第7話 鉱山都市を襲う悲劇!①

 鉱山都市・リヤド―――。

 鉱山都市としての歴史は古く1世紀ほど昔から、地域の人々が採掘作業を行っていたと文献には書かれていた。

 主に金鉱山が主流で、どうやらリヤドの村人たちには、鉱脈を探し当てるプロフェッショナルがいるらしく、鉱脈が途切れることなく、古い鉱脈から金の採掘量が減少してくると、新たな鉱脈が見つけられる、といった具合に、乱開発されるのではなく、「ちょうど良い」採掘量で取り続けられてきた。

 そのせいもあってか、鉱山都市が潰えることもなく、程良く栄え続けることができた。

 ただ、私はその文献を魔王城の図書館で読んでいた時に、ふと疑問を持った。

 果たして、そんなに都合よく鉱脈を見つけることができるのだろうか……、と。

 果たして、そんなに都合よく乱開発を防ぐことができるのだろうか……、と。

 その答えを知りたくなった。

 鉱脈を探し当てるプロフェッショナルが、1世紀もの長い間、生きていることは不可能。

 もしも、それを伝承しているとしても、そんなに都合よく見つけることなどできるはずがない。

 そこで私は考えた答えのひとつ…………。

 それが、土の精霊・ノームだった――――――。



 私は咄嗟に左に飛びのく。


 ヒュルルルルルルルルルル…………ドオォン!!!


 耳障りな音の後に一瞬の間をあけた炸裂音。

 私とライラが、リヤドの村に近づいた瞬間にこれである。

 私が「万物の聖典」を取り出し、次の魔法を放とうとすると、樹の影から別の敵が襲来する。

 全員が黒尽くめの衣装にマントを羽織っている。何とも怪しげな集団だった。


「数は1、2、3……7名ってことろね」


 私は冷静に魔力探知の応用技術で黒尽くめの数を把握する。

 本来、普通の人にも魔力というものは微量ながら存在しているからこそ、できる技なのである。

 それを判断した後すぐに、私は茂みに向かって「氷矢」を数本打ち込む!

 茂みの中からは「うっ!」「ぐあっ!」という低い唸り声が聞こえた。

 あとは5人。


「ライラ!」

「お任せください!」


 ライラはそう言うと、森林の方に姿をくらます。

 本来であれば、自殺行為とも取れる行為だが、彼女は存在を消す魔法をスキルとして使えるので、入ったところで相手に気づかれることは難しい。

 それに気づいたとしても、彼女は今、「身体能力向上」の魔法をかけているので、剣を振り下ろす動作の過程で避けることができる。

 ライラが「身体能力向上」の魔法がかかっている状態だと、私も本気を出さないと正直、命が危うい。


「普通の冒険者だったら目で追おうとするからダメなのよ。あれは魔力感知か、直感で動くしかないわよね……」


 私がクスリと微笑むが、その瞬間に目の前に石礫いしつぶてが飛んでくる。


「水魔法『氷壁』!」


 手で払いのけるように作った氷の絶壁に石礫がはじかれる。

 私は石礫が飛んできた方向に向けて、「氷弾」を複数発、打ち込む!

 奥からはまたしても悲鳴が。

 私は周囲に気を配りつつ近づくと、クリスタルのはめ込まれた杖が近くに落ちている。


「どうやら、魔導士のようね」


 そう言ったと同時に横の茂みががさつく。

 私は即座に迎撃しようと構える。が、その必要がないとすぐに判断した。

 そこから現れたのは、ライラだったのだから。


「いやぁ、あの石礫は凄かったですね。エリサ様の胸のような絶壁の氷の壁で何とか避けれましたね」

「あははは……そうね。ところで、ライラはあの世に行ってみたいの?」


 私はふんわりと柔らかな瞳の奥で笑っていない表情をしてあげると、ライラは一瞬身震いを起こし、


「冗談ですよ、冗談!」

「笑えない冗談は止めてほしいものね……」


 と、私はライラのたゆんと揺れるお胸に憎悪の念を叩きつける。

 その視線に気づいたのか、ライラはそっとお胸を隠すと、


「お楽しみはまた後で♡」

「ふん! 全然楽しくないんだから! 触りたくもない!」

「まあまあ、まだ全員倒したわけじゃないんですから、余裕見せてたらヤバいですよ?」

「あなたが喧嘩を吹っ掛けて来たんじゃないの……」

「それは失礼しました。ところで、あと一人いますよね」

「そうね……。あなたも分かる?」

「ええ、それほど背丈の大きくない相手がひとつ……」


 が、そのひとつはかなり速い動きで私たちの周囲を、間合いをはかっているようである。

 視線で追うというよりはさっきのライラを追いかけるように魔力感知を使っている方が楽である。


「いい加減、姿を見せたらどうなの? それとも、姿を現わせない理由でもあるのかしら……? 土の精霊さん?」


 私がそう言うと、後方から再び石礫が飛んでくる!

 私は振り返ると同時に「氷の障壁」を防ぐ! 飛んできた石礫は、バチバチンと音を立てて、はじかれる。

 が、どうやらそれはフェイントだったようだ。

 新たな気配を感じて振り返ると、真下にノームがいた。

 私は咄嗟にライラを突き飛ばす。

 どうして私は自分の身を守らずに彼女を守ったのだろう。自分も飛び退けばよかったのに……。


「エリサ様!?」


 ライラが叫んだ瞬間、私の前でボンッ!という音と同時に、灰色の煙が私の身に降りかかる。


(しまった………! 避けられない!?)


 咄嗟のことで、結界魔法の発動すらできなかった。


「……君にもこの町の平和を脅かせたりはしないよ……」


 重低音の利いた声が私たちの周りに響き渡る。

 それよりも、何だから身体が重たい……。「万物の聖典」を持つのがつらい……。

 何だか、服が絡まるような感じで、動きにくい……。

 何? 何が起こっているというの……?

 私がジタバタとしている間に、灰色の煙は私の周りから消え去り、視界が開ける。

 目の前にはライラもいる。


「……ライラ……」

「え、エリサ様……ですよね?」

「そうよ! わたちはエリシャよ!」


 何だろう。凄く喋りにくい!

 「さしすせそ」がとっても喋りにくいんだけれど!?

 ライラは私の傍に寄ってきて、心配そうな目で私を見てくる。そして、そっと抱き寄せてくる。

 えっと、何でこんなに簡単に抱き寄せられちゃうの?


「ら、ライラ? どうちたの? わたち、なにか、へん?」

「は、はい……。エリサ様、身体が小さくなられています」


 ライラにそう言われて、私は自分の手を見てみる。

 私のスラリと長い指ではなく、ポニョポニョとした指だ。

 その手で顔をペチペチと叩いてみる。

 明らかに普段の張りのある肌とは異なる子どもっぽい顔立ちになっている。

 ど、どうやら受け入れざるを得ないのだろうか……。


「わたち、こどもになっちゃったの!?」


 私は自身の手を見つめながら、愕然とするしかなかった……。

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