第6話 小休止と不穏な動き②
Another Episode 02
私の名前は、ライラ・ネクセン。
私は小さいころから、魔王・ルグルアール様の愛娘でおられるエリザベート様に忠誠を誓い、「血の契り」という契約までしていただけた侍女です。
エリザベート様が物心ついたころから、彼女の身の回りのお世話をしてまいりました。
私は、元々、アンドリュー・ネクセン伯爵の長女として生を受けたのですが、侯爵と伯爵間で起こった領地における戦乱に巻き込まれ、家臣に裏切られた結果、家は没落しました。さらには戦乱孤児として、息も絶え絶えであったところを、魔王軍が私を連れ去り、魔王城へとやってまいりました。
そこで、私はエリザベート様と偶然、城中で人体実験をされていたところで出会えたのです。実験後の肉体の処理をどうすべきか悩んでいた研究者からエリザベート様が譲り受ける形で、引き取られることとなった。
私は虚ろな瞳で、周囲の景色をぼんやりと見つめていた。
ここが自身にとって最後の場所になるのかと感じたが、おかしなことに怯えることもなく、ただ、目の前の歳が私よりも少し若い女の子に目がいった。
そりゃそうだ。
その女の子は、透き通るような白い肌に金色の風でさらりとなびく髪、青水晶のような紺碧の瞳が私に対して好奇心以外の何物もない純粋なまなざしが向けられていた。
私はこの子は魔族としては何か変わっている感じがした。
しかし、自身の身はすでに実験によって、身体がボロボロに朽ち果てつつあった。
このままでは死ぬのも時間の問題であろう。
そんな私を彼女は、わざわざ自室まで連れてきてくれたのだ。
そして――――、
「私の名前は、エリザベート・フェンネル。あなたの名前は?」
「わ、私は……ら、ライラ………。ライラ・ネクセンと申します。わ、私は死ぬのでしょうか……」
私は希望も何もないこの世界に終わりが告げられるのかと、目の前の美少女に問いかけた。
彼女は、「ふふっ」と私に優しく微笑みかけ、
「いいえ。あなたは私のために生きなさい。勝手に死ぬことは許しません。いいですね」
そう答えてきた。
彼女は何を言っているのだろう……。すでに私の身体は朽ち果てつつあったのだから、死しか目の前には存在していないのは、私にですら理解できた。
だが、そんな絶望しかない私の前で彼女は微笑んだ。そして、自分のために生きろと言った。
「これから、ライラに新しい体をあげるわ。あなたの魂魄を抜き取って、新しい体に定着させる。馴染めるように自身であとは頑張りなさい」
そういうと、彼女は一冊の分厚い書籍を広げて、その中からひとつの身体を取り出す。
本から身体が出てきた!? どうなってるの?
そんな疑問に答えてくれるわけもなく、エリザベートは新しい身体を私の横に並べる。
その体をそっと横目で見ると、私たちは今、魔方陣の上に並べられている。そして、隣の身体をしっかりと見ると、綺麗な顔立ちをしているが、頭からは角が生え、そして、お尻のあたりからは尻尾が生えている。
こ、これ、人間なの!? て、絶対に違うでしょ!!
「あなたが生き延びる方法はこれしかないの……。許してね……」
エリザベートはそういうと私の胸と新しい身体の胸に手をかざす。
彼女が念じ始めると、魔方陣が赤く光を放ち、力を受け取ったように魔方陣の文様が回転し始める。
ドゥクンッ!!!!!
心臓に大きな衝撃を受け、私は息をするのも忘れて、目を白黒させる。
ここで、死んでたまるものか……。
そう私が願うと同時に、激しい胸のあたりに走る熱さのみを残して、意識が奪われていった。
―――――――。
目を覚ますと、胸の熱さは一切感じなかった。
体をよく観察すると、先ほどの新たな身体に移ったらしい。
「エリザベート様?」
「うふふ。ライラね。成功したわ。上手く魂魄が移動できたみたい。極上の
そうか。この身体は、
おかしなことに違和感など何も感じず、まるで昔からその身体で生きてきたかのような感覚だった。
「あとは生き延びるために、枯渇している生命エネルギーが必要よね……」
そういうと、彼女は人差し指を歯でキッと傷つけると、そこから溢れ出てきた血を私の前に差し出す。
「さあ、この血をなめなさい。これは私とあなたの契約を意味します」
私は半信半疑にその血をペロリと嘗める。
同時にエリザベートが念じると、私と彼女につながりのような何か道が開かれたような感覚に目覚める。
そして、力が一気に流れ込んでくる!
「どう? 私の魔力のお味は?」
「とても、とても、美味しいです♡」
私は蕩けるような瞳でエリザベート様を見つめる。
今から私は新しい第二の人生が始まる。
伯爵令嬢としてではなく、エリザベート様の侍女として生きる新たな人生が――――。
魔族の証ともいえる角が生えたりはしてしまったものの、艶やかな黒のロングストレートは私の容姿を引き立てている。
それに、学力はこれまでの知識が消えることなく残っているということもあって問題なし。身体スペックも優秀で、
私の第二の人生は、愛すべきエリザベート様に捧げることにしたのだ。
私は今、エリザベート様とともにある―――――。
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