自分らしく、君らしく

@superojisu

第1話 ラジオ体操

地方都市ならではの丁度良い雑踏と、風の感じ。背中で感じたのは営業所の窓が全開だったからだ。都会過ぎず、田舎過ぎず、一通りのものは揃う、そんな街にある営業所。


良い街だとお世辞なく思う。

生まれ育った人は、自分の街を誇りに思い、

自信満々で街を教えてくれる。


僕も否定はもちろんしない。

笑顔で、できるだけ肯定をし、深く聞いてみたり

なるだけ興味を持っている感を出しながら最高の笑顔で対応する。


工場と併設している営業所では毎朝欠かさずにラジオ体操をする。

営業職も直行で得意先に行かない場合は事務所で作業員の方と共にラジオ体操を行う。


この街に来て約2ヶ月弱。東京ではラジオ体操の日課がなく

めんどくさいなと思う反面、日本の古き良き哀愁を残した

おじさんの元気なナレーターで始まるラジオ体操第一を楽しむ気概もあった。


ふと、背中からあたる風と、スピーカーから流れるラジオ体操の音声が

シンクロした。

一瞬時が止まるくらいの感覚を覚え、ゆっくりと風が背中からお腹を越えて消えていく。


そんな時だ。


僕は何をやっているんだろう。

ここで何をしてるんだろう。


35歳を迎え、仕事はそれなりにこなすふりをするのは得意になった。

一定の成果と周囲を巻き込む能力も覚えた。

敵は作らず、自分から折れることでトラブルから避けてきた。

それなりに職級も上がり、年相応の給料と家族構成。


反面、自分よりも若い子たちがメディアで活躍するニュースを

連日のように目の当たりにする。


僕はきっとそんな子達に心底うらやましいという気持ちがあったのだろう。

自分も活躍して世間を驚かせたい。

世界で有名になりたい。


そんな思いがきっとあったのだろう。

誰も言うこともなく、そんな思いに蓋をして生きてきた。


人生の及第点を狙いながら、バランスを求めて生きてきた。


耳ではなく、体で感じたラジオ体操の音声と心地よい風の感触。


そろそろ、やってみるか。

やるなら今しかないんじゃないか。


ふんわりした思いは、心のなかで一気に燃え上がり

ラジオ体操の後の、朝一のミーティングで手を挙げた。


「所長、ちょっといいですか?」

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