第6話 小休止と不穏な動き③
Another Episode 03
清々しい朝、ライラと一緒に食べる朝食は本当に美味しいと感じる。
ふんわりと焼きあがったパンは小麦の匂いが食欲を刺激する。
そして、さらにこんがりと焼かれたベーコンとふわふわのスクランブルエッグ。
ラピート共和国で火の精霊・サラマンダーを使い魔にしてから、数日が経過したが、私たちはまだラピート共和国にいた。
別にダラダラしていたわけではない。
先の戦いで、サラマンダーを使い魔にしたのだが、その際の消費した魔力量は思いのほか多く、回復に時間がかかっていた。
そして、傷の治癒に関してもじっくりと行っていたのだ。
シュタイナー宰相は渋々了承してくれて、温泉治癒というものを行っていた。
実は、シュタイナー宰相からのアドバイスもあり、私とライラは冒険者ギルドに登録することになった。最初からAランクということもあり、私とライラとしても書類提出のみで何も不満なく登録された。Aランクの上にはSランクがあるのだが、そこに到達するためには、ギルドの仕事をこなして成果を出さなくてはならない。
こればかりは、宰相の力で何とかなるものではない。
いわば経験値が足りないのだから。
とはいえ、Aランクともなれば、言わばゴールドランクなので、冒険における税関の手続きなど多くの面倒な手続きは免除されることになる。これだけでも私たちには十分に助かるものだ。
最終的にはSランクを目指すことにはなるだろうけれど、駆け出しからAランク保持者として認識されていると、仕事が引き受けやすい。
そのせいもあって、ライラは、最近何かと多忙にしている。
どうやら、ラピート共和国から北に2キロほど離れたリヤド村で人命救助の要請が冒険者ギルドを通して、出されたらしい。
その情報収集にあたってくれているのである。
治癒が完了した暁には、次はそのリヤド村の問題を解決しに行きたいと考えたのである。
普通の人命救助であれば、Bランクの冒険者(特にヒーラーがいることが絶対条件)に任せればよいのだが、シュタイナー宰相からもちらっと話を聞いたところによると、その村では最近、立て続けに冒険者殺しを行っている「何か」がいるらしい。
村人たちも恐怖で外出はしていないようだが、そう長い間、自宅に引きこもって生活も難しいというもの。そこで、冒険者にその「何か」を突き止めて、倒してほしいというのが依頼の主旨であった。
「ただいま戻りました~」
私は温泉から上がり、髪を乾かしているところにライラがやって来る。
ライラは疲れた顔をしていたが、私のバスタオル一枚を羽織る姿を見て、疲れを吹き飛ばし、瞬時に私の後ろに回り込む。
「ちょ、ちょっと? こっちは無防備なのよ?」
「ええ、存じ上げております。ですので、愛するライラが主を守るべく現れたわけです」
「普通に帰宅しただけよね?」
「何をおっしゃいますか! 私はエリサ様の侍女でもあるのですから、湯治のあとのお世話はさせていただきます!」
いや、まあ、嬉しいんだけれど、鼻息荒くない?
日に日に侍女の変態っぷりが際立ってきているような気がしないでもないのだけれど……。
バスタオルをライラに託すと、丁寧に水気を拭き取ってくれる。
が、少し身体に触れ過ぎのような気がしないでもないのだが……。
「で、何か分かったの?」
「リヤドの村なんですけれども、冒険者だけではどうしようもないとのことで、近いうちに帝国側が軍を出兵する手はずを組んでいる段階だとか……」
「ちょっと……それ本気なの? たかが、人口100人ほどしかいない村にどうして帝国が軍を出そうとしているの?」
「それはリヤドで採れる鉱石が関係しているのではないかと思われます」
「鉱石?」
「ええ。以前の授業でお伝えしましたよね。ラピート共和国は住宅などの建物に使用できる花崗岩が、そしてリヤドでは金鉱石が採れる、と」
「ええ、確かに聞いていたけれど……。でも、それほどの量が採掘されるようではないと、あなたは以前言ってなかったっけ?」
「ええ、そうです。リヤドの金鉱山はすでに採掘量は昔に比べれば半分以下となっています。とはいえ、まだ未確認の坑道なども多くて、帝国としては今回の救済することで……」
「その恩義で金鉱石を吹っ掛けることが可能ってことね」
「如何にも」
「そう。では、私たちとしては、村の人が可哀想だから、帝国が動く前に解決に持っていきましょう。そうねぇ。私の治癒もかなり済んだから、明日には旅立ちましょうか」
「明日ですか!? エリサ様って本当にお人好しですね……」
「そうね。魔王の娘らしくないわよね? ライラはこんな私のことは嫌い?」
「滅相もありません! 私はエリサ様の容姿だけで好きなのではありません。中身もすべてを含めてエリサ様と思っております!」
「そう。それは私も嬉しいわ」
「それでですねぇ……」
と、ライラが突如、モジモジとし始める。
顔を赤らめていることから、何か良からぬ不安がよぎる。
「頑張って情報収集をしたので、ご褒美を頂けないでしょうか……」
「血が欲しいの?」
「それも嬉しいのですが、今日は一晩、一緒に寝てもかまいませんでしょうか……」
正直言うと、「嫌だ」と言いたい。が、私が湯治をしている間に、彼女も癒え切っていない身体で情報収集をしてくれているのだ。
さすがにそのことを無碍にするわけにもいかない。
「わ、分かったわよ……」
「本当ですか!? やったー! じゃあ、早速ベッドメイキングに移りますね!」
「その前に、あなたも温泉に入ってきたらどう? 汚い身体のままでベッドメイキングしてもシーツが汚れるだけだか―――」
「そうですよね! エリサ様との肌のお付き合いをするわけですから、私が汚いのはいけませんね! エリサ様のご所望とあらば、このライラ、御身を綺麗にしてまいります!」
あ、これは話を聞いていないわね……。て、肌のお付き合い!? 完全にライラの暴走モードじゃない……。
バスタオルと下着を手に部屋を飛び出していったライラを見送ると、私は部屋のテーブルに置かれた地図に視線を移す。
鉱山都市で起こる奇怪な冒険者殺しって一体犯人は何者なの……?
まさか、家出に気づいたお父様が私の意識を振り向けるための罠?
「まさかね……」
私はポツリとそう呟くと、水差しの瓶から一杯の水をコップに入れて飲み干した。
ちなみにこの日の夜のライラはとても激しかった。私を抱き枕の様にしつつ、身体のあちこちにキスをしてくるという変態ぶりだった……。
て、血はいらなかったのかよ――――!!!
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