもどこにも見つからなかった。そうして、僕は君がそういう嘘をついていたんだと知った。


 お互いがお互いを知っていくうちに、彼女がどれだけ絶望していったか。生まれの運命に縛られる中、いくら想いだけが募っても藻掻いても、それが叶わぬ恋だということを思い知らされる。それが彼女にとって、飛び降りるに至るほど辛かったのだ。

 僕も同じ気持ちだ。それでも君と僕が出会ってしまった奇跡を、僕は逆さになっても理解できなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

逆子のアルカナ 葉巻の紅 @hamakare

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る